第5話

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 昨日と違って、朝から梅雨が舞い戻ったかと思わせるくらいどんよりと曇った日だった。きょうも昨日のような大きな魚が釣れるような気がして、金太は午後から友が淵公園の池にいた。

 雲が低く垂れ込めているせいか、まったくアタリがない。何度場所を移動しようか迷ったかわからない。その度に「いやもう少し辛抱したら絶対に喰う」そう言い聞かせてウキが動くのを待ち続けた。だが1時間ほど粘ったものの、期待に沿うことはなかった。

 諦めるのが早い金太は道具を片づけながら、そういえば昨日の老人の姿を見てないのに気がついた。昨日の話しっぷりからすると、毎日散歩がてらこの池に来ているようだったが、きっと天気がわるいから散歩をやめたに違いない――金太は都合のいいように解釈して自転車にまたがった。

 家に戻って自分の部屋に入ると、パソコンの電源を入れてメーラーを立ち上げる。急いで着信メールを探すものの、誰からもメールは届いてなかった。がっかりしながらしばらくゲームで時間を潰す。やらなければならない数学の宿題があるのだが、カバンから教科書を取り出すのが億劫だった。いっそのこと早く夏休みに突入して欲しい、そう思いながら頭の後ろで指を組み、大きな溜め息をつきながら目をつむった。

 このままだと成績がかんばしくないから内申点だって期待できない。クラスのほとんどが塾通いかもしくは家庭教師をつけてもらって来年の高校受験に向けて頑張っている。勉強、勉強と口を開ければオームのように同じことしかいわない母親だから、もし塾に通いたいといったら反対をすることはないだろう。だがどうしてもその気にならない自分に対してジレンマに陥っている。そんな気持を引き摺りながら悶々とした日々を過ごす金太だが、出口の見つからない悩みを抱き続けてずいぶんとなる。

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