第5話 掃除の続き

ひとしきりに話を済ませて八人を帰宅させた



「さてここからが大変だな」



厩舎の通路のゴミは片付けたがまだ馬の放牧、馬房の掃除、寝藁の交換、飼い葉付けと作業はてんこ盛りである。とにかく馬優先で一人で出来る最低限の範囲で馬房内を快適な空間にしないといけないなと考えながら作業に向かう




まず放牧をする為に馬たちを放牧場に一頭ずつ馬房から連れ出し放牧を行う。

馬たちも外に出てご機嫌なようで放牧地を駆け回るがその後、皆が芝生の殆ど

生えていない土がむき出しの場所で寝転がり砂浴びならぬ土浴びをして馬体に付いている虫を落としたり痒い場所をかいている様に見える




「あれだけ汚れていたら身体も痒いよな」



馬体を洗いたいのだが全員帰したので人手が足りない為、まずは馬房内の掃除と

寝藁の交換を行う。流石に二十二頭分の馬房の掃除と寝藁の交換だけで半日近くの時間を費やし、漸く最低限の清潔感を取り戻した厩舎から出てから汗だくの顔を洗い遅い昼食を馬達を見ながら手早く食べていると白色の襟付きシャツにズボンに

ブーツ姿の少女がこちらに向けて歩いてくる




『セバスチャン!馬に乗りたいのだけど準備してもらえるかしら』



セバスチャンに声を掛けてきたのはこの国の第三王女であるリン王女殿下で母であるダイアナ王妃に容姿、性格も似ており兄弟の中でも一番乗馬が得意で目を盗んでは各近衛騎士団の厩舎に現れ、乗馬を楽しむお転婆盛りのお姫様だ




「リン王女殿下様、馬達を放牧地に出しており馬体も泥だらけですので本日は他の

厩舎へ行かれては如何でしょうか」



普通なら鞍を付けて準備するのだが流石に全身泥だらけの馬に乗せる訳には

いけないので丁重にお断りしようと思ったら




『そなたの所の馬達が汚れているのは何時もの事ではないか!それに私に王女殿下を付けなくていいと何時も言っておるだろうがセバスチャン』




今までの怠慢で断る事が出来ずリン様のお気に入りの青鹿毛の馬プリンセスリンを放牧地から連れてきて濡れタオルで泥を落とし、ブラッシングしてから鞍を載せてリン様の所に連れていく。



『ねえ、セバスチャン。あなた少し性格が変わっていない?何時ものあなたなら私が

命令したからと言っても面倒だから他人に任せるのに自分で全てをするなんて』




何も考えずに準備を行ったが確かに今までのセバスチャンなら他人に任せるか口八丁

手八丁でリン様を言いくるめて他の厩舎に行かせていたので不審に思われるのは

至極当然と事だと考える




「リン王女殿下様今度、王妃様主催の競馬が開催されるのはご存じだと思います。私も厩舎の長として皆の生活を支えないといけない立場を認識したので今までの態度を改め真摯に業務を行っております」




『ふ~ん』



かなり怪訝そうな表情でセバスチャンの顔を覗き込むリンだが早く馬に乗りたい

気持ちを優先して




『セバスチャン、馬に乗るから手伝ってくれる。それと妃殿下を付けないでと何度も言わせないで』




そう言われてセバスチャンはリンの騎乗の補助を行いながらリンに



「畏まりましたリン様。付き添いは必要ですか?」と伺うと必要無いと返事があり

足早に馬を走らせリンは厩舎から離れていった




「さて残りの作業を行わないと今日は帰れなくなるよね」独り言を話しながら

残りの作業を行いながらリンの帰りを待つのであった

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