第14章 Friction

一番会いたくなかった人

「ここだな」


 ソル君が足を止めたのは、一軒の家の前だった。

 お城みたいな見た目をした、古い西洋風の家。


「こんな家、この辺りにあったっけ……」


 あたしがぼうぜんとしてつぶやくと、「いや」とソル君が首を振る。


「元々、ここも周りの家と同じような普通の外観をした住宅のはずだ。これは……異能力エフェクトで見た目が変わっているのか……?」

「そんなことができる遺産レガシーもあるんや」

「ああ。とにかく、急ぐぞ。どんな異能力をもった遺産かもまだはっきりしていない。油断するな」

「了解っ!」


 あたしがうなずいたのを見て、ソル君はゆっくりと扉を開ける。

 その後ろに続いて、あたしは一歩、家の中へ足をふみ入れた。




 家の中は、外から見たよりも、もっとすごいことになっていた。

 チェス盤のような模様のじゅうたんがしかれた広い床、れた白い壁。

 部屋の一番奥には、左右に分かれた階段があって、そのまま見上げていけば、いくつも上の階が見えていた。

 ずっと上を見上げていると、首が痛くなっちゃいそう。

まるで、どこかのお城か豪邸に迷い込んじゃったみたい。


「これは……」


 ソル君も、あっけにとられた様子であたりを見回している。

 これが、元々は普通の家だったっていうの?

 そう思いながら、レッドカーペットに向かって一歩踏み入った、その瞬間だった。


 ――ゴオッ!


 どこからか、何か重いものが落ちてくるみたいな、ものすごい音がした。


「上だ!」


 ソル君が叫んだ。

 慌てて上を見る。

 何かが、ものすごい勢いで、あたしたちのほうに向かって落ちてきた。

 二人してとっさに飛びのけば、さっきまで自分たちがいた場所に、それらは降り立った。


 黒白の鎧を着た騎士のような姿の、ゆうに二メートルはありそうな大きな人影。

 七体のそれらは、それぞれの手に槍や弓、斧にこん棒、それに、形の違う三種類の剣を持っている。

 そして、一様に、あたしたちに敵意を向けているようだった。


「こいつらが、今回の遺産?」

「いや、こいつらは異能力で生み出された生命体だろう。遺産自体は、別の場所に――」


 ソル君が、そう言いかけた時だった。


「『七人の騎士たちの前に、二人の敵が現れる』――うん、思い通りだ」


 どこからか、聞き覚えのある――ううん、聞き覚えのありすぎる声がした。


 ハッとして、声のした方向を見る。

 その声は、部屋の奥の階段から降りてきていた。


「やあ、こんばんは、ちい。それと――ちいのお友達かな」


 こつ、こつ、と響く、ローファーのかかとが床を打つ音。

 チェックのスラックスと、紺色のブレザー。

 きっちりと絞められたネクタイ。

 さらさらとした、きれいな茶色の髪。


「……何で」


 あたしは思わず、言葉を失った。

 その人を見て、動揺せずにはいられなかったんだ。




「何で、ここにおるん? ――陽にい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る