第二章 雨気 1
車内にはアップテンポな曲が流れ、各々リズムに乗りながらくだらない話を繰り広げている。車窓から外を見ると日が昇り始めたのか東の空色が少しずつ茜色から黄金色へと変わっていた。出発してからすでに二時間ほど経過していた。
運転席には佐藤さんがおり、歌詞を口ずさみながら楽しそうにしている。打って変わって助手席にいる柳井さんは少し憂鬱そうな表情をしながら携帯をいじっている。後部座席に自分と川内が座っていた。川内は明らかに眠そうな様子だが必死に耐えてるようだ。
夜が明け陽の光が強まっていくと車内の会話も少しずつ増えていった。
会話に参加しつつ外の風景を眺めながらこの一週間のことを思い返す。何をするにしても約束のことが頭にちらつき、自分でもどうかと思うほど落ち着かないことが多かった。それはまるで期待で胸を膨らませる無邪気な子供のようで、自分はこの抑えの効かず心地の良い情動に身を任せていた。
この遠出の詳細な内容は飲み会があった日の二日後に送られてきたメールによってもたらされた。どうやら目的地が想像していたよりもかなり遠方にあり、一泊二日の予定で宿も取るらしいのだ。そのため朝早くから出発することになり、目的地に到着するのも昼過ぎになるとのことだ。
そんなことを思い返していると、いつのまにか佐藤さんと柳井さんが今回の怪談について話していた。
「今回向かう先は今までの心霊スポットとは少し毛色が違うんだ。具体的に幽霊を見ただとか、声が聞こえたとかそんな話じゃない」
「どう違うんだよ?前回は人がよく失踪する怪奇な場所とか言ってたけど、アレは単に登山者がよく遭難してただけじゃなかったか?」
「それは忘れてくれ!」
「それに今まで行った場所の真相だって、佐藤が言ってたことと全然違かったぞ。本当に信憑性のあるサイトなのか?」
「今回は大丈夫だよ!」
柳井さんは怪訝そうな顔をしながら佐藤さんの方を見る。佐藤さんはそれを振り払うかのように躍起になって声を張り上げる。
「ちゃんと色んなサイトで調べたから間違いないよ!…ちゃんと入念に下調べはしたから!」
「なら最初からそうしてくれよ…」
柳井さんは大きな溜息をついた。
「で、今回はどんなとこに行くんだ?」
柳井さんは明らかに呆れた様子で佐藤に尋ねる。佐藤さんは落ち着きを取り戻そうと深呼吸をし、少し間を置いて話だした。
「今から行く場所は昔から行方不明者が出ることで有名な村なんだ」
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