第14話
夕方近くになって、夏休みの宿題をやっていた金太を階下から母親が大きな声で呼んだ。返事をしながら階段を降りて行くと、玄関に日に焼けて真っ黒な顔をしたネズミが笑いながら立っていた。
「ボラーァ」
これにはフィジーの挨拶で「ハロー」という意味がある。金太が「ロビン秘密結社」を結成したときに、乗りがいいので採用することにしたのだ。
「ボラーァ、どうしたんだよ」
「いま塾に行くところ。急に金ちゃんの顔が見たくなって寄ってみた」
「そうなんだ」
金太はビーチサンダルを突っかけると、ネズミの背中に手を当てながら玄関の外に出た。友だち同士の会話を親に聞かれてると思うと、なかなか思うように話せないと思った。別にやましい会話をするわけではなかったが、それでも気楽に話せたほうがよかった。
玄関の階段に腰を降ろしたふたりは、肩を並べて小声で話しはじめた。
「最近はやっぱり勉強に専念してるのか?」
金太はネズミの横顔にたずねる。
「うん、ぼくはあんまりやりたくないんだけど、カアさんがうるさくてさ。ぼくだって夏休みくらい遊びたいよ。でも逆に休みだと監視の目が厳しいから、やってる振りをしないといけないんだ。頭が変になっちゃいそうだよ」
ネズミは普段から蓄積した不満を晴らすように話す。
「そうだよな。まあ親はオレたちのことを思っていってるんだろうけど、やるほうは大変だも。ネズミの気持よくわかるよ。近いうちにロビンのメンバーを集める予定をしてる。ノッポもアイコもネズミと同じように頭を悩ませてるから、そのとき思いの丈をぶちまけたらいいさ」
「うん。そのときは呼んでよね。そろそろ塾がはじまるから行かないと」
「わかった。気をつけて行けよ」
金太はズボンの尻を叩きながら自転車にまたがったネズミの背中に声をかけた。
夕飯は金太の大好物のカレーライスだった。山井家のカレーは爺ちゃんも父親も辛いのが好きだったから、他所より辛めになっている。ニンジンサラダが嫌いな金太だが、カレーのなかに入っているニンジンだけは嫌がらずに食べる。
カレーライスのトッピングのなかでもいちばんは唐揚げだった。コロッケやソーセージよりも好きだった。そのナンバー1のトッピングがきょうの食卓に上がっているのだ。
姉の増美も部活から帰り、4人揃っての夕食だった。やはり家族4人揃ってがいい。ひとりでも欠けると、なんか歯が抜けたようでおいしいものもおいしく感じられなくなるのだ。そういった意味では夏休みに入ったきょうという日は、金太にとって最良の1日となった。
夕食のあとのデザートはもちろん河合老人のくれたフルーツだったが、出て来たのは櫛型に切られた梨だった。どうやらマスカットの出番は次回ということのようだ。
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