第一章 枯渇 1
井藤大樹は講義に集中できずにいた。夏休みもあけ大学が始まって数週間たち、季節は秋へと移り変わっていた。木々は葉の色を変え、気温も日に日に下がっていく。だがそんな変化も退屈を紛らわすのにまったく役に立たない。窓の外を眺めると枯葉が風にのって舞っており、行き交う人たちの顔は寒さでしかめっ面になっていた。
大学に入学してからすでに一年経過し、年齢も二十歳になった。大学入学当初は住み慣れた地元を離れ何もかもが新しい環境だったこともあり、これからの新生活へ期待や興奮で胸を膨らませていた。だが時間が経ち今の環境に慣れるとそれは治まっていき、かわりに心がいつも退屈で満たされていた。自分を激しく揺さぶるような体験を求めていながらも、具体的な行動もせず無為に時間を過ごしていた。
講義が終わる頃には日もすでに落ちていた。駐輪場に行き自転車に乗って帰路につく。今晩の夕飯について考えていると着信があった。携帯電話を取り出し画面をみると、そこには川内俊也という名前が映し出されていた。川内は高校からの友人で自分とは別の大学に進学していたが、大学が隣の市にあり電車も通っていたので、週に一度会って食事をするほど親交は続いていた。
しかし川内はここ一ヶ月ほど何やら大事な用事で忙しくしており、連絡は取っていたが会う機会はなかった。電話にでると快活な声が聞こえた。
「よお、大樹。今暇か?」
「暇だよ」
「それはよかった!なら今から飯に行かない?話したいこともあるし」
「いいけど話って何?」
「それは会ってから話すよ。じゃあ、いつもの場所で待ち合わせで」
それじゃと言って電話を一方的に切った。川内は普段から行動的で周囲を巻き込んでいき人の話を聞かないようなタイプの人間だが、今回は輪をかけてそれが強く出
ていた。話たいことは何だろうかと思考を逡巡させるが、会えばそれもわかるかと途中で思考を放棄した。どうせまた突拍子のないことを思いついたに違いない、そう結論付けると待ち合わせ場所へ向かうために自転車をこぎ出した。少しばかり浮足立っている様子だった。
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