第20話「いざなう者たち」

  

「何か、最近あんた」

「何だよ、ルーシー……」


 遅い朝食、パンと謎の肉が入ったスープだけという質素な食事をルーシーと共にとっていると。


「俺の顔に、何か付いているか?」

「やつれたんじゃない?」

「えっ……」


 一瞬、そのルーシーの言葉に虚を突かれた形となったアシュであるが。


「そ、そんなことはない……」

「あのレイピア、まだ身に付けているの?」

「あ、ああ……」

「あのね、あんた……」


 スープを飲み干したルーシーは、まさしく呆れたという表情を浮かべながら、彼アシュにと空のスプーンを突き付ける。


「さっさと、あんなもの解呪しちゃいなさいよ……」

「ああ、うん……」

「何よ、その気の無い返事」

「しかしな、ルーシー……」


 そう、口を開いて何かを言おうとしたアシュは、そのまま間抜け面でルーシーの顔を見つめたきり、小さく息を吐く。


「使える物だし……」

「あたしはあんたを心配しているの」

「……」


 あまり言える事ではないのだ、このレイピアのお陰で、あの「悪夢」を観れると、感じられるかもしれないということは。


「余計なお世話だ、ルーシー」


 確証もなく人に言えた話ではない、色々な意味で。




――――――




「魔女の賞金額、増えたらしいぞ」

「あのな、ランヴァー?」

「何だ?」

「その魔女って」


 アシュの態度に怒ったルーシーが食事を掻き込み、怒り肩で食堂から出ていくと、今度はランヴァーの奴が入ってきた。


「一体、何をしたんだ?」

「何でも噂によると、この街の領主王」

「狂王だな?」

「その王に、不治の病の呪いを掛けたらしい」

「へえ……」

「大体、一体全体何をしたかって言うと」


 そう言いながら、ランヴァーは豆のスープを頼み、食堂の者が立ち去った後に。


「お前こそ、ルーシーに何をした?」

「別に……」

「怒っていたようだが?」

「さあね……」


 グイと、その顔をアシュにと近づける。


「女のヒステリーさ」

「それだけじゃないと、思うがね……」


 ランヴァーはその話題について、もっと根掘り葉掘り聞きたいみたいではあるが、何かを思いついたようにその話題を取り止め。


「最近金回りはどうだ、アシュ?」

「はあ?」


 ストレートに、その手の話を振った。


「まあ、それなりにあるかな……」

「しばらくは戦場漁りも、しなくてはすむか」

「そう、上手くいけばなあ……」

「弱気だな」

「そうだろう?」


 確かにアシュのいう通り、何の保証もない冒険者という稼業は、いつ食べるのにも困る事になるのか、見当もつかない。


「なあ、アシュ……」


 そのランヴァーの声を聞いた時、何かアシュは嫌な予感がしたが。


「第四階層、行かねぇか?」

「断る」


 その予感は当たり、アシュはそのランヴァーの提案を一刀両断にする。


「ふざけるなよ、ランヴァー」

「俺はふざけていない、アシュ」

「ヒーローになりたいなら、他の奴を探せ」

「他の奴ってもな……」

「あの女僧侶、ヘレンなんかはどうだ?」

「彼女は行く気みたいだな」

「冒険心の強い女だ……」


 正直、この前に死んだばかりだというのに元気な事だ。そうアシュは心の中で皮肉る。


「でもな、やはりランヴァー」

「行かないか」

「悪いな」


 悪い、何か本当にそういう気持ちをランヴァーにと抱いてしまっている事に戸惑いを感じながらも。


 キィ……


 無言で食事を取り続けるランヴァーを尻目に、食堂から出ていった。




――――――




「良い奴隷はいらんかねぇ!!」

「奴隷商人か……」


 最近巷では不作の為、食うに困った村の人間達が身内を売るという、そのせいもあって。


「まあ、俺には関係の無い事だ……」


 奴隷商人たちも商売が繁盛しているのだろう、それだけの話だ。


「ん……?」


 だが、その時彼の視線の先で。


「ヘレ、ン……?」


 飛び出してきた村、そこに住んでいるはずの初恋の少女、今では人の妻となっているはずの彼女の姿が。


「まさか、な」


 見えたのは、彼アシュの気のせいであろうか。




――――――




――待ってくれ!!――


 最初は悪夢、次に淫夢。


――……待ってくれ!!――


 その循環をアシュにともたらす、謎の女は。


 ガバァ!!


「ハア、ハアッ……」


 サイドテーブルにと置かれている水を一気飲みする彼、アシュの持っている剣。


「……」


 彼が見つめる先で淡く光るレイピア、その光と共にやってくる事に。


「……クソッ!!」


ようやくにして、アシュは確信した。

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