第31話  変身粉



もうすぐ太陽が完全に沈んでしまう時間帯、リズ達はレオの家に来ていた。



あらかじめ集合場所を決めておいたのだ。


それがレオの家。




「全員何もなかったか?」


「私は大丈夫よ。」



「私も大丈夫…。」


「おいリズ、元気がないけど…何かあったのか?」




リズがしょんぼりとした雰囲気を出していたため、チェスは心配になってリズに聞いた。




「実は…。」




リズは隠していても仕方がないと思ったのか、チェス達に今日会ったことを話し始めた。



ーーー




「なるほどな…どうりで元気がないわけだ。」


「君は自分の母に会いに行ったか?」




レオの質問にリズは




「ううん。レオの言葉を思い出して、会いに行かなかった。」


「それは正しいと思うぞ。」




リズの答えに対してレオは話し出した。




「もしもその時言っていたら、可能性の話ではあるが、君の母も小生達も危なくなっていたかもしれないからな。」



「それもそうだが……リズ、本当に大丈夫か?」


「大丈夫だよ。ちょっと辛いけど…お母さんだって辛いんだ。私も頑張らなきゃ。」




一瞬寂しそうに見えたが、自分のやるべきことを考え決意したためか、真剣で決意に満ちた顔になった。




「よし、リズも大丈夫そうだし計画を話すぞ。」




レオは今回の侵入時の作戦を話し始めた。




「夜に侵入するのは変わらないが、夜と言っても人は少なからずいる。そこでこれだ。」




レオが巾着袋を取り出した。




「何これ?」


「これはもともとレオの部屋に置いてあったものだ。」




リズの問いにチェスが答えた。




「中身は変身粉、名の通り返信することのできる粉だよ。」


「その通り、不審なものと思われないためにも、小生達の姿を人以外の何かに変えようと思う。」



「帰ると言っても何に変えるの?」




チェスとレオの説明の後、ソレイユが質問した。




「オルムやエルフではダメだろうし、ましてやメリアなんかに変身したらもっとおかしいと思うのだけど…。」



「あぁ、そこはわかってる。しかし、人間の国にいても不思議ではない生き物がいるだろう?」




チェスの問いにリズとソレイユは少し考えたのち




「オプティルトのこと?」




ソレイユが答えた。




「その通り、オプティルトは町のそこら中にいる。誰かと契約した者から契約していない者までいる。」


「確かにオプティルトに変身すれば不思議じゃないけれど…。」




ソレイユが一度言葉を止めた後、また口を開いてこう言った。




「なら夜に侵入しなくてもいいんじゃないかな?」




リズの言うことは最もで、どうせ変身するなら昼間でもよかったのでは?




「まぁ昼間でもいけないことはないが…一応な、念には念をってことだ。」




少し間が空いた後、レオが一言言葉をこぼした。




「と言うか、これチェスにも言われた気が……。」




少し場が和んだ。




これから先、潜入先において何があるのだろうか?


リズ達はまだ知らない。




「それじゃあ早速その粉を使って…。」



「待て待て待て待て!ここからオプティルトだけが出てくるのは色々とまずい。家の中から4匹のオプティルトだけが出てくるんだぞ?そんなのおかしいだろ。」




リズは今すぐに粉を使おうとしたが、レオに止められて、粉を使おうとした手を止めた。




「じゃあどうするの?ここじゃ使えないと言っても外で使うのもまずいんじゃないかしら?」


「あぁ、だからこその夜だ。」




ソレイユは『あぁ、そうゆうことね。』と、納得した顔になっていた。


リズはキョトンとしていた。




「夜中だったら一眼も少ないし、街中にある林の中で返信すればバレる確率はだいぶ減る。」


「制限時間とかはあるの?」




ソレイユがレオに聞いた。




「あぁ。制限時間は1時間。1時間を超えると元の姿に戻る。」


「じゃあ使い所はちゃんと決めなきゃダメってことね。」




仮に、もしも国境を越える前からこの粉を持っていたとしても、1時間で国境から学園までは持たない。


つまり、使い所は間違えれないのだ。




「それじゃあ近くの公園の林で使えばいいんじゃないかな?あそこはあんまり人が入らないし。」


「あぁ、あそこか。小さな頃はよくあそこで遊んでたな。」




リズが言った場所に、チェスは心当たりがあるらしい。


話の内容から推測するに、そこは二人の秘密基地的場所だったのだろう。




「よし。ならそこで使おう。」


「もう行くの?まだ完全に夜になったわけじゃないけど…。」




話し始めて約30分、外の太陽は沈んだがまだ少し、明るさが残っている。


計画開始時刻は明確にはしていないが、予定は夜。




現在外の様子は、夕方と夜の境界線と取れる。


本当にこの時刻でいいのだろうか?




「本当はもっと暗くなってからの方がいいかもしれないが、それはそれで他の問題が現れるからな。今ぐらいがちょうどいいだろうと、チェストと決めた。」




レオの独断ではなく、二人で話し合った上で決めたのならば仕方がない。


今はとにかく、計画を実行することが第一目標だ。




ーーー




「ここか?」


「うん。ここならあんまり人も来ないし多分大丈夫。」



「本当は絶対に人が来ない場所でやりたいんだがな。」




レオは不満を吐きつつ、何かの呪文を唱えた後、変身粉を振り撒いた。


すると




「できたの?」


「あぁ。自人間の時より視界が低いだろ?それでも信じられなければ手でも見てみろ。」




確かに視界が低い、自分の手を見てみると




「肉球?」


「リズ、お前犬になってる。イノシシじゃなかったんだな。」



「ちょっと!いくら行動が似てるからって必ずなるとは限らないでしょ!」




ちなみに、チェスはドール(イヌ科でイヌの仲間)レオは狼、ソレイユは狐だ。




「イヌ科多くない?」


「そんなことは後だ、とにかく時間がない。行くぞ!」




リズの言葉は流しつつ、レオの声を合図とし、一同は学園に向かって疾走し始めた。




侵入作戦は始まったばかり、森においてきた仲間のためにも失敗は許されない。


夜の闇が訪れようとする中、4匹のオプティルトは目標に向かって駆け出した。

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