第18話

 少し重苦しくなったダイニングの空気を忘れるように、金太は庭を見せて欲しいと頼んだ。芝のない地面は、夏の強い陽射しが白く反射している。大きな木が繁っている地面は薄くコケが繁茂し、斑模様まだらもように陰ができている。そのあたりはいくらか陽射しは柔らかいものの、耳に痛いほど蝉の鳴き声が降りそそいでいる。

 隣りとの境あたりに、手を入れかけた花壇があった。

「花壇を作ってるんですか?」

「こんな真夏にやらなくてもいいんだけど、家のなかでじっとしてるよりも少し外に出て躰を動かしたほうがいいかなと思ってね。でもこれも見たらわかるように土が乾いてしまってるだろ、それくらい手つかずになっている。まあ、また気が向いたらやるよ」

「ぼく手伝いましょうか?」

 金太は、キャップの庇を後ろに回して両手をズボンの尻で拭った。

「せっかくそういってくれるのなら、いまやりかけている朝顔のツルを巻きつかせる支柱の修理を手伝ってもらおうか」

 老人は助かったという顔で金太を朝顔の花壇に招いた。

「どうすればいいです?」

「いや難しいことはなにもない。ただここにあるビニール管の端を土のなかに埋めるだけでいい。そうだなぁ、5本ほど拵えてもらえばそれでいい」

「わかりました」

 金太はビニール管の片方を土に埋め、もう片方は塀にもたせかけた。5ヶ所拵えるのにそれほど時間はかからなかった。だが、金太の額からは滝のように汗が流れていた。

「ありがとう、助かったよ。これでこの子たちも明日から気兼ねなくツルを伸ばせるよ。さあ、家に入って汗を拭きなさい。もしよかったらシャワーを浴びてもいいんだよ」

「いえ、それよりも、またあのガラスの飾り窓に飾ってあるものを見せて欲しいんです」

「ああ、どれだけでも気に入るまで見たらいいよ。金太くんは余程気に入ったらしいね」

 ふたりが家のなかに入ると、タイミングよく君代さんが冷たいお茶と新しいタオルをリビングに持って来てくれた。さっそくタオルを受け取った金太は、顔はもちろんのこと首筋から左右の腕まで気持のいい汗を拭き取った。

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