第15話

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 夏休みの2日目、朝から暑くなりそうな日だった。午前中に金太は秘密基地から釣り道具を取り出すと、勇んで自転車のペダルを漕いだ。きょうの金太は、魚釣りよりも河合老人に会うことを楽しみにしていた。

 きょうの目的は釣りじゃなかったから餌の準備などしなくてもよかったのだが、竿を持ったまま所在なげにしているのも不自然に思えた金太は、指定席で老人を待ちつつ竿を振り込んだ。やっぱり邪念が入っているからか、まったく当たりらしきものがない。そうなると逆に闘争心が湧いて来て、なんとかこの前と同じくらいのヘラブナを釣り上げたいと思った。だが、悪循環は人の心を嘲笑った。

 反応のない水面を見ながら小首を捻っていたとき、背中で名前を呼ばれた金太は、釣り竿を手から落としながら振り向く。河合老人だった。

「きょうもだめです」

 先に金太のほうから話しかけた。

「そうか、さすがの名人でもだめな日もあるんだ」

 河合老人は冗談めかしていった。

「きょうはもうやめます」

「えらく見切りが早いんだね、金太くん」

「はい」別に目的のある金太は、なかなかいい出せずにいたのだが、ここはやはりいままで胸のなかでシコリのようになっていたものを躰の外に投げ出したかった。「あのう、お爺さんに教えて欲しいことがあるんです」金太はまともに河合老人と目を合わさずにいった。

「私に教えて欲しいことがあるって?」

 老人は訝しげな顔をして訊いた。

「はい。あのう、ぼく、いま、悩んでることがあって……」

 金太は思い切って口にしたのだが、なかなかスムーズに話すことができなかった。

「そうか、だったらこの前のように家においで。そして静かなところで金太くんの悩みを聞かせてもらおう。さあ、道具をしまって……」

 河合老人はいつものように優しい笑顔で金太に話しかける。金太がこの老人に相談しようと思ったのは、こんなところにあるかもしれなかった。

 自転車を邸内に入れる。気のせいだろうか、きょうはいっそう蝉しぐれが激しく聞こえた。額の汗を手の甲でひと拭きした金太は、2度目ということもあって遠慮なくリビングに入って行った。そしてソファーに座りかけた金太は、

「あっ、そういえば、この前お土産をありがとうございました。カアさんがすごく喜んでました」いったあと一仕事終えたようにゆったりとソファーに腰掛けた。


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