第36話 連絡
「出来るのか!?」
レオが興奮した様子でラタムに聞いた。
「あぁ、しようと思えばできんこともない。」
「本当にその自信どこから出てくるんだ……パムは不思議でたまらないパム。」
パームが少し疲れた様子でラタムを見ながら言葉を吐くと、ラタムはこう言い返した。
「妾が自信を持って言った事は大体当たったぞ?それでもパームは不安か?」
「確実じゃないから不安なんだパム!確実だったら何も言ってないパムよ!!」
パームが必死に不安だと思う理由を述べると、ラタムは特に気にもせず軽く笑って
「じゃあ妾はこれから連絡を取るから、あまり騒がしくするでないぞ。」
「無視するなパム!」
パームが起こっている様を見ようともせず、また華麗なまでに無視をして、ラタムは地面に星を描き、星の尖っている部分を出すように円を書いた後、連絡魔法の呪文を唱え始めた。
「我が問いに答え、彼方の地にいる者との会話を可能にせよ。ベルーサ。」
ラタムが呪文を唱えても、ラタムの周りにこれといった変化はない。
失敗したのかな?と、リズたちが思っていると、突然知らない声がラタムの方から聞こえてきた。
どうやらこの魔法は、ラタムがリズたちに配慮して相手の声が聞こえるようにしてくれたらしい。
そう、パームがリズに言った。
「何だい?悪戯とかならやめてくれよ?」
「失礼じゃな、妾が何時何時に悪戯の連絡をよこしたというのじゃ?」
会話の始まりから、ラタムが連絡を取っている人は苦労人ということが取って見えた。
会話の始めから深いため息をついていたのだ。
「君と会った時にどれだけ悪戯されたか証明してあげるよ。と、それは置いといて、久しぶりの連絡じゃないか、一体どうしたんだい?」
「証明はよして欲しいのう。実は聞きたいことがいくつかあってな、そのために連絡したんじゃよ。」
ラタムは先ほどまで少しふざけた声色で話していたが、急に真剣な声色になった。
「実はこっちにサイネリアから回された人間の童等がきてのう。妾達に戦争を回避する手伝いをして欲しいそうなんじゃ。」
「戦争回避の手伝い?まさか君、それを承諾したなんて言わないよね?」
「無論、承諾した。」
またもや深いため息が聞こえてきた。
なぜそんなに深いため息をつくのかリズには見当もつかなかった。
戦争を回避したいんだったらこの話は向こうも大喜びするはずなのに、どうして困り果てたようなため息をこぼしているのだろう、と
「ただでさえオーヴァリからの使命が大変だって言うのに、君とサイネリアは厄介ごとを持ってきたのかい?」
「厄介ごとを持ってきた気は無い。嬉しい話じゃろ?人類を殲滅するのは無しになったとはいえ、このままじゃ実行せざるを得なくなる。そんな時に舞い込んだ話じゃ。ニックだってそれは回避したいはずじゃ。」
ニックと呼ばれた連絡の相手はラタムにこう言った。
「とにかく考える時間が欲しい。で?君が聞きたいことはこれ以外にもあるんだろ?」
ニックは戦争回避の手伝いに肯定も否定もしなかった。
ただ考える時間が欲しいと。
もしかしたらニックの説得は簡単かもしれない、リズはそう思った。
「話が早くて助かるのう。ニックはアルフとベルの居場所を知ってるのか?」
「知ってるけど、彼等は会ってくれないんだよ。……まさかとは思うけど、その話を彼等にも持ちかける気かい?」
「あぁ、無論。」
しばらく相手の声は聞こえなかったが、ニックは呆れた声で言葉を吐いた。
「彼等が賛成するとは思えないけど、まぁ、やってみなきゃわからないからね。好きにするといいさ。場所はこの後送るよ。」
その言葉を最後に通信は切れた。
「ニックは今でも苦労してるんだパムね…。」
「彼奴は何時も貧乏くじを引いておるな。」
どうやらニックは相当な苦労人らしい。
しばらくすると、ラタムの頭の中にアルフとベルの居場所が送られてきた。
「ここからだと大分遠いのう。転送魔法を使えば一発なのじゃが、生憎妾は覚えておらん。」
ラタムから場所を聞くと、歩きで行くとなれば半年はかかってしまうほど距離が離れていた。
リズたちが困り果てていると、パームが軽くため息をついた。
「つまりパムに魔法を使えって言ってるんだパムね…。転送魔法はあんまり使いたく無いのに…。」
拗ねた声でパームが言葉を発した。
「汝がやらんで誰がやるんだ?童達の魔力量を考えても、属性を考えても使えるのはパームだけじゃ。」
「魔法を使ったらしばらく休むパム。
どうやらパームが転送してくれるらしい。
リズは感謝の気持ちも込めて、パームを励ました。
多少機嫌が良くなったパームが呪文を唱え始めた。
「風の力の源よ、我が問いに答え力を貸せ。」
パームがありったけの力を込めると、春先に見られるような若葉に似た色の光がリズたちを囲み、光が次第に強くなっていき、そして
ーーー
「え?」
気がつくと、そこは先ほどいた天界ではなかった。
「疲れたパム〜。」
パームが地面にグダッと倒れたので、リズは今起こったことに戸惑いながらもパームを抱きかかえた。
「ここは?」
「ここはフェード達の秘境じゃな。汝達が知らんでも無理はない。」
ほのかに淡い光が降り注いでいる。
周りには大木が何本も、堂々とその姿を見せている。
紺青色の川が流れており、風景の所々に影が落ちているのが、表しようも無いほど美しかった。
秘境と呼ぶにふさわしい、リズ達が見たことの無い風景が一面に広がっていた。
「綺麗……。」
「世界にもまだこんな所が残っていたんだな…。」
ソレイユはあまりの美しさに、チェスは幻想的な風景に、思わず声が漏れた。
「パーム、ここに貴方の友達がいるの?」
「パムはあんまり会いたくない奴がいるパム。」
本当に嫌そうな顔をしてパームが言葉をこぼした。
嘘でも冗談に取れない顔をされ、リズは困ったように苦笑いを浮かべた。
「妾の子の格好では目立ってしまうな。」
ラタムはそういうと、自身にかかっている魔法を解いた。
初めて見るラタムの本当の姿にリズ達はびっくりした。
「やはりこの格好が一番動き易い。」
9本の尾が生えた狐の姿がそこにはあった。
『こっちじゃ』と、ラタムが先へ進んでいくのでリズ達はラタムについて秘境の奥へ進んでいった。
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