第26話-突入-
「作戦を説明する」
ジャックさんは、俺達を見渡しながら話しを始めた。
「私達が目指すのは、ナラクの人達を全員地上へ逃がすことだ。トラックの台数は三台、これを守り抜くのが今回の任務になる。そして問題はナラクからトラックが出られるルートが一つしかないことだね」
「リフト、ですね」
「うん、そうだ。つまりゲート及び、その付近を制圧しなきゃいけないってことになる」
「元々選択肢なんてねぇんだ。正面突破あるのみだろ」
「良いっすね! 俺そういうの好きっすよ!」
「相変わらずバカね。ゲートはどうやって開けるつもりなの?」
「そうだ、確か内側からしか開けられないんですよね」
「マスターキーがあるのさ。ね、キング?」
「ん? ふん、なるほど。ゲートは心配すんな」
「そういう事だから早速殴り込みにいこうか」
俺達は軽く武器や機体のメンテナンスを行い、足早にゲートへと向かう。現地点は既に地下都市の付近だ。最寄りの廃駅ホームから地上に上がり、森林と化した廃墟地帯に身を隠す。
「警備の気配はありませんね」
「あんな部隊だけで俺達を止められる気だったってのか? 舐められたもんだぜ」
「いいじゃない。素通りさせてくれるっていうなら」
「そうだね。急ぎましょう、ナラクの人達が心配です」
「走るぞ、お前ら」
そう言い終え、走り出したキングさんを追うように俺達は足を早める。森林を抜けるとゲートまでは難なくたどり着くことが出来た。
「外は静かなものね」
「機体はラインにのせれば量産できるけど、人はそうはいかないからね。外まで守る余裕はなかったんだろうね」
「よし、それじゃあ開けるか」
「マスターキーの出番だね」
「ああ。レンジ、これ持ってろ」
「え? あ、うっす」
キングさんはおもむろにレンジに自分の戦鎚を預け、ゲートに手をかけた。
「まさか、マスターキーってそういうことなの?」
驚く俺達を余所目に、ゲートは乾いた呻きをあげる。
「おら! 行くぞおおおお!!!」
キングさんの両肩が唸りを上げ、白煙を吐き出した。次第に呻きは大きくなり、ゲートは左右に動き始めた。
「すっげぇ……」
とうとうゲートが機体二機分程開いた。壁は相当な厚さがあり、重さも数トンはあるだろう。改めて自分のいる世界が都市にいた頃とは乖離している事を噛みしめる。
「ハァ……ハァ、開いたぞ」
「あ、ありがとうございます」
「さ、入ろうか。キング、次も頼むよ」
「お、おう」
地下都市の地上に続くゲートは全て汚染大気への対処として、二重になっている。ゲート間の空間で除菌などを行えるゲートも存在しているくらいだ。そしてキングさんは二枚目のゲートに手を掛けた。
「皆んな構えておくんだ。ゲートの向こうは戦場だ」
「「「了解」」」
俺達は武器を構え、態勢を整えた。キングさんが腰を落とす。
「行くぞ!!」
キングさんは吠え、力を入れる。すると先ほどよりも早い速度でゲートをこじ開ける。次の瞬間、キングさんが俺達の後方に吹き飛んだ。そこにはキングさんよりもふた回りは優に超える、都市迷彩のエイクァがそそり立っていた。
「これは驚いたな。デカイね、君は」
「ガハハハ! 待ちくたびれたぜ、先輩ぃぃぃ」
「でもオツムは足りてないと見える」
「あぁ!?」
「君、貧乏くじ引いたよ」
「どけ、お前ら……」
くぐもった声と殺気に俺達は思わず振り向いた。
「おいおい、礼儀がなってねぇなぁ。出会い頭に蹴りくれるたあ、ご挨拶じゃねぇか」
あからさまに歯を食いしばって喋るキングさんは首を鳴らし、肩を回しながら前方のゲートを潜った。大男との距離は僅かに数十センチ。キングさんが少し見上げる形で睨み合っている。
「なんだぁ? 赤いの。ちょっと頑丈らしいなぁ。ぶっ壊すのが楽しみだぁ」
「良く喋るゴリラだな。躾のなってねぇペットはこれだから嫌ぇなんだよ」
「キングの兄貴! これ!」
レンジは預けられていた戦鎚をキングさんに差し出した。
「あ? んなもんいらねぇよ! こんな糞猿素手で十分だ! その辺立て掛けとけ」
「さ、さーせんっす……」
言われた通りにレンジは戦鎚をゲートに立て掛ける。
「お前ら先行け。俺はちょっくらコイツと遊んでくわ」
「それじゃ、お言葉に甘えて。あ、そうだ。ゲート開けておいてね。皆んな行こう」
俺達はジャックさんと共にゲートを潜り、大男の横を通過する。誰一人として振り向きもしなかった。
「おぉい! 待てよ、おまっ……」
ドゴッと重く鈍い音が響き、大男は地面に叩きつけられる。俺が通り過ぎ様に横目で見た光景はキングさんが大男の首を掴み、頭を振りかぶっている様子だった。
「よそ見してんじゃねぇぞタコ。遊んでやるっつってんだろ?」
俺達はそんなキングさんの言葉を背に、歩みを早める。リフトのある施設は目前だ。
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