第23話-死地-

「さて、どうしたもんかね」

黒樹に呑まれた廃都市を前に、キングさんが腕を組み言う。

「トラックはここで降りよう。取り敢えず索敵だ」

俺達は機体の準備を整え、トラックを後にした。市街地に入ると、建物に身を隠しながら瓦礫を足場に、低いビルの屋上に向かった。

「どうだ、見えるか?」

先頭にいたレンジが最初にビルの屋上に行き着き、後に続いていたキングさんが問う。

「これ、ヤバイっすよ……」

全員が屋上に上がり、街を見渡す。黒樹の出現により住宅地だったであろう一帯の家屋が薙ぎ倒され、広場と化していた。そこには想像を裏切らず、というか当然、無数のセルの姿があった。

「これ全部相手にする気なの?」

広場の奥のここよりも高いビルに視界が遮られているにもかかわらず、目視出来る範囲だけでも以前とは非にならない数が群れているのが分かる。そして、高いビルの向こう側にも黒い木々は続いていた。

「ここだけでざっと100は下らねぇな」

「この感じだと全部で1000体は行きそうですね」

「幾ら小型っつっても一度にこの数は不味くないっすか?」

「細い道におびき寄せて確固撃破したとしても相当な持久戦になるね。どうにか数を分断したい所だね」

「なら、そこらのビルをぶっ倒すか。火薬は?」

「工作用の爆弾は持って来てるわよ」

「やるか?」

「あの並んだビルをひとつ倒せば、ドミノみたいに倒せるかもしれないね。やってみようか」

「私が行くわ。この中なら適任でしょ」

「俺達は陽動ですね」

「よし、一発かましますか!」

「それじゃあ、いこうか……作戦開始!」

「「「「了解!!」」」」

ジャックさんの号令を皮切りに、ハングは手近な建物に飛び移り、俺達は屋上から広場に飛び降りた。

「死ぬ気で生き残んぞ! オメェら!!!」

「っしゃああ!!」

キングさんが雄叫びを響かせ、黒い群れに戦鎚を叩き込む。それとほぼ同時、レンジも敵を串刺しにする勢いで全力の槍撃を打ち込んだ。二人の攻撃は小規模な爆発を巻き起こしたかの様に数体のセルを吹き飛ばし、黒い地面に穴を開ける。

ジャックさんと俺も後に続き、二人の背後を狙う敵を着実に叩き落としていった。

「減らねぇっすよコレ!」

「うるせぇ! いつかは終わる!」

「ははっ、にしてもハーミット様々だね。うんと戦い易いよ」

飛びかかって来たセルの側頭部をメイスで砕きながら、ジャックさんがどこか楽しそうに言った。

「ああ、そうだなっ!」

キングさんは腰の入った一振りでセルを打ち上げ、応える。

「兄貴達、なんかちょっと楽しくなって無いっすか!?」

必死な様子で、しかし無駄のない動きで的確に急所を突くレンジ。負けじと俺も二体、三体と薙ぎ倒して行く。

「こちらハング。準備完了」

「早速いこうか」

「了解。ブチかますわよ。オーバー」

ハングの言葉と共に、爆発音が響き、広場と化した住宅地とビル群の狭間から白煙が立ち昇った。そして、ビルはゆっくりと轟音を立て、傾き始める。倒壊は隣、また隣へと連なり、あたり一面に砂煙が覆いかぶさった。

「成功ですね」

「ここからが正念場だよ」

「いい感じに身体があったまって来たぜ」

「よっしゃ! やってらぁ!」

煙が晴れると、横たわったビルの残骸が広場の奥に続く道を分断し、高い壁を築き上げていた。

「こちらハング。上手く行ったみたいね。でも今の騒動で向こうからセルが集まり始めてるわよ」

「それでいいんだ。壁が出来たお陰で、少数ずつしかこっちに来れない筈だからね」

「なるほど。私もそっちに戻るわ」

ジャックさんの言う通り、壁に僅かに生じたいくつかの隙間から、奴らが這い出てくるのが見える。このペースなら、いける。

「さてみんな、第二ラウンドといこうか」

突然の出来事に警戒して、大人しくなっていたセル達は少しずつこちらに向き直り、臨戦体制に戻っていく。俺達も再び武器を構え、眼前の敵を見据える。無数の敵が奇怪な動きでこちらを睨み、辺りには身体の一部が粉砕されたセルの亡骸が転がっている。中には粉砕されて尚、のたうち回っている個体もあった。これほど凄惨で、死の色の霧が濃く立ち込めた場所は他に無いだろう。しかし、誰一人として諦めも臆することも無い。この地獄を、死地を越えた先にある生を、馬鹿笑いの響くナラクに、生きて帰ることだけを考えているのだ。

「……いくぞ」

 そして俺達は、一歩ずつにじり寄る黒い霧に駆け出し、武器を振り下ろした。

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