第3話 関係

「俺たちってどんな関係なのかな?」

「え〜?どんなって?」

「いや、俺には彼女がいるし。さとみさんはそれでいいのかなって」

「んー、なんでダメなの?彼女に悪いからもう会いたくないとか?」

「いや、俺は会いたいよ、さとみさんがいいなら」

「・・・これって、セフレなのかなあ・・・?」

「いや、違う!絶対違う、それは違うから」

「違うのー?じゃあなんだろうね」

「・・・」


「ーあれ?寝ちゃった?」

「すんません、起きてます」

「起きてたか!黙っちゃったから寝ちゃったのかと思った〜。あ、そろそろお家つきそう!」

「ほんとすか!無事家に帰れたみたいでよかったす、今日はなんの飲み会だったんすか?」

「今日はね、会社の先輩達に呼ばれた合コン!めっちゃつまんなかったから終電で帰ってきた感じかな〜。ゆうや君の声が聞きたくなっちゃって電話しちゃったあ」

「またまた、さとみさん、酔ってますね。俺で良ければまたいつでも」

「んふ、優しい〜。あ、エレベーター乗るから切れちゃうかも!遅いのに電話付き合ってくれてありがとう〜。」

「むしろ俺も暇だったんでありがとうございました。いつも俺なんかとありがとうございます。」

「俺なんかって何よ!そんなことないよ。」

「あ、今週末、餃子楽しみにしてます!」

「わたしも!あ、もう切れる〜。おやす・・・」

「おやすみなさい・・」


ゆうやと呼ばれていた青年は、さとみと呼んでいた女性との電話が切れるのを待ち、名残惜しそうにスマートフォンを見つめた。冷え切った部屋に時計の音が一層際立って聞こえる。時刻は0時を過ぎて、1時を回ろうとしていた。


一方、さとみと呼ばれた女性は、ゆうやと呼んでいた男性との聞こえなくなった通話をゆっくりと切ると、エレベーターのボタンを押した。大きなあくびをし、エレベーターの壁にもたれかかる。あっという間にエレベーターは5階へ到着し、その直ぐ横の部屋のドアの鍵を開け、真っ暗な玄関を手探りで電気のスイッチを探す。視界がパッと明るくなるが、フッと現実に戻され気分は沈む。


化粧も落とさずスーツのままベッドに横たわると、そのまましばらくスマートフォンの画面を見つめ、溜まったラインやSNSを見返す。

少し前に辞めてしまった昔の同僚の入籍報告や、地元の友達の出産報告を知り、 おめでとう とコメントする。


寝たまましばらくSNSを眺めていると新着メッセージの通知が届く。開いてみるとどうやら知らない人からのメッセージのようだ。犬のキャラクターがアイコンのtakumiという人物を友達に追加するかしないかの選択肢が迫る。


『さとみちゃん今日はありがとう!今度よかったら2人でここ行かないかな?』


内容を見て、今日の飲み会で出会った人だとやっとわかった。そもそも全くしゃべってもいないのにいきなりデートの誘いが来るあたり、相当なメンタルの持ち主であるのだろう。


彼女は長い指で 追加しない を選択し、トークの画面を 非表示 にした。するとまた知らない人物からの新しいメッセージが届いていて、同様に内容を確認する。


『今日は寒い中わざわざ来てくれてありがとう!久しぶりにめっちゃ楽しかった〜。今度ロレアルのファミリーセールあるんだけど、どうかな?友達とかと行かない?』


やたら体育会なアイコンのテラワキなる人物からは想像もできない単語に自然と笑みが溢れる。そのまま友達に追加をし、返信をする。


『こちらこそありがとうございました。そしてごちそう様でした!ロレアルちょっと興味あります笑 いつですか?』


送った瞬間既読になり、慌てて画面をトーク一覧に戻す。戻した瞬間またメッセージが来ていた。既読にならないよう、そっと内容を確認する。


『今週の土日だよ!いけるならチケット渡すよ!さとみちゃん可愛いからロレアル使ってそう!』


しばらくそのまま大きな瞳で画面を見つめる。


『実はロレアル使ってました!笑 けど、わー、すみません。今週末はちょっと無理そうです。とっても残念です!!!是非またあったら教えてください〜』


またしても送ったメッセージは直ぐ既読になり、息つく間もなく返信が届く。しかし、それが苦でもなく同じ間隔で返信をする。自然とテラワキのペースに乗せられていることに気づく。


『そっか残念!また教えるよ〜。てかさ、いつもどの辺で飲んでるの?』


『よろしくお願いします!いつも銀座とかが多いですかね。あとは恵比寿、池袋とか!色々です。だから今日は新鮮でした!』


『遠かったよねごめんね〜、しかも駅から結構歩かせちゃったし。けどあそこのおでん絶対食べて欲しかったんだ。』


『てらわきさんチョイスだったんですね!すごい美味しかったです。』


この後、すぐ既読になったメッセージは暫く返事が無く、ここでやりとりは終了した。スマートフォンを枕元に置き、まぶたを閉じる。疲れていた身体が眠りに落ちるまでそう時間は掛からなかった。

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