蒼の弾丸と謎の少年

 ――バァン!


 突然、フロアの後方から、大きな破裂音がした。

 それは、映画やドラマでしか聞いたことのないような音――銃を撃つ音に似ていた。


「っああ!」


 お姉さんは、痛そうな声を上げて、左手を押さえている。

 ギターからふき出していた黒い霧の勢いが、いつの間にか弱まっている。

 何がどうなっているのか、さっぱり分からない。

 あたしが、頭の中で「?」マークをいっぱい浮かべていた、その時。


「まったく、世話の焼ける」


 ため息交じりの声と、靴のかかとが床を叩く音とが、後ろから聞こえてくる。

 ゆっくりと振り返る。

 そこには、アッシュグレーの髪を揺らしながらこっちに近付いてくる、目つきの悪い男の子がいた。

 少し目つきの悪い彼が手に持っているのは、機械的なデザインの、大きな拳銃。

 まさか、さっきの音は、彼がお姉さんを撃った音だったの?

 ううん、それよりも。


「(うち、この人、どっかで……?)」


 何となくだけど、この人、どこかで会ったことがあるような気がする。

 どこだったっけ?

 ぼんやりとした記憶を、急いでたどっていく。

 そしたら、思い出した。

 この人、今日、駅の近くでぶつかったあの人だ!

 ゆっくりと身体を起こしながら、その人を見つめる。


 アッシュグレーの髪に、スカイブルーの三白眼。

 青いラインが特徴的なジャケットと、かっちりしたパンツに身を包んだ姿。

 間違いない。


「あなた、さっきの……」


 あたしの言葉に、男の子はちらっとこっちを見る。

 けれど、すぐにあたしから視線をそらすと、腰のベルトからもう一つ銃を抜くと、お姉さんを静かに見すえた。


「下がっていろ」


 それだけつぶやいて、彼は強く床を蹴り、お姉さんのほうへ駆け出した!


「お前も! 邪魔をするのか!」


 お姉さんが、男の子に向かってギターをかき鳴らすと、四方八方から、三日月の刃の形をした衝撃波が彼に向かって飛んでいく。

 けれど、男の子はそれをものともせずにかわしていく。


「遺産は破壊する。それだけだ」


 そう言いながら、彼は、構えた銃を次々と撃ち放った。

 銃弾が、衝撃波が当たって傷んだ壁や天井をさらにえぐる。

 ときどき、壁や天井を蹴って跳び回りながら戦うその様子は、あたしなんかよりもずっと、戦いの場に慣れているようだった。


 彼、一体何者なんだろう。

 さっき、しれっと『遺産』って言ったよね。

 それってつまり、あの子も、あたしと同じ怪盗ってことなんだろうか。


「……すごい」


 思わずつぶやいた、その時だった。

 男の子の放った青い銃弾が、連続でお姉さんをとらえた。

 うめきながら体勢を崩すお姉さん。

 不思議なことに血は出ていなくて、けがもしていないみたいだけれど、相当に痛そうだ。

 そして、お姉さんの目の前にたどり着いた時。

 男の子は、その銃口を、静かにお姉さんに向けた。


「あ……い、いや……」


 お姉さんが、ギターを抱きしめながら、声を震わせる。

 助けて、許して、とつぶやいたのが、私の耳にもはっきりと聞こえた。

 けれど、男の子は一切ためらうことなく、引き金に指をかけた。


「――終わりだ」


 彼が、冷たい声でそう言った、次の瞬間。




 ――ズギュウン!




 あまりにも冷たい銃声が、会場いっぱいに、響き渡った。

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