第34話 神の話
「地獄…ですか…。」
ソレイユが少し苦い顔をして言葉を吐いた。
ラタムの言葉はある意味的を射ていた。
第三者視点から見れば地獄と形容してしまうような光景だ。
しかし、政府の者たちはそうは思っていないのか、それとも自分たちが戦いに向かわないから気楽にしているのか、当たり前と思っているようだ。
「こんな有様を見てしまっては、己の考えが間違っている気がしてならぬ。やはり人は一度やり直すべきか…。」
「そんな!確かにひどいことになってしまっているけれど……みんなが皆なそうしたいと願っているわけではないんです!」
ラタムはリズとソレイユを一瞬瞳に映した後、湖を見ながら言葉を紡ぎ始めた。
「人が皆悪人だとは思ってないさ。しかし…サイネリアの意見には賛成しかねるよ…。」
「?サイネリアとおんなじ考えじゃないの?」
リズが疑問に思い、ラタムに聞くと
「完全に一致してるわけじゃないのだ。ただ方向性は同じってだけじゃよ。細部は違う。」
「ラタムさんはどう思ってるのですか?」
「サイネリアは人を皆助けたいと思っているようじゃが…妾は助けるべきでない人もいると思っている…。悪人は罰せられなければ苦しんだもののためにならぬ。」
ラタムの言葉を聞いた時、リズは少し不安に思った。
もしかしたらラタムは協力してくれないかもしれない。
もしもラタムが協力してくれないと、神獣が集まらない。
そうなると自分たちの計画もすべて水の泡だ。
「……私たちに協力してくれませんか?」
「協力?」
ソレイユが切り出した。
ラタムは一体何のことを言っているのかわからないようだった。
ソレイユは断られるのを覚悟で自分たちのやろうとしていることを話し始めた。
「私たちは戦争を止めるために国から逃げてここまできました。その途中でサイネリアさんにあったんです。サイネリアさんに言われました。7人の神獣を集めれば戦争と止められるかもしれないって。」
「確かに妾たちの力を使えば戦争を止めることはできるかもしれぬが……。」
「ラタム、どうか力を貸してくれパム。」
突然パームが話に入ってきた。
「ん?汝…もしやパームか?」
「世界のためにもリズたちのためにも力を貸してくれパム。」
「断るつもりなど元からないわ。妾だってこの現状には心を痛めておる。協力させてもらうつもりだ。」
ラタムは元から協力するつもりだったらしい。
しかし……なぜラタムはパームを知っているのだろうか?それも随分と親しげだ。
「パーム、ラタムと知り合い?」
「パーム、この子らに教えてないのか?」
何の話をしているのだろうか?リズたちにはさっぱりわからなかったが、ラタムから言われた一言にとても驚いた。
「パームは妾等と同じ神獣じゃよ。此奴は悲しみの神リエンの使い魔じゃ。」
「今まで黙っててすまなかったパム…。」
「えぇぇぇぇ!?」
突然告げられた真実、今後リズたちの物語はどうなっていくのだろうか?
ーーー
その頃、サイネリアが住んでいる森では
「はぁ…。」
水辺で一人、オスマンが落ち込んでいた。
「だいぶ落ち込んでいるようだね。どうしたんだい?」
「サイネリア……。僕はみんなにとって役立たずなのかと思って…。」
オスマンの吐いた言葉に驚いたサイネリアは疑問をぶつけた。
「またどうしてそんなことを思うんだい?」
「みんなにたくさん迷惑をかけてるくせして、全く何もできてない。そもそも僕のせいで脱出の計画も狂ったし…。」
「君は…」
その時、何か大きな音が聞こえた。
「何だ!?」
「多分兵器実験でもしてるんだろう…どうやら本格的に殲滅の準備を始めたらしい。これは時間との勝負になりそうだ…。」
サイネリアが苦虫を噛み潰したような顔になりながらそう言った。
オスマンは今この場にいない友人達が無事でいることを願うばかりだった。
それぞれの不安が積もる中、人間側も本格的に動き出した。
ーーー
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
「あれ?思ってた反応と違ったパム。」
「パームの考えは一般のそれとは違うわ。」
「え?え?」
リズとソレイユがただひたすら驚いた。
まさかすぐ近くにいたものが神獣という高貴な存在だったなんて知りもしなかったのだ。
パームはリズたちの反応にびっくりしているようだったが、リズたちの反応は正常だ。
