第21話  考えの違い



[最終部隊が壊滅した日]



「ありがとう!君たちが力を貸してくれたおかげでなんとかなったよ!」



王はリズたちに感謝していた。


城の中はわいわいと賑わっていた。



「今日は宴だ!君たちもゆっくり休んでくれ。」



その晩、侵略を防げたことを大いに祝った。


オルムたちは皆、幸せそうに歌を歌ったり踊りを披露したり。中には肩を組んで祝い酒を飲んでいる者もいた。



自分たちの状況を理解し、頭を働かせたオルムたちは勝利を掴んだのだ。



幸せそうにしている彼らを見て、リズたちも幸せになった。




リズたちは王に『明日旅立つ』と、伝えた。


王はびっくりしたようだったが、静かに微笑み『この鏡を持っていくといい』と言った。



どうやら鏡は一番魔法が込めやすいものらしく、いつでも王と連絡が取れるよう、魔法が込められているそうだ。



王から鏡をもらったリズたちは、部屋に戻り体を休めることにした。




ーーー




「チェス…話があるの。」



部屋に戻ると、リズがチェスに言った。



「あぁ、俺も話がある。」



二人は言った。



「考えを改めてほしい。」



「俺と一緒に妥協案を考えてくれ。」



「え?」



「は?」



二人が言ったことは大雑把に言えばだいたい同じだが、それぞれ細部が違っていた。



「わかった。落ち着いて整理しよう。まずはリズから言ってくれ。」



チェスは少し期待した。


リズが自分となるべくいい結果になるような案を考えて欲しいと言ってくれるのかと。



「う、うん。」



リズは困惑していたが、話し始めた。



「チェスと喧嘩した時現実的じゃないって言われたでしょ?」



『確かに言ったな。』と、チェスが言った。



「でも…メリアたちはチェスが言っていたようなことはしないと思う。」



リズは言った。



「だって天使と言われているんだよ?きっと!慈悲深くて優しさの塊みたいな人たちのはずだよ!」



リズが自分の理想を語っている間。


チェスはまるで『信じられない』とでもいうような表情をしていた。



「きっと私の考えた取引内容でもいいって言ってくれるよ!」



「は?いや……本気?」



チェスの中にあった期待は冷めていた。


まさかここまで現実を見ていないとは思ってもいなかったのだろう。



しかしリズもまた人間。


間違うこともあれば正しいこともある。誰だってそうだ。


完璧な人間なんていない。




誰かにとって『良い考え』や『正しい』などと言われるものは、誰かからすれば『よくない考え』や『正しくない』と、思われているかもしれない。



今の二人はまさにそう。


リズの考える『良い考え』や『正しい』は、チェスからすれば『よくない考え』や『正しくない』ことだったのだ。





やっと仲直りできるのかと思っていたが、正反対の思考の持ち主だった二人の話し合いは、この後ヒートアップしていく…




そうか……。」



何かに諦めたような声でチェスが言った。



「結局無駄な期待だったか…。」



リズは自分の考えに夢中になっているのか、チェスの言っていることに気がついていなかった。



「?チェス、どうしたの?」



チェスの様子がおかしいことにやっと気づいたリズは、チェスに声をかけた。



「もういいよ…。リズ…お前はやっぱり現実をこれっぽっちも見ちゃいない。」


「そんなことないもん!私は現実を見てる!大体チェスのメリアたちに持っているイメージが違ってるよ!」



チェスが静かに暗い声色で言っているのに対し、リズは感情的に、激しく話た。



「いや、チェスのメリアたちへのイメージがあってるぞ。」



それまで話に入ってこなかったレオが、突然話に入ってきた。



「そもそも学校のメリア学科でメリアたちについて教えられるそうだが…。」




レオが『そうだろ?チェスト。』と、チェスに問いかけた。




「あぁ、いろんな種族の性格や性質が気になったから聞きに言ったんだ。もちろん、メリア学科の先生にも聞きに言ったさ。」




チェスが言うに、そもそも学科の先生になるにはある一定の条件を満たさなければ資格が与えられないそう。


メリア学科の先生たちは、少なくとも5人のメリアと喋らなければいけないそう。


そこで、自分が聞きたいことなどを聞くんだとか。




「メリア学科のニコライ先生は言ってたよ」



『メリアは利己主義だった。彼らは自分たちに不利益をもたらすものは徹底的に潰すだろう。』



「でも!それはたった一人の意見だ!たまたまその人があったメリアがそうだったって可能性もありえなくはないはずだ!」



噛みつくような言葉遣いでリズは言った。




『その人がメリアを嫌いだったかもしれない。』と、終いにはそう言い始めた。




「それはないと思う。」



オスマンがリズの発言に対し言った。



「……なんで?」



少し熱が冷めたのか、リズは声の調子を落ち着かせて言った。



「そもそも1学科の先生になるだけでも大変なんだ。」



オスマンは続けてこう言った。



「僕たちの通っていたローズベルト学園はレベルの高い学園。あの学園から大学に推薦で行くことも簡単だしね。」




オスマンは『まぁ、簡単と言っても最低限の努力はしないとダメだけど。』と、言った後、話を続けた。




「まぁとりあえず、そんなレベルの高い学園の先生になるには普通より何倍も努力しなきゃ慣れないんだよ。そんな大変な職業になるのに、わざわざ嫌いな学科を選ぶのはおかしい。それができるなら自分の好きな職についてるはずだよ。」



オスマンが説明し終わると、チェスはリズに話しかけてきた。



「リズ…お前がなるべく犠牲を出したくない気持ちはわかる。俺だってできればそうしたいさ。」



チェスが言った言葉に対してリズは反撃した。



「嘘だ!チェスはどうせ最低限の犠牲は仕方ないと思ってる!犠牲を出したくないだなんて嘘だ!」



「…お前はわかってくれないか、まぁいい。とにかく、俺は目的こそお前と一緒だが…ゴールにたどり着くまでの道が違う。もう、お前に協力してやることができない。」



チェスは寂しそうな声色で言った。



「小生はチェストの意見に賛成だ。奴らとの取引には多少の犠牲を払うしかない。それが現段階での最適解なんだ。」



レオはチェスの側についた。


リズはソレイユとオスマンの方を見た。



「私はリズについていく。だって、リズの想像することが現実になって欲しいから。」



ソレイユはリズの側についた。



「僕は……。」



オスマンはとても悩んだ末、答えを出した。



「僕はどちらにもつけない。両方正しいと思うんだ。レオ君の言う通り、チェスト君の策が最適解だとも思うし、リズの考えるようになったら素敵だとも思う。」



「なるほど…中立の立場になるってわけか。」



オスマンの言いたかったことをレオが代弁した。




5人は別れてしまった。


リズとチェスは衝突し、レオはチェス側へ、ソレイユはリズ側へ、オスマンは中立の立場になった。



仲が良かった二人に大きな溝、どうにかして仲直りをする事は出来ないのだろうか。



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