第一章 枯渇 3

「心霊スポット?」

「そうなんだよ!」

 予想外のワードが出てきて少し戸惑っていたら突然佐藤さんが語りだした。

「ここからちょっと遠いけど昔からまったく人の寄り付かない場所があるんだ。噂じゃそこに行った人は帰ってこないらしいんだよ」

 興奮気味に語りだした佐藤さんを柳井さんは落ち着かせようと試みるがお酒の勢いもあってまったく止まる様子がない。

「こいつ昔からそういった類の話が大好きでな、ネットで調べたり実際に現地に行ったりしてんだよ」

 柳井さんは佐藤さんの暴走を止めるのを諦め、詳しい経緯を説明し始めた。佐藤さんはすでに自分の世界に没入しており、小言で何か言っているが聞こえなかった。

「で、佐藤の話を聞いた川内が興味を持っちまってよ、結果心霊スポットに行こうって話になったんだ」

 柳井さんは大きなため息をついた。意気投合した二人を説得するのは困難だと目に見えていたのだろう。それにおそらく幾度となく佐藤さんに連れられて心霊スポットに行ったのだろう。

「つまり俺を誘おうと思って今日呼んだってこと?」

「そうだよ~」

 川内は腑抜けた感じで返す。そこかたはだいたい想像することができた。高校の時から川内の誘いを断ったりしなかったので、川内の中で自分はすでに来ることが確定していたのだろう。だから顔合わせも兼ねてこの飲み会に呼んだのだろう。

「大樹はいつも退屈そうにしてるし」

 川内は悪びれずに言う。

「それに誘ったらかならず来ると思って」

「まぁ…そうだけど」 

 なんだかんだ言って川内の誘いは退屈を忘れさせてくれるものばかりだった。いつも唐突だがその塩梅が良いのだろうか。自分でもすこし不思議に思った。

「オーケー。そこらへんの話はまた今度連絡するから」

 柳井さんは話をまとめる。すでに夜も更けており、飲み会もお開きの時間になっていた。会計をすませ店を出ると自分たちと同じように酔っぱらった人々の姿が目の節々に映る。夜の街はそんな人々を冷笑するかのように、静かで冷たかった。

 店先で他の三人と別れ、駅へと向かう。その足取りはとても軽やかでありながら、しかしどこか暗い影を落としていた。

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