第13話
反射的にベッドから身を起こした金太は、急いでメールを開いた。間違いなくノッポからメールが入っていた。
金太くんへ
メールありがとう。
連絡しようと思ってたんだけど、バタバタしててなかなかできませんでした。
でも、金太くんは元気そうだからよかった。
勉強のほうはあまり捗っていない。相変わらず塾に通ってるんだけど、3年生 になって急に難しくなったのと、受講時間が増えたので頭を抱えている毎日で す。
この夏休みは、お盆に家族で博多に3日間行く予定が入ってるけど、それ以外 は未定です。待ち合わせをして1度あの秘密基地で会いましょう。
トオル
金太はノッポのメールを読んで思わずくすりと笑ってしまった。
長く付き合っているにも関わらず、相変わらず正確そのままの文面で送ってくるし、あっているときは「……けん」とか「……とうと」といったように博多弁丸出しで話して来る。そのギャップがたまらなくおかしくてつい噴き出してしまった。
それでもノッポらしいメールが懐かしくて何度も読み返してしまった。そんなとき、アイコにもメールを送りたくなって、ノッポに送った文章を少しアレンジして送った。
アイコからの返信はすぐには返って来なかった。しばらくパソコンと睨めっこをしていたが諦めて部屋を出て階下に降りた。
リビングに行くと、テレビに飽きた父親が大きく広げて新聞を読んでいるところだった。
金太は窓ガラスのところに行くと、曇り空を見上げて聞こえないくらい小さな声でなにかを呟き、庭先の葉ばかりになった紫陽花を見て大きく溜め息をついた。
「なに溜め息ついてんだ?」
新聞から目を離した父親が訊いた。
「ううん」金太は肯定とも否定ともつかない返事を返す。「やっぱ小さいわ」庭に目を向けたまま今度は聞こえるくらいの声でいった。
「なにが小さいんだ?」
読んでいた新聞を畳みながら金太の顔を見る。
「あのお爺さんとこの庭はうちとは比べものにならないくらい広くて、その上絶えず鳥の声が聞こえて来るんだ。でもあんなに広くても住んでるのはお爺さんひとりなんだよね」
「そんなに広いお屋敷だったらお母さんも1度見てみたい」
いつの間にかリビングに戻っていた母親が羨ましそうにいった。
「まあその家は広いかもしれないけど、人にはそれぞれの生活があるから……この家だって爺さんが畑をやりながら建てた家なんだ。いまその家に俺たちは住んでいる。自分たちの家があるだけでありがたいと思わんとな」
父親は誰にいうことなく、毎日をなに不自由なく過ごせていることに感謝しているようにしみじみとした言い方をした。
「さあ、冷たい麦茶を入れたから飲みなさい」
母親は話題を逸らすようにわざと大きな声で金太を促した。
立ったまま麦茶を飲み干した金太は、何気なく口に出した言葉が暗い空気を招いてしまったことに少し後悔しながら2階に上がった。
マウスを左右に動かして立ち上げっ放しにしておいたパソコンを揺り起こす。
届いていた。アイコからの返信メールが届いていたのだ。急いでメールを開いてみる。
メール読んだよ。
相変わらず金太は元気そうだね。
私のほうは相変わらずで、勉強なんかまともにしてないけど、テニス部の部長 をやらされているからそっちのほうで忙しかった。
でもそれも夏休みの前に引継ぎをしたから、やっぱこれからは受験に向けて勉 強する
ことになるのかな。だって親がうるさいからやらざるをえないわけ。
みんなとも会いたいからいつか集合かけてください。待ってまーす。
愛子
これまでずいぶん顔を見てなかったのだが、ふたりのメールを読んだあとなぜかふたりの楽しそうに笑う顔が交互に脳裏に浮かんで来た。あとはネズミだけだ。そうすれば「ロビン秘密結」のメンバー全員に連絡が取れたことになる。
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