第13章 その覚悟は本当にあるのか
【怪盗】の真実
「
「そうだ」
あたしが聞き返すと、ソル君は小さくうなずいた。
「オオミヤ・チハル」
「えっ、何でうちの名前知っとるん?」
「シキから聞いた。お前、昨日
いきなりかー!
図星を指されて、ぐっとたじろぐあたし。
ソル君はため息をついて、テーブルの上で手を組んだ。
「はっきり言おう。
「……そんなん、何で君に言われなあかんの」
苦しまぎれに言えば、「『君』じゃない。ソルだ」と真顔で返される。
「この間の一件で分かっただろう。
「……っ」
「だが、お前のように、契約者の心に触れて情を抱き、遺産の暴走を止められないようでは、被害は広がるだけだ。あの時、俺が助けに入らなかったらどうなっていた? きっと、被害はもっと拡大していただろう。お前だって、死んでいたかもしれないんだぞ」
言葉が出てこない。
反論のしようがない。
全部、全部、その通りだ。
……だけど。
「でも、じっちゃんは、
あたしがそう言うと、ソル君は苦い顔をした。
それからため息をついて、「シキのやつ、ちゃんと説明していなかったのか」とつぶやく。
説明していなかった、って……どういうこと?
じっちゃんが、うちに隠し事をしてたっていうことなの?
それに、じっちゃんは、ソル君のことを弟子だって言ってた。
それも、ちょっと気になってる。
怪盗を続けていくかどうか以前に、知らないことや聞きたいことが多すぎるよ。
「なあ、ソル君」
「何だ」
「
ソル君は、下を向いたまま黙っている。
「それに、昨日からじっちゃんのこと、シキ、シキって……じっちゃんとソル君は、どんな関係なん?」
あたしの質問に答えあぐねているみたいに、ソル君はずっと唇を引き結んでいた。
けれど、ソル君、と重ねて呼べば、彼は、観念したように口を開く。
「この話をするには、そもそも、どうして
どうして、
そういえば、じっちゃんは、そのへんの話をしてくれたことはなかったっけ。
「
「え?
「そういうことだ。しかも、元になった組織に所属する人間は、
「破壊を……」
絶句するあたしに、ソル君は言う。
「その名を、【
「じっちゃんが!?」
信じられない。
部屋にあれだけの
「俺が一〇歳で遺産管理者になった時、シキはまだこちら側の立場だった。シキは俺の師匠だ。
「そうやったんや……」
ん? 待てよ。
一〇歳で遺産管理者? とかいうのになったっていうことは、ソル君って今、いくつなんだろう。
「あ、あのさ」
「何だ」
「ソル君って、今、何歳なん?」
「一四だが、それがどうかしたのか」
まさかの同い年だった!
それにしては、みょうに大人びているというか、堂々としていて貫禄があるというか。
びっくりしているあたしをよそに、「続けるぞ」とソル君は話を戻す。
「二年前のことだ。
二年前。
ちょうど、あたしが一二歳になった年だ。
じっちゃんが、誕生日に服と帽子、ルーペをくれたのと、何か関係があったのかな?
「俺はシキにたずねた。どうして組織を離れる必要があるのかと。そうしたら、やつはこう言ったんだ」
『わしは、人の心を壊すことが辛かった。これから、老い先短い人生の全てをかけても、その罪はつぐないきれんじゃろう。じゃが、
「……じっちゃんが、そんなことを」
その罪をつぐなうために、少しでも多くの、
全然、知らなかった。
じっちゃんは、そんな思いをもって、
「当然、組織のやつらは猛反対した。保護するだけでは、
「それで、じっちゃんはどうしたん?」
ソル君の言葉に、あたしは思わず身を乗り出す。
「結局、上のやつらの言葉を聞かずに、自分の考えに賛同する人間を数名引き連れて組織を離れていった。シキを含めたその数名が、シキやお前の言うところの『
「そういうことやったん……」
「まあ、お前の様子を見ていると、シキは大方、
ソル君はそう言って、スーパーの袋から一本、スポーツドリンクを取り出して飲み始めた。これだけしゃべれば、のどもかわくよね。
「あのさ」
「何だ」
あたしにスーパーの袋を差し出しながら、ソル君が答える。
袋の中に残っていたスポーツドリンクを出して、一口だけ飲んでから、あたしはたずねた。
「ソル君はさ。じっちゃんについていこうとは、思わんかったん?」
少しだけ間を置いて、ソル君はうなずく。
「契約者の心を壊すのが辛いというのは、分からなくはない。俺だって、心苦しいと思っていたさ」
「じゃあ、何で?」
「……それ以上に、俺は、
中身が半分ほどになったペットボトルを握りつぶして、ソル君は眉間にしわを寄せる。
べこり、というペットボトルのつぶれる音が、やけに大きく響いた。
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