嘘つきは何とかの始まり
とはいえ、あたしの本業は中学生。
朝が来れば普通に起きて、朝ごはんを食べて、学校に通うことになる。
「じゃあね、ちい」
「うん! 行ってきます、陽にい!」
今日も今日とて陽にいに見送られて、あたしは学校にやってきた。
教室に行く前、階段にある大鏡の前で、軽く服装をチェックして、お気に入りの猫耳帽子を被りなおす。
実はこの帽子、じっちゃん曰くとってもすごい力があるらしく、任務をもらった後、毎日欠かさず被るようにと言いつけられた。
何でも、この帽子を被っていると、
帽子自体は小学校の時にもらった物だから、じっちゃんは少なくともその時には、あたしを怪盗にするつもりでいたんだろう。
なんて人だ。
その用意周到さに、思わず舌を巻いてしまった。
「さて、と」
階段を登って廊下を歩きながら、ぐるりと回りの生徒たちを見回す。
まさか、この中に遺産を持っている人がいて、しかも学校に持ってきているとはとうてい思えない。
だけど、万が一っていうこともあるから、一応しっかり観察はしておかないとね。
何かが起こってしまってからじゃ、遅いんだから。
「千春どの~!」
教室に入るなり、先に来ていたはやちゃんが、あたしに突進してくるかのような勢いで教室の入り口に走ってきた。
「お、おはよう、はやちゃん。どうしたん?」
思わずつっかえながらもあいさつをして、たずねる。
正直、昨日のことがあったから、話すのが気まずいところではあるんだけれど……。
そんなことにはお構いなしに、はやちゃんは涙目になりながら「あのね、あのねっ」とあたしの制服をつかむ。
どうやら、事態はよっぽど深刻らしい。
これは、気まずいとかなんとか言っている場合じゃない。
「落ち着いて、はやちゃん。どうしたん?」
「それが……」
言いかけて、ぽろぽろと涙をこぼすはやちゃん。
「お、落ち着いて! ほら深呼吸! ひっひっふー!」
「それはラマーズ法でござる……」
何で知っているんだろう。
思わぬ返しに真顔になりかけたけれど、はやちゃんはそれで平静を取り戻したらしい。
実は、と前置きして、また泣きそうになりながらも、何があったのかを話してくれた。
「拙者、大事なメモ帳を失くしてしまったのでござるよ~!」
ん? メモ帳?
思い当たることがあって、あたしは口を開く。
「はやちゃん、メモ帳って、新聞部で使っとるやつ?」
「そうでござるよ」
「黄色い表紙の?」
「その通りでござる。そう言えば、千春どのにも見せたことはあったでござるな」
見てないでござるか?
そうたずねてくるはやちゃんに、少し考えて、あたしは首を横に振る。
「ごめんけど、見てへんわ。見つけたら、すぐ渡すでな」
あたしの言葉に、ほっとしたように息を吐くはやちゃん。
「(ごめんよ、はやちゃん)」
友達につく嘘は、この前、クラスの女の子についた嘘よりも、苦い味がした。
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