第5章 ねずみ小僧の標的は……

情報収集、難航中につき

 あたしが転校してきてから、1週間ほどが経った。

 はやちゃんはすっかり心を開いてくれて、今ではこっちに来てから一番の友達と言っても差し支えない仲だ。


「それで、はやちゃん。『ねずみ小僧』の情報、何か集まった?」


 お弁当を食べながら、はやちゃんにたずねる。


「うーむ、目新しい情報はないでござるなあ。恐らくは、千春どのが聞き込みで入手したものとそう変わらないでござるよ」


 パリパリと音を立てながら、鮭の切り身をほお張って、はやちゃんは難しい顔をした。


 忍者が大好きで、あこがれているはやちゃん。

 彼は、好きが高じて、新聞部に所属しているらしい。

 というのも、新聞部は、校内でまことしやかに囁かれているうわさや、流行りの情報をキャッチして記事にするのが主な活動内容になってくる。

 忍者にあこがれている身として、諜報活動――もとい、情報収集をたくさん行える新聞部員は、はやちゃんにとって天職なのだという。

 そこで、あたしは、今回の『ねずみ小僧事件』についての情報を集めるのに、はやちゃんに協力を依頼している。

 はやちゃんは快くオッケーしてくれたけど、思いのほか調査はうまくいかない。

 得られている情報も、かなり限定的になってしまっている現状だ。


 ちなみに、今のところゲットできた情報は、こんな感じ。




・3月の半ばごろから、放課後の間に私物を盗まれる事件が、10件発生している

・ねずみ小僧に物を取られた人の机には、「(盗まれた物)はねずみ小僧が預かった」という内容の手紙が残されている

・ねずみ小僧の姿を目撃した人はいない




「結局、進展はなしかあ」


 つられて思わず大きく息を吐くと、はやちゃんが悲しそうに眉を下げた。


「面目ないでござる。せっかく、千春どのに協力しようと思ったんでござるが」

「はやちゃんが気にすることやないって! まだまだ調査はこれからやん」


 いや、この先も事件が起こるっていうのは困るけど。

 それでも、解決できないって諦めてしまうのには、まだまだ早い気がするの。

 だって、調査は始まったばかり。

 この先、まだ出てきていない情報が出てくる可能性だって、あるかもしれないしね!


「せやから、まだまだ協力頼むで。はやちゃん!」


 はやちゃんを鼓舞するように、バシバシと背中を叩く。


「げほっ、えっほ! し、承知したでござるよ。千春どの」


 はやちゃんが盛大にむせて、せき込みながらもそう言った。


「ちょっと、はやちゃん大丈夫?」

「ち、千春どのが背中を叩いたせいなんでござるが~!?」


 ぷりぷりと怒りながらも、こらえ切れないといった様子で笑うはやちゃん。

 よかった、笑ってくれて。

 はやちゃんがしゅんとしているのを見たら、あたしも何だか悲しくなっちゃうもん。

 友達には、いつだって笑顔でいてほしい。

 そんな考えは能天気すぎるとか、空気が読めないとか言われようが、関係ない。

 どんな場所でも、どんな時でも、あたしはあたしのやり方で、大事な人を笑顔にしてみせるよ。




 そんなふうに、どこか呑気に考えていたから、あたしは、気付けなかったんだ。


 ふとポケットに手を突っ込んだはやちゃんが、どこか思い詰めたような表情をしていたことに。

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