第22話  完璧なんて存在しない



二人が対立した日。


チェスは急に部屋を出て行き、レオはそれを追いかけるようにして部屋から出て行った。


オスマンはチェスのことが心配だったので、レオを追いかけることにした。



部屋に残されたのは、リズと、リズについていく事にしたソレイユだけだった。


リズはベッドに座り、ソレイユはリズを慰めるために、ベッドに座り、話しかけた。



「大丈夫?」


「無理……。」



リズは座った体制から、一気にベッドに体を預けてポツポツと気持ちを話し始めた。



「なんでわかってくれないんだろう……そりゃ私にだって落ち度はあっただろうけど…。」



リズは力のない声で言葉を発した。



ソレイユはリズを励ますように言葉を紡いだ。



「誰にだって間違いはあるよ。ただ、今回は二人とも頑固になっちゃっただけだと思う。」



ソレイユの言葉を、リズは静かに聴いていた。



「人は怒ると自分が正しいと思いがちになったりもするしね。そもそも全くおんなじ考え方なんてある方が珍しいと思うよ?」



ソレイユの言葉に、リズは疑問を感じた。



「なんで?ルールとか、みんなおんなじことを守るものだってあるのに?」



リズの疑問にソレイユは答えた。



「ルールとかはあっても、それは絶対に守らなければいけないものっていう潜在意識が人々の中にあるんだと思う。でも、元をたどればそれを作るまでに色々な人が色々なことを考えたと思うの。」



ソレイユは続けて言った。



「いろんな案がある中で、妥協案を作って今のルールとかの形ができてると思うんだ。」



リズは言った。



「確かに…一つのことに対して反対意見もあれば賛成意見もあるもんね。」



リズは考えてみた。



そもそも何故自分はあそこまで自分の考えに頑固になっていたのだろう。


完璧な人間なんているはずないのだから、自分が間違ってる可能性だって大いにあった。



ソレイユが言うように、自分はチェスと仲直りができないことにイラついて、自分の考えが正しいと思い込んでしまったのだろうか?



……本当はチェスと妥協案を捜し出すべきではなかったのだろうか。


頭の中を一度空っぽにして、チェスの意見を受け入れて考えてみるべきだったのだろう。



チェスは私より先にわかっていたのだろう。


私と妥協案を探し出そうと思っていたのだろう。



リズは一度考えるのを中断し、ソレイユに言った。



「ソレイユ、私、チェストもう一回話し合おうと思う。今回みたいになったのは、きっと頭に熱がこもって冷静に考えることができなかったからなんだと思ったの!だから、一度頭を空っぽにして、チェスの考えを受け入れてみたいと思う!」



リズは声に力を入れて言った。


ソレイユはそんなリズに微笑みかけ



「私もリズに協力する。きっと今度こそ仲直りできるよ。」



リズには希望が見え始めた。


今まで熱のこもっていた頭の中の熱気は消え去り、済んだ頭で冷静に考えることができたおかげで、今までの自分がしてしまったことについても考えることができた。



起きてしまったことをなかったことにすることはできない。


しかし、起きてしまったことを振り返り、しっかりと反省し、改善することのできたリズは、明日の朝一番でチェスにこのことを話そうと思った。



「今日はもう遅いし、オスマンたちはまだ帰ってきてないけど寝よう。ちゃんと睡眠を取らないと体に良くないからね。」


「うん。」



リズとソレイユはベッドに入り



「おやすみ、リズ。」


「おやすみ、ソレイユ」



寝る前の言葉を言い合い、眠りに落ちた。




リズが自分と妥協案を考えると言う意思はない。


それがわかったチェスはその場にいるのが辛くなり、部屋を飛び出した。



部屋を飛び出した後、誰かが部屋を出たようだったが…今のチェスはそれどころではない。


しばらく廊下を走った。


城の人々は今は宴の真っ最中。廊下には人がいないため、チェスが誰かにぶつかることはなかった。



城の中は広かったため、すぐに疲れてしまった。



「おいチェスト!」



後ろからレオが来た。


まっすぐ走っていったチェスを追いかけてきたようだ。



「レオ君!」



レオの後ろからオスマンが来た。


オスマンも心配で追いかけてきたらしい。



「ほっといてくれ…。」



チェスは深く傷ついていた。


リズはきっと自分と妥協案を探してくれる。そう信じていたのだ。



そもそもそれがいけなかったのかもしれない。


自分が望む結末になる方が確率としては低い。幼馴染といってもそれは変わらない。


過度な期待をかけすぎないことが一番良かったのだが…やはり彼はリズに期待をかけていたかったのだろう。



「そっとしておいてくれ…今は頭が混乱してる…。」


「そんなこと言っても…結局リズと向かう場所は一緒だし…。」



レオは困ったように言葉を発した後。どうしたもんか…と、悩み始めた。



「チェスト君…。」



オスマンはとても心配していた。


二人には一刻も早く仲直りしてほしい。言ってしまえば喧嘩なんてして欲しくなかったのだ。



しかし、起こってしまったことはどうしようもない。


過去に戻ることができるのならば話は別だが……過去を変えることは禁止されているため行うことはできないし、そもそも時間移動系の魔法を使えるものはこの場にいない。



「おいチェスト。悲しい気持ちはわかるが…見たいものと見えるものが常に一致するなんて本当に稀にしか起こらないことだ。それに…人にはそれぞれの考え方があるんだ。それを予想することはできてもあっているかはわからないだろう?」



チェスは首を横に振った。


何に対して否定しているか、オスマンにはわからなかったが、レオは続けてこう言った。



「今お前がすべきことは今を見ることだ。過去でも、未来でもなく今を見ること。今のことをしっかり見て、過去にしてしまったことからどう立ち直るかを考えることが、今のお前に必要なことだ。」



レオの言ったことについてオスマンは無意識に考えていた。



過去は変えられないし、未来なんて予想することしかできない。結果がどうなるか、それはその時までわからないものだ。



……なら今は?今、現在起きていることなら対処ができる。


一番いい方法がわからなくとも見つけることができる。見つけて、今のことを対処することはできる。



「過去も今も未来も考えたくなんてない。できることなら夢を見ていたい…。」



チェスは下を向いてそう言った。

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