最終話「姿人と踊る(後編)」

「我々は魔女……」

「いや、違うな」


 ヒュウ……


 そう言いつつ、アシュはまるで貴族のようにレイピアを自らを中心として正眼に構える。


「お前はただの一魔物だろう?」

「ホウ……」

「サキュバス、夢魔という魔物の名を俺は聞いた事がある」

「……」


 コロシアムに乾いた風が、何処ともなく吹く。本当に何処ともなくだ。


「だとしたら、どうする?」

「俺の友はな」

「ランヴァーとか言ったらしいな、視ておったぞ?」

「英雄になりたかったんだ」

「……」

「故に俺が」


 そこで一旦、アシュは言葉を区切り、そして。


「英雄になる!!」

「あれほど契りを交わしたこの私を、仕留めるというのか?」

「だまれ!!」


 裂帛の声と共にアシュが懐から取り出した一つの布袋、それを彼アシュは魔女へと投げつける。


――ギャアァ……!!――


 甲高い老婆の、それも二人分の声。その寺院から買い取った聖なる灰を魔女にと投げつけたアシュは、そのまま二つ目の袋を「謎のブロック」にと投げつけた。


「やはり!!」


 その灰がブロックにと吸収され、石くれ共々消え去った場所には、ちょうどこのレイピアを置くに最適な祭壇が現れる。


「これで!!」


 アシュは魔女に一旦背を向け、そのまま祭壇にと漆黒のレイピアを置く。


――フッフフ……!!――

「……」

――何故、それでわらわを滅せると思うたのか?

「根拠はない」

――ホウ……――


 いつの間にかコロシアムには闇の帳が舞い降り、日光が遮断される。その暗闇の中から、魔女の哄笑がアシュの耳を打つ。


「俺はな、死体漁りだ」

――……――

「とても、お前達魔女を倒せる力は無い」

――……フン――


 そのアシュの言葉を受けてか、闇の中から現れる二人の女。その裸体からはジャコウの匂い。


「一縷の望みに賭けるしか無かったんだ」


 アシュの言葉に、コロコロと笑う魔女達。


「理論も何もない、この希望にな」

「何を主に、そこまでさせたのじゃ?」

「ランヴァーがな」


 スゥ……


 話しながら抜かれるアシュのショートソード、単なる一般的な量販品、その剣の切っ先が魔女にと向けられる。


「英雄に成りたがって、いたんだ」


 低く呻くようなその声、言葉が終わらない内にアシュはショートソードを腰だめに構え。


「だから!!」


 全く視界の効かない、暗闇の中へと突進する。


「俺も……!!」


 捉えた、そうアシュが思った瞬間。


「愚かよの……」

「ランヴァー、ヘレン、デニム……」


 アシュのその身体が凍り付き、ショートソードが砂にと埋もれ。


「ヘレン、ルーシー……」


 彼の首は、台座から飛び出してきた漆黒のレイピアにより、両断された。


 ピ、ピチィ……


 その噴き出した血を嘗める音が、陽光を取り戻したコロシアムの中にと響く。




――――――




「あら……」


 装備一式を揃えたルーシーは、アシュにでも顔を出そうとしたが。


「天気雨……」


 突如として太陽光の中に降り注いだその雨に、甘い匂いを放つ雨に何かを魅入られた。




~完~

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屍人と踊る 早起き三文 @hayaoki_sanmon

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