第26話「姿人と踊る(前編)」
「な、何よ!!」
獣のごとくのし掛かるアシュを、ルーシーは払い除けようとしたみたいであるが。
「……」
すぐにその抵抗は収まる。彼女も何か、彼を求めていたのかもしれない。
――――――
「あのな、ヘレンが」
「ヘレン、死んだじゃない彼女は」
「ああ、そうか」
朝の光が部屋へと飛び込み、浅黒いアシュの身体と、やや蒼白く不健康にも感じるルーシーの裸体を浮き立たせる。
「死んだんだ、あの二人は」
「そうよ、死んだのよ」
「死人は三人か」
「何を言っているんだか……」
不満げにその唇を尖らすルーシーを、アシュは自身の口で塞ぎ。
「ちょっと……」
その乳房のツンと尖った紅き蕾へと口を動かしつつ、再びアシュはルーシーの躯へとのし掛かる。
――――――
初めは淫夢。
――どうした、アシュよ?――
――お前は何者だ?――
――……魔女、である――
次に友の夢。
――俺はな、英雄に成りたいんだ――
――俺もだぜ、ランヴァー――
最後に。
――ならば、私達の所にいらっしゃい、アシュ――
誘惑の夢。その夢の中でアシュは黒く輝くレイピアを構えている。
「てぇあ!!」
アシュのレイピア技法は我流である。いや、それ以前にレイピアとしての使い方をしていない。
キィン!!
「魔女」の持つ、アシュのそれと瓜二つのレイピアがそれを軽々と弾く。アシュが振るうレイピア、それの使い方はショートソードのそれと同じ感覚で扱っている。
「止めだ、アシュ……」
魔女の魔法により、身動きがとれなくなったアシュを黒きレイピアの切っ先が襲う。
「ごふぅ……」
心の臟を貫かれ、盛大にその口から血流を噴き出させるアシュ。その彼の血を。
「いとしい、アシュよ……」
犬のように四つん這いになった、魔女がその口からジャコウの香りを放ちながら嘗め尽くした――
――――――
「あなたはこれからどうするの、アシュ?」
「それはこっちの台詞だ、ルーシー」
「あたしは……」
そのアシュの言葉に、ルーシーは麻の下着を着ける手を止め。
「今までのような生活をするわ」
「死体漁りか」
「それはあなただって同じ」
その薄いながらも形の良い胸を晒したまま、アシュの顔を睨み付ける。
「こっちの質問に答えていないわ、アシュ」
「俺は……」
そう言いながらベッドから起き上がったアシュは、そのままの姿勢でルーシーの尻を一つ叩きながら。
「一つ、ケリを付けなくてはいけない事がある」
「何よ、それは?」
その訝しげなルーシーの言葉に、真顔のままアシュは何も答えない。
――――――
アシュのレイピア技法は我流である、それでも。
「襲う相手を間違えたな、馬鹿共が」
第一階層で襲いかかってきた「お仲間」の襲撃を、軽くいなす位には腕が立つ。それが最近のアシュの実力である。
「よ、お疲れさん……」
まだ新米と思わしき冒険者、通りすがりの若者達にそう声をかけ、不審げな視線を向けられつつ、アシュは。
「何も変わらないな、ここは……」
以前、グール達に襲われた通路にとその足を伸ばした。ここでランヴァーや「ヘレン」達に助けられたのが遠い昔のようだ。
「さて、ついたぞ……」
コロシアム、天から降り注ぐ陽光により埃と砂が、あたかも光の粒のように撹拌されているその空間にやってきたアシュは。
「……」
そのまま、付近の様子を探り回す。彼アシュの予測では。
「……!!」
一ヶ所、コロシアムの中で不自然な石ブロックを探り当てた。何が不自然かというと。
「光を吸収している……」
陽光、それがそのブロック部分にだけ届いていないのだ。その箇所をアシュが革の手袋を脱いで探っていると。
――来たか、アシュ――
その声が背後から聴こえた途端、アシュは自らの身体を一回転させ、立ち上がりざまに腰のレイピアを引き抜く。
「……魔女」
「わらわの姉上とも交わったようであるな」
「……」
「夢の中、でな」
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