第13話「陽光の女(後編)」

  

「な、なにモンだあんた……!!」


 威圧感、それを目の前の女から感じながら、アシュは腰のレイピアをスラリと抜きつつ。


「名乗れ!!」

「私が名乗ってどうするのだ、そなたは」

「う、うるさい!!」


 虚勢、強くそれを張る。


「お前は誰だって聞いているんだ!!」

「うるさい男だな、金剛石の騎士よ」

「金剛石の騎士だと?」


 金剛石の冒険者、その呼び名だけには聞き覚えがある。いまもっとも下層にまで行き着く事ができ、御触れに出ている「魔女退治」を成せるのは彼等だろうと、噂される者たちだ。


「俺は、そんな大したもんじゃない……」

「フン……」


 そのアシュの言葉にその女は鼻で笑う。天井の隙間から舞い降りてくる光の欠片、それが「コロシアム」を覆い、その中で音もなく舞う埃達の姿を際立たせる。


「しかし、ブラックダイヤのレイピア、それに認められたのであろうに?」

「ブラックダイヤのレイピア?」

「そなたが今、構えている剣の事だ」

「ああ……」


 微かに息を吸い、この空間の埃っぽさに眉をしかめながら、アシュはその手に握るレイピアを軽く振ってみせる。


「これは、拾い物だ」

「何……?」

「死体を漁って、手に入れたものだ」


 厳密には少し違うが、その違いを細かく述べても仕方がないとアシュは思い、会話を短縮させた。


「そうか、浅ましい男め」


 その女は身に纏っているオレンジ色の衣服を僅かに拡げるような仕草をした後、何か吐き捨てるかのように。


「まあよい、これも一興である」


 そう呟いた後、その女は淡き光に包まれながら。


 シャア……!!


「な、やる気か!?」


 魔法弾、マジックミサイルの魔法を彼アシュの背後に向かって投げつけた。


「く、くそ!!」


 逃げるか、立ち向かうか、しかし瞬時にアシュが出した答えは。


「た、助けてくれ!!」

「……」

「お願いだ!!」


 その命乞い、それに対して女は無表情のまま、アシュにと近づき。


「うわ……!!」


 その手、白く細いその腕でじかに呪われたレイピアの刀身を握り締めると。


「黒き金剛石の刃よ……」


 何か、術のようなものを唱え始める。


「な、何だ!?」


 身体が凍りついたように動けないアシュのその悲鳴じみた声を無視し、徐々にその声色を上げ続ける彼女は。


「……ハッ!!」


 最後に、裂帛の音をその唇から迸らせると同時に、アシュの身体をレイピアごと突き倒す。


「いってぇ……」

「貴様のような小物とも」

「な……?」


 スゥ……


 その橙色の服、豪奢な衣を音もなく脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になったその女は、地面に倒れ伏したままのアシュにと組み付き。


「契りを交わしてみるのも、良いかもしれん」


 そのまま、その手で器用にアシュのスタデッド(鋲付き革鎧)と衣服をその手で器用に脱がせ。


「や、やめ……」


 声にならぬ声を上げるアシュを無視し、彼の身体の上にと跨がった。




――――――




「ちくしょう……」


 「焦燥」をしきった彼アシュの顔、そのまま何も考える事が出来ず、ただ遺跡の出口へとその歩を進める。


「ちくしょう……」


 何が起こったか、何をされたのか未だによく解らないアシュ、その彼の着崩した服と革鎧を包む腰ベルトの脇で。


 ピィ、ン……


 漆黒のレイピアが、鈍く光る。

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