第22話-暗雲-
大きな地震から一夜が明け、俺達は作戦室に招集された。レンジ、ハングと共に作戦室に入ると、ジャックさん達三人の姿があった。
「ジャックの兄貴! どこ行ってたんすか!」
「やあ、おはよう。久しぶりだね」
「取り敢えずお前らも座れ。今は地震の対応が先だ」
「そうだね。あれだけの揺れだ。大規模な黒樹が出現していても不思議じゃない」
「うっす…」
「それで、また確認に行くの?」
「前回の規模より大きい黒樹だとしたら、セルの数も多いってことですよね」
「前回より震源地が近いってのもあるんだがな。まあ、そのあたりを含めて儂から状況を説明させて貰うとしよう」
「はい、お願いします」
「まず震源地は、ここから南に三十キロってとこだ。元々港町があったとされるエリアだな」
「三十キロって、すぐそこじゃない」
「ああ、少なくとも今日中には何か手を打たないと不味いレベルだぜ」
「選択肢はないよ。ここにいて大量のセルに押し寄せられたらお終いだ」
「そうっすね。そうと決まれば行きますか!」
「でも、流石にあの時以上に数が多いんだとしたら、捌けるのも限界があるわ」
「まあ、そう焦るな。儂らも今まで遊んでた訳じゃない。色々と拵えてあるぞ」
ハーミットさんがそれまでの険しい表情を崩し、ニヤリと笑う。
「ほう、今度は何を作ったんだ?」
「人類の特権。武器だ」
「おお! 武器っすか!」
「成る程。確かに格闘より効率的にダメージを与えられれば、捌ける数も増えるね。だけど、火器さえ通用しなかった敵に、有効な武器なんてあるのかい?」
「百聞は一見に如かず、だ。移動しながら話そう」
俺達はドックに向かい、部屋を後にした。
「通用するか、だったな。答えはYESだ。考え方をちいと変えたんだよ。近代兵器ではなく、古臭い武器をモデルにした。文献を探すのには苦労したがな」
「どう言うことですか? 古い武器?」
「要は鈍器だ。敵を貫いたり、切り裂くんじゃなく、ぶん殴ってカチ割るんだよ」
「いいねぇ。俺は好きだぜ、そう言うの」
ドックの入り口をくぐると、中には人の殺意や戦意を具現化したような、重厚感のある様々な武器がズラッと並んでいた。
「こりゃ凄い。随分な数を作ったんだね」
「材料と時間があればこれくらいは朝飯前だ。試してみて気に入ったのを持ってけ」
「それじゃあ、早速試させて貰うよ。皆、機体を準備しようか」
各々機体を装備した俺達は、思い思いに並べられた武器を手に取り、重さや振るいやすさを確かめる。
「どれも強度は機体並みかそれ以上だ。計算上は十分に威力を発揮する。あとは好みだな」
「俺はこいつが気に入った。いい重さしてやがる」
居の一番にキングさんが選んだのは柄の長い、見るからに重そうな戦槌だった。柄の端から頭までの長さは、キングさんの機体と同程度はある。
「流石キングの兄貴。かっけぇの選びますね! 俺はこれにするっす」
続いてレンジは先端に先の尖った六角柱状の頭を持つ槍の様な武器だ。
「これはなんだい? 面白い形だね」
ジャックさんは片手で扱えそうな、サイズの短い柄の先に歪な頭を持つ武器を手に取り尋ねた。
「ああ、そいつか。メイスっつってな。鎧ごと敵をぶん殴る為の武器だ」
「いいじゃないか。私はこれにするよ」
「どれも重いわね。距離をとれる武器はないの?」
「それならアレはどうだ?」
ハーミットさんが指さす先にあったのは、鎖の両端にメイスのような頭部を持つ武器だった。
「じゃあそれにするわ」
「ゼロ、お前はどうする?」
「そう、ですね」
俺は近くにあったほど良い長さの櫂の様な武器を手に取った。重さも長さもしっくりくる。
「これにします」
「皆決まったね? 作戦諸々は移動中にしよう。さあ、出撃だ」
「武器の感想、楽しみにしてるぜ」
俺達はハーミットさんに見送られながら、前回同様、トレーラーに乗り込み地下都市を出発した。
「ちょっと思ったんだけど。皆、パっと武器選んでたけど使いこなせるの?」
「俺は警備隊時代に棒術とか諸々ひとしきりは習ったからね。レンジもじゃないかな?」
「そうだな。あの辺、俺割と好成績だったぜ。てかそう言うお前はどうなんだよ」
「散々リズさんにワイヤーのテクニック叩き込まれたから大丈夫よ……」
「お二人はどうですか?」
「ん? 俺らか?」
「私達はあれだよね。キング」
「ああ、そうだな」
「「感覚」」
声を合わせて言う二人を見て、俺は少し安心感を覚えていた。それだけ二人が居なかった時間が長く感じていたんだろう。
「さあ、直に着くよ……え」
息を漏らす様に驚愕の声を発したジャックさんの視線の先には、辺りの建物よりも数段大きな黒樹が幾つもそそり立っていた。そして、トレーラーが静かに停車する。
「ふっ、こいつは今度こそやべぇかもな」
「これ、マジっすか」
「町ひとつが……飲まれてるじゃない」
視界に映るのは、大小さまざまな黒樹に飲まれた廃都市。その数は幾十にも連なり、黒い森とさえ呼べるようなものだった。これまで俺達が肌に感じて来た、死という存在が軽薄に感じられる程の現実を、俺は何故か美しいとすら感じていた。
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