120, 5-09 オークとの戦い

前回のあらすじ

 殴りたい、この笑顔・・・



この世界では森にあまり名前は付いていないのだが、無駄に多くの名前がついている森もある。

ルービアス大陸中央にある森で、『大陸森』『中央森』『世界森』『大森林』などなどいろいろな呼ばれ方をされており、このエルフの国では『森エルフの森』だとか『エニュなんたらの森』と呼ばれている。

統一しろよと思うが、皆好き勝手に呼んでいる。

4大国の中心にある、とにかくデカイ森なのだが、神話があるわけでも、強いダンジョンがあるわけでも、ボスモンスターがいるわけでもない。

むしろ森の規模からするとモンスターは少ない。

外周近くに隠れ住んでいるモンスターはいるのだが、わざわざ森の奥深くに入っていく物好きなモンスターはいないのだ。



そんな無駄にでかく、名前が多い森を今歩いている。

なんのためといえばロリエルフを親元に返すためだ。

だが道はなく、ロリエルフの「あっちー」というかなり大雑把な指示のもと進む。

ロリエルフは俺が抱っこしている。

街の外では戦えるようにしたいのだが、「だっこー」とゴネるので、仕方なく抱っこしている。

そんな状態でモンスターに遭遇する。



オークだ。

まぁ、豚頭の人型モンスターだ。

腰布を巻き、棍棒こんぼうを持っている。


この世界の大鬼オーガめすが居らず、ダンジョン外で繁殖するようなことはない。

だからカナリッジ周辺に大鬼オーガはいない。

しかし、豚鬼オークはダンジョン外でも繁殖し、増えるタイプのモンスターだ。


人に害をなすモンスターは多いが、人に害をなさないモンスターもいる。

ダンジョン外に出て縛りなく自由に生きていたり、草食動物が魔力汚染の影響で変異したり、そういうモンスターは人を襲わない。

生きていく過程で肉食のモンスターが人を襲う、という場合がほとんどだ。

当然、人以外の生き物も襲っているし、モンスター同士の争いもある。野生動物に近い。

だから、悪意を感じるモンスターというのは意外に少ない。

ゴブリンも人を襲うが、あれは繁殖のためという理由がある。


豚鬼オークは同種族としか子供は作れないのに他種族のめすを襲う。

襲う理由は娯楽のためだ。

襲って犯して食うのだ。

かなり残忍なモンスターで、悪意を感じる。

カナリッジ女性冒険者がいたくないナンバーワンのモンスターが豚鬼オークだ。



ロリエルフは、この危険なモンスターがいる森を一人で歩いて街までたどり着いたのだから凄い。

偶然遭遇しなかったのか、魔法でも使っていたのか。


3匹のオークは警戒した様子でこちらを見ている。

戦うにはロリエルフは邪魔なので、青エルフに預ける。

とりあえずオークの目を狙いナイフを投げると、腕で防いだ。

「ブヒブヒ」と笑っている。ムカつく。

何度か投げてみるも全て弾かれる。

防御だけで近づいてこない。結構慎重な奴らだ。

仕方なく剣を抜き、近づいて斬りつける。

皮膚は分厚く、傷は付いたが表面だけで血も出ず、あまり効いているようには見えない。

棍棒こんぼうを持った腕を振ってきたので避ける。

動きは遅いが当たったら痛いでは済まない力強い振りだ。

(普通にやっても勝てないだろこれ、逃げるか・・・)

俺一人ならやはり逃げ出すところだが、後ろにロリエルフがいる。

「ジョニー、よわよわ」とか言われたらショックだ。

仕方がないので剣に魔力をまとわせ、剣の中にも魔力を込める。

魔力をまとわせれば大抵のものは貫ける。

オークの胸を狙い剣で突けば、驚くほど簡単に刺さり、オークの体内で熱を帯びて弾ける。

剣に対して魔法を使っているので魔力抵抗はない。

弾けた剣の破片が体内をズタズタにし、熱で焼く。

ここまでされて生きていられるようなモンスターは少ないので、オークも当然死ぬ。

仲間をいきなり瞬殺されて二匹のモンスターが焦っている。さすが異世界転生者、俺強えぇ!である。

残りのオークを家出令嬢が例のごとくミスリルの剣で切り刻み、痴女銀狼はぶん殴って仕留めた。

ナイフを拾い、オークの魔石を回収しようとすると、粉々に砕けていた。

失ったもの、ショートソード一本。得られたもの、なし。赤字である。



この辺はあの3匹のオークの縄張りだったのか、モンスターどころか動物も見かけない。

ロリエルフの指示に従い森を進むが、暗くなってきた。

結構歩いたのでそろそろ集落だろうと別れて探す。

俺はロリエルフと一緒に休み、4人の女達が働く。

別に俺がサボっているわけではなく、ロリエルフを抱っこしているからだ。

痴女銀狼と家出令嬢が探しに行ったが、双子エルフは何やら不穏な空気。

「やはり火の精霊・イフリートン様こそが偉大な精霊なのです」

「それは違います。水の精霊・ウンディーヌン様こそが最も偉大な精霊です」

どこかで聞いた事があるような無いような精霊の名前を使って争いを始める。

赤エルフが杖をかざすと炎の槍が生まれ青エルフに向かっていく。

青エルフが杖をかざすと水の壁が立ち上り槍を防ぐ。

赤エルフの周りに火球が、青エルフの周りに水球が、それぞれ直径30センチほどのそこそこデカイ球を20個ほど生み出し、相殺し始める。

この世界のエルフは同時にあんな魔法は行使できないはずだし、魔力コントロールも相当難しいはずだが・・・。

魔法の球の応酬を繰り返し、森が破壊されていく。

地面をえぐり、草木を燃やす。

そうして3メートルほどの炎と氷の蛇が生まれお互いに絡み合い木々をなぎ倒し始めた。

(なんだこれ・・・)

困惑する俺。

双子エルフの能力もわからないが、何故急に暴れだしたのか。

そういえば美脚エルフが暴走したら止めてくれとか言っていた気が・・・。

これなのか・・・?どう止めろと・・・。

「やめてーーー!森がしんじゃうーーー!!エニュモルマルファルスさまーーー!!!」

ロリエルフが泣き出して変な名前の神の名を叫ぶ。

可愛そうなので止めに入る。

止めに入ると言ってもあんな中に入っていったら死ぬので、赤エルフと青エルフの顔の前に光球を生み出してやる。

目くらましだ。魔力コントロールが乱れれば魔法は途切れる。

だが予想外の現象が起きる。

光球の魔法は双子エルフの前で弾け、キラキラとした輝きが生まれる。

その輝きに触れた魔法が消えていく。

(なんだこれ・・・)

困惑しかない俺。

双子エルフも困惑している。

さっきまで派手に喧嘩していたくせに、どうでもいい質問をしてくるので、俺はちょっとイラッときて説教をする。

荒れた森を綺麗にしろと。

火を消し、水たまりを乾かし、土をならし、折れた木や枝、燃え残った落ち葉などを一箇所に集める。

ちょっとした広場が出来た。

双子エルフの暴走で派手な音がしていたので家出令嬢と痴女銀狼が戻ってきた。

別に戻ってこなくても良かったんだが戻ってきてしまった。

集落も見つからないとのことなので、暗い森を歩くのは危険だろうと判断しキャンプすることになった。

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