第24話-排撃-

どれくらい時間が経ったのだろう。背中を預け合い、勇み立つ俺達の周囲には、黒い山がいくつも出来上がっていた。しかし、息も絶え絶えな俺達を取り囲む影は一向に減っている気がしない。

「……何体倒しました?」

「数えてられるかよ」

「俺二百までは数えてたっすよ」

「じゃあみんな合わせて四桁はいってんじゃないの?」

「一度退くかい?」

「馬鹿言え。まだ暴れられるってのが分かってウキウキしてきたとこだ。なぁレンジ」

「そ、そうっすね! はい!そうっすよ!」

「言わされてるじゃない」

「んなことねぇよ。お前とは鍛え方が違うんだ、まだまだへばらねぇわ」

「はいはい。そうね。凄い凄い」

「あしらってんじゃねぇぞ、おい」

「口より手を動かせ」

「……うっす」

何故か自分だけ怒られたレンジは不服そうな声色で答え、それを横目にハングは笑いを堪えている。二人ともまだまだ元気は残ってそうだ。

「そろそろ仕掛けてくるよ」

「また固まって来ますね」

戦いの最中、いつからか個々で飛び掛かって来ていたセルは、一定数で息を合わせ攻撃してくるようになっていた。今回の個体はいつもより学習が早い気がする。気のせいだと良いけど。そして、息を整え迎撃の態勢を取った時だった。俺達の後方から乾いた破裂音が幾つも響き渡り、俺達の側を掠めた何かは数体の敵を捉えた。

「何だありゃ」

「冗談っすよね……」

「エイクァ……ですか」

「そうらしいね」

破裂音に振り向いた俺達が見たものは、建物の屋上に立つ、十数機のエイクァだった。とは言え、俺達の機体とは一見して違う。俺達の機体に比べればチープに感じる。そして手にしているのはライフル、銃口の下には片刃の斧が取り付けられている。

「てめぇら何者だ!!」

「胸に付いてるあのエンブレムは地下都市のものだね」

「ご名答。流石は先輩方だ」

都市迷彩にカラーリングされた機体の内、一機が応えた。声は低く少ししゃがれている。

「我々は地下都市所属、地上探査部隊。昨日試験的に創設されたので名前もろくに決まってないがね。とにかく、貴方らを援護する。総員、構え!」

彼は一方的にそう言うと、部下であろう他の機体が一斉に銃を構えた。

「何でお前らがそんなもん持ってんだ」

「コソコソ死骸でも集めてたんだろう。この前の合同製造で造り方を盗んでね」

「汚ねえっすね」

「今は取り敢えず援護があった方がいいんじゃないの? 話はその後でもできるわ」

「そうですね。先ずは敵をなんとかしないと」

「チッ。あんな奴らに背中預けたかねぇな」

「そうだね。背中にも気を付けるとしよう」

やむを得ず俺達は援護を受け入れ、再び眼前の敵に武器を構えた。

「気は乗らねぇが、やるか」

銃撃を警戒したのか、動きが堅くなっていたセル達に一気に猛襲をかける。想像を裏切ること無く、都市部隊の攻撃は纏まりがない。何度か俺達ギリギリを弾が掠め、その度にキングさんが吠えていた。彼らの射撃は敵の行動を抑止はするものの、数発程度では無力化は望めないダメージしか与えられないようだ。しかし今は贅沢を言っていられない。一瞬でも敵の動きが止まるだけありがたいと思おう。

「みんな、もう少しだ。終わりが見えてきたよ」

「確かに増援の量が減ってきたわね」

「押し切るっすよ!!」

飛び掛かって来たセルを空中で打突しながらレンジが叫んだ。

「よし、行くぞ!!」

俺もそれに応えるように、レンジの背後を狙う敵に横薙ぎの一撃を浴びせる。

「一気に畳んじまうぞ! 付いてこいお前ら!」

キングさんはそう言うと、戦鎚を引きずりながら僅かに残った群れに走り込んだ。俺達もそれに続き、ラストスパートをかける。今までよりも、重く、速く、的確に急所を狙った。

「終わりっすね」

「ハァ……ハァ、やっと終わったのね」

「やりました。勝った」

息を整えながら辺りを見回す。広場の様になっていた筈のこの場所は、黒一色に染まっていた。心地いい生の実感に気が緩みかけた所でキングさんが口を開いた。

「まだ問題は残ってるがな」

キングさんの視線は真っ直ぐと都市部隊に向けられている。

「そうだね。ちょっといいかい? 君達からは聞かなきゃいけない事がありそうだ」

ジャックさんはさっきの指示を出していた機体に声をかけた。

「これは奇遇だ。当方も貴方達に伝えなければいけない事がある」

「あぁ? 何だ、聞いてやるよ」

「貴方達は数多の敵と激闘の末、健闘も虚しく名誉の戦死を遂げるのです」

彼はそう言い終えると右手をスッと挙げた。それに従い、他の機体が俺達に銃口を向ける。

「どうなってんのよ……」

「これは何の真似かな?」

「分かりませんか?」

「分からねぇな。お前ら、俺らを本気で殺せると思ってんのか?」

「察しが悪い。これだから野蛮な番号無しは嫌いなんです。我々の行動は地下都市の意思なんですよ? ご抵抗は賢明でない」

「まさか……お前ら!!」

ジャックさんが口調を荒げ、喰いかかった。どういう事だ。こんなジャックさんは見た事がない。

「貴方は話がわかるようだ。つまり、貴方達の行動によっては、地下都市に帰る場所がなくなってしまうと言うことですよ」

「ナラクが人質ってことか……」

俺達は地下都市に害を与えていない筈だ。それどころか貢献している。どこに俺達を消す理由があるんだ。

「文句があるなら掛かってこいよ!! ナラクの人達は関係ねぇだろう!!」

レンジが声を荒げるが、都市部隊が耳を貸す様子はない。

「取り敢えず、そうですね。機体を降りて、手を頭の後ろで組んで貰えます?」

激闘を乗り越えた矢先、想像もしていなかった事態に包まれ、状況もまだ飲み込めていない俺達に冷たく奴はそう言い放った。

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