逆に驚かない方が怖い。
「ほれ、パームがさっさと話さないからこうなるんじゃ。」
「パム…もうちょっとサクッと進むと思ったパム。」
「パーム神獣だったの!?」
「そういえばレオが何か言っていたような…。」
「まあまあ、ちょんと説明するパム。」
パームはリズとソレイユを落ち着かせた後、自身のことを話し始めた。
「ラタムが言った通り、パムは悲しみの神リエンの使い魔パム。そもそもここにきたのもリエンのお願いパム。」
「え?神様にお願いされてきたの?でもサイネリアの話だと神様は世界をその……」
「神達も全員が納得してるわけじゃなようでのう。」
パームとラタムは事のあらましを話し始めた。
「あれはパムたちが神の元にいた頃の話パム。」
ーーー
「ワォ!まさかこうなるとは思わなかった!ボクはびっくりだね!」
驚きの神キュラン
「まずいな…このままでは世界のバランスが崩れる…。」
喜びの神シェチェ
「はぁ…だから言っただろ?もっと昔に手を打っておけばよかったんだ。」
嫌悪の神オーヴァリ
「俺は人類を作ることに反対したんだ!!」
怒りの神グラット
「グラット、もうちょっと静かにできない?」
恐怖の神フェリシア
「人類だって何処かで間違えてしまったのです。私は人々を愛し続けますよ。」
愛の神バーラ
「自らの考えを改めてくれればいいのですが、私でも信頼し兼ねます。」
信頼の神シャルライト
「私はとても悲しいです…争いは憎しみや悲しみを生むだけなのに…。」
悲しみの神リエン
神々は大きな水晶から現世を見ていた。
水晶に写っているのは作戦書。
そう、人間たちが他の種族を支配するための作戦書。
神々は自身の意見を我先にと出し合った。
時折仲の悪い神同士が皮肉を言い合ったりもした。
「毎日怒っている貴方を見ているこっちの気持ちにもなってくれる?本当!さっさとこの場から離れたいわ!」
「なんだと!?そもそも人類がこうなったのもお前が恐怖とか言う感情を入れたからだろ!?お前のせいでこっちまで後始末をしなければならないんだぞ!」
「二人共、今はそんな話をしてる場合かい?とにかく今は現世をどうするかについて考えなければいけないよ。ニック!彼等の使い魔を読んできてくれるかい?ついでに他の使い魔も呼んでくれ。」
ニックと呼ばれたフェニックスのオプティルトがどこかへ去って行った。
しばらくしたのち、ニックは6匹のオプティルトを連れてきた。
「フェリシア様!あの無礼な鳥の飼い主が何かしたのですか?」
「貴様はいつまで俺の名前を呼ばないつもりだ?グラット、落ち着くのだ。」
どうやらオプティルト同士も仲が悪いらしい。
グラットとフェリシアの熱が冷めてきた頃、キュランが案を出した。
「この際悪人を追放すればいいんじゃないカナ?ほら!悪人さえいなくなれば少しはマシになるはずダヨ!」
「人類は全員滅ぼすべきだ。ついでにフェリシアもな。」
「あら?貴方こそ追放されてしまえばいいと思うわよ?バカンスにでも出かけたら?怒りすぎて頭が爆発しちゃわないうちにね。」
埒が明かないと思ったのか、オーヴァリが案を出した。
「今後現世がもっと酷い状況になれば、一度世界を無に帰すことにしよう。」
そうしてこの場はおひらきになった。
その後、現世はだんだんと酷い有様になったため、オーヴァリの案をもう少し柔らかくして実行されることになったのだが…
「俺は好き勝手やらせてもらう。人類は滅ぼすべき。アルフ!」
「私も勝手にやらせてもらうわ。ベル、行くわよ。」
「おい!はぁ…あの二人だと何をやるかわからない…二人の使い魔も相当過激派だし…ニック、頼めるかい?」
「わかりました。」
「じゃあボク達も止めに入ったほうがいいみたいだね。バーラもリエンもシェチェもいいかい?」
「いや、ワタクシはワタクシの意見を通させていただきます。」
シェチェも何処かに行ってしまった。
「パーム。」
リエンはパームを呼んで次のように言った。
「あの3人の使い魔を止めて頂戴。私は人々が皆んな悪いとは思えないの…。」
「パム。わかったパム!」
そうしてパームは地上に降り立った。
地上に降り立った時にリズと出会ったのだ。
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