119, 5-08 エサやり

前回のあらすじ

 またオレ何かやっちゃいました?



冒険者たちの拠点になっているからか、村には魔石の取引所があった。

そこで魔石をお金に変え、武器屋で剣を売る。

夕食を取るために適当な食堂に入ればイケメン吟遊詩人が歌っている。

給仕もイケメン、イケメンばっかだな。



俺は、今生の自分の顔を鏡で見た時「そこそこイケてるな」と思ったのだが、全然モテない。

新人の面倒を見る時、少数だが女性もいた。

親切に色々と教えて、好感をもってもらえたかな、と思うと距離を置かれる。

鈍感系主人公というわけではなく、ある日突然声をかけると逃げていく。

やはり、俺は異世界転生者なので何かしら価値観が違うのだろう。

毒舌プリーストには付きまとわれたが、あいつはストーカーだし。

家出令嬢は付いてきたが、暴力女だし。

痴女銀狼は・・・、痴女だし。

これはやはりあれだ。

自分を鏡で見るとイケてると感じるやつだ。

前世でもあった。

実際はフツメンだが、イケメンに見えてしまう現象。



そんなフツメンの俺にもモテ期が来たのか、ロリエルフが膝の上に乗ってくる。

鶏の腹の中にライスや野菜など具材を詰めて焼いた料理を切り分ける。

前世でもこんな料理あったなとスプーンでライスをすくうと、ロリエルフが「おいしそう!」と口を開ける。

魔法で料理の温度を下げてやり、口に運ぶ。

幸せそうに口を動かすロリエルフ。

俺が食いたかったのに。



この世界に娯楽は少ない。

そんな中でも人は何かしら楽しみを見つけるものだ。

俺は読書をよくするが、そればかりでは飽きるので、たまに牧場で動物とたわむれていた。

動物とのふれあい体験とかエサやりとかそんな感じだ。

割と人気の娯楽で、牧場は一般公開されており無料で遊べるが、何かしら手伝いをしないといけない。

多くの人は掃除をしていた。

俺は魔法を使えるので動物の健康診断や治療を手伝っていた。

動物には魔力を作る器官もないし、魔石もない。

だから魔力抵抗はないので普通の魔法使いでも回復魔法を使える。

獣医さんは魔法使いだ。

馬は衛兵や騎士たちが面倒を見ているので乗馬は出来なかったが、牛をなでたりするだけでも結構癒やされる。

最終的に食われるんだなと思いちょっと悲しくなった・・・。


冒険者としての仕事も俺の中では娯楽だ。

魔石回収とかは面倒くさいが、モンスターをぶっ殺してストレス解消したり、森の中を散策して気分転換していた。


そして、食事も楽しみの一つだ。

この世界の料理は、普通に美味い。

大体は前世と同じ食材だし、味付けもそれほどおかしなものはない。

人間が生きていれば似たような調理法になるんだろう。

もちろん全く同じというわけではなく、異世界特有の調理法も存在する。

魔法料理というやつだ。

家出令嬢の屋敷で出てきたスープは透明だったのに旨味が凝縮されていた。

あれは多分、魔法で旨味を抽出し、加えた料理だ。

カナリッジでも商人などが通う人気の高級レストランがあり、俺も行ったことがある。

予約制で、一人で行った。ぼっち飯だ。

俺は大体いつも一人で飯を食っていたわけだが、わざわざ予約までする店に一人で行くやつはいない。

ふらっと立ち寄るわけではないのだ。

かなり美味かったが、値段は高く、周りの視線も痛かったので一度しか行かなかった・・・。

まぁ、前世でも分子ガストロノミーなんて調理法があったので異世界特有でもないか?

当然、俺はそんな料理は食ったこと無いし、詳しくは知らない。

科学の力で旨味を抽出したり、泡にしたり液状化したりゼリーにしたり、なんてテレビで見たことがある。

魔法か、科学かの違いだろう。



そんな俺の数少ない楽しみを妨害するロリエルフ。

ライスをすくえば口を開ける。

口に入れてやるとモグモグ動かし、すぐになくなる。

そしてライスをすくうと口を開ける。

料理を適温にしているからか。ちゃんと噛んでいるのか?俺はいつ食えるのか?!

ロリエルフが満足するまで食わせてやると、料理は冷めていた。



宿に戻り風呂に入る。これも楽しみの一つだ。

ゆっくりと湯に浸かり、癒やされる。

ベッドで仰向けになり、今日はどんな妄想をしようか熟考していると、ノックの音が。

まさか家出令嬢の妨害か、とドアを開けるとロリエルフ。

「ジョニー、いっしょに寝よ?」

勝手に部屋に入ってきて靴を脱ぎ、ベッドに入る。

追い出すわけにもいかず、仕方なくちょっと離れた位置で眠ろうとすると、ロリエルフがくっついてくる。

「おとうしゃん」

(俺はおとうしゃんではない)

まぁ、寝言だろう。

ちょっと暑苦しいが、相手は子供だ。仕方ない。俺は異世界転生者、俺の半分は優しさで出来ているのだ・・・。



「チュンチュンチュン」

小鳥の鳴き声が聞こえる。

身だしなみを整え、革鎧を着ていると、ドアをバンバンと叩く音が・・・、開けると家出令嬢がうるさい。

「ジョニー・・・。いないんだ・・・。いなくなってしまったんだ!!」

誰がいなくなったか言えよ、と思うが、多分ロリエルフのことを言ってるんだろう。

俺はベッドまで歩き、指を差す。

ベッドで眠るロリエルフを見た家出令嬢は、俺を見て、ロリエルフを見て、また俺を見て、「ま、まさか!?」という顔をしてバサッっとシーツをめくる。

そこには服を着てスヤスヤと眠るロリエルフが・・・。

家出令嬢は自信溢れる笑顔で言った。

「信じていたぞ!ジョニー!!」

(殴りたい、この笑顔・・・)

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