第8章 おさそいアフタースクール
ロックライブに行こう!
ねずみ小僧――はやちゃんとの対決から、2ヶ月近くが経った。
中間テストと期末テストを、何とか平均ギリギリの成績で終えたあたしは、もうすぐやってくる夏休みに胸をおどらせていた。
あれから、ねずみ小僧がうばった物は順調に持ち主のもとへと返っていて、ねずみ小僧のうわさをする人も、だんだん少なくなってきた。
もちろん、あたしのもとに犯人が誰だったのかをたずねに来た人もいる。
けれど、あたしは、決まってこんなふうにごまかしていた。
「盗んだ物を返すかわりに、正体は絶対周りにばらさへんって約束したんや」
その答えに不満を持つ人だって、もちろんいたよ。
でも、犯人だって一人の人間だ。
できるだけ、人の心を傷つけないで事件を解決する――それが、名探偵の役目。
そうやって説明すれば、しぶしぶといった様子ではあったけれど、みんなも納得してくれた。
ねずみ小僧事件の真相を話さないでいられることに、あたしは正直ほっとしていた。
大いに今回のことを反省している相手を、あまり矢面に立たせることはしたくなかったから。
それが、大切な友達なんだから、なおさらね。
☆
「時に千春どの、ロックバンドのライブに興味はござらぬか?」
はやちゃんがそう言いだしたのは、昼休みの校舎裏で、二人でお弁当を広げていた時のことだった。
「ライブ?」
あたしが聞き返すと、はやちゃんは「で、ござる」とうなずいた。
「実は、ライブチケットの抽選に応募しまくったら、当たっちゃったのでござるよ!」
「へえ! なんていうバンドのやつなん?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたでござるな」
口元にご飯粒をつけたまま、得意げにはやちゃんが言う。
「聞いて驚くことなかれ。今を時めく王道ロックバンドの、『
「ええーっ!?」
ウソやん!
あの『
興奮のあまり、思わず叫んじゃった私に、一階の教室の人たちからの「なんだなんだ」という視線が飛んできた。お騒がせして、すみません。
それはさておき。
中学生の頃からバンドを結成して活動している彼女たちは、高校2年生になった現在でもとっても仲良し。
特に注目されるのが、ギターボーカルのMATSURIさんが披露する、可愛らしくも、力強い歌声。
その人気ぶりは、最近発表された『ライブに行きたいバンドランキング』で、並みいる人気バンドの数々を押しのけて堂々の1位に輝くほど。
ライブチケットの応募倍率は50倍とも言われている、今大人気のバンドなの!
「はやちゃん、すごいやん! 豪運やん!」
「そうでござろうそうでござろう!? いやー、拙者もチケットが送られてきた時はびっくりしちゃったでござるよ!」
大興奮でしゃべる、あたしたち。
つまり、はやちゃんはライブ会場に行けるっていうことなんだもんね?
いいなあ、うらやましいよ。
「楽しんでおいでな? あっ、よかったらライブの感想も聞かせてや!」
「? 何を言っているんでござるか?」
「へ?」
「だから、さっき聞いたでござろう? ライブに興味はないでござるかって」
「あ、うん。せやね」
……あれ?
そういうふうに聞くってことは、つまり――
「拙者、千春どのをお誘いしているのでござるよ。一緒に見に行かないでござるか?」
「え? ええのん!?」
「もちろんでござる!」
大きくうなずくはやちゃん。
なんと、ライブのチケットは1枚で2人まで有効らしく、当たったチケットは2枚。
つまり、あたしを含めてあと3人も誘えちゃうらしい。
「せっかくの機会でござるから、ぜひ、千春どのともご一緒したいのでござるよ!」
「わー! わー! ほんまに!?」
そんなの、むしろこっちからお願いしたいぐらいなのに!
「こっちこそ! はやちゃんさえよかったら、連れてって!」
「うけたまわったでござる!」
そう言って、はやちゃんは、大切に残しておいた卵焼きを、おいしそうにほおばり始めた。
ちなみに、はやちゃんの家の卵焼きは甘くって、あたしの家の卵焼きは出汁がよくきいていて甘くないんだよね。時々交換するのが楽しいんだ。
「ではでは千春どの、まずはこちらを」
お弁当を食べ終わると、はやちゃんはポケットから取り出したハガキを1枚、あたしに差し出してくる。
裏面には、でかでかと目立つ文字で『当選おめでとうございます』と書かれていた。
その下には、当選者ナンバーらしき文字列と、それからライブ会場の住所と地図。
なるほど、これが入場チケット代わりになるのか。
「このハガキ1枚で、2人が入場できるようになっているでござる。だから、千春どのと拙者で、あと1人ずつ誘えばいいという寸法でござるよ」
「なるほど! でも、ええの? 3人全員、はやちゃんの誘いたい人にしたらよかったやん」
「ほら、拙者、家族親戚や千春どの以外に、一緒にこういうところに行く相手がいないでござるから……」
「あっ」
それ以上は言っちゃいけない。
あまりの気まずさに、あたしはあわてて、はやちゃんの話を途中で切り上げた。
「わ、分かった! とりあえず、ライブの日までに、うちのほうで1人誘ったらええんやね?」
「そうでござる! ちなみに拙者は、父上を連れて来るでござるよ。引率役でござる」
「そ、そっか」
じゃあ結局、はやちゃんが連れて行く友達って、実質あたしだけなんじゃん!
心の中でそうやって盛大にツッコみながら、あたしは、誰を誘おうかなと考えを巡らせるのだった。
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