104, 0-62 幕間・家出令嬢の喧嘩

・セリーナ=ハルフォードの喧嘩


前回のあらすじ

 残念美人



「セリーナよ、その者達はなんだ」

父が尋ねてくるが、私は母様に紹介する。

「母様、私の仲間のジョニーとヘルガです」

「私はセリーナの母、アネットです。お二人共よろしくね」

母が名乗ると獣人のヘルガは「ああ、よろしくな~」と気安く答える。

だが普人のジョニーは違った。

急に片膝かたひざをつき、母の手を取り、手の甲に口付けをした。

「私の名前はジョニーです。しがない冒険者をやっております。以後お見知りおきを」

「あらまぁ、これはご丁寧に。一体どこの挨拶かしら」

「ジョニーはビブリチッタ様の信徒だそうだ」

「たしか・・・知識の神様だったかしら」

「ジョニーはとても信心深い男なんです」

「それはいい事ね。さあ、もう立ってください。そんなにかしこまらないで」

平民のジョニーが礼儀正しく挨拶をしたというのに、父が失礼なことを言う。

「挨拶が終わったならお帰りいただこう。ここからは家族の大事な話がある」

「父よ、私の仲間を追い出すというのか!!」

「お父様と呼びなさい。追い出すも何も招いてはいないよ。私はお前を連れ戻すように衛兵に命じたのだ」

「父よ、そもそも衛兵を使うのは卑怯ではないか!!」

「お父様と呼びなさい。・・・別に卑怯ではないだろう。何が卑怯なのだ」

「父よ、私に用があるのなら直接会いに来るべきだ!!」

「お父様と呼びなさい。いや、娘を探すために領政を投げ出す訳にはいかない。私はこれでも忙し―――」

「言い訳をするな!!」

「グボァァ!!」

私が父に制裁の鉄拳を食らわせると、母様が手を叩いて言った。

「喧嘩をするのはお腹が空いているからです。お食事にしましょう」



食事の最中も父がグチグチと因縁をつけてくる。

「お前はもっと女性らしく―――」

「父よ、私はいつだって女性らしいぞ」

「お父様と呼びなさい。・・・本気で言っているのか?とりあえず、直ぐに人を殴るのは止めなさい」

「父よ、私は理由もなく暴力は振るわないぞ」

「お父様と呼びなさい。お前はそう言うが、ノア君も以前、我が領地を訪れた時お前に暴力を―――」

父の言葉を失礼にさえぎり、結婚を申し込んできた男が言った。

「いいのですハルフォード男爵。あれはあくまで訓練、僕が未熟だっただけです」

「・・・心が広い。ぜひ娘と結婚を―――」


「私は結婚などしない!!」

「なぜだ!お前との結婚を考えてくれる者などもう現れないぞ!!」

「馬鹿にするな!!結婚相手などいくらでもいる!!」

「何処にいるというのだ!!」

「い、いるぞ・・・。いる・・・。そう、ジョニーだ!ジョニーがいる!!」

「平民ではないか・・・」

「平民だろうとなんだろうとジョニーは凄い男だ!!」

「本当に求婚されたのか?」

「ああ、ジョニー、私に結婚を申し込んだよな・・・」

(頼むジョニー・・・。話を合わせてくれ!!)

「ああ、そうだな」

「ほら、ジョニーは私と結婚したいと言っている。急がなくても求婚者などいくらでも現れる!」

「しかしな~~」

父への説得がうまくいきかけた時、ノア=モースが横槍をいれてきた。

「他に結婚を申し込んだ男がいたとしても、僕の思いの強さにはかないません」

「思いの強さとはなんだ。・・・だいたい、私はお前のことを一切覚えていないぞ」

「僕は覚えています。何度も何度も僕を殴りつけ、参りましたと言っても手を緩めず、『情けない男め』と吐き捨てるように言った時のさげすんだ目を・・・。あぁ・・・、あんな目で見てくれる人は今までいなかった。あの時、僕の心は震えたのです・・・」

(なんだこいつ・・・気持ち悪いな・・・)

「この思いに勝てる者などいません。それに、その男は冒険者と名乗っていましたね。結婚となると騎士にならなければ・・・。その技量があるのですか?」

「む、ジョニーは凄い男だぞ。騎士になるなど簡単だ!」

「僕は公爵家で現役の騎士にしっかりと訓練を受けました。それでも騎士になるのは大変だった。平民が簡単になれるものではありません」

「ジョニーは孤児だが冒険者として新人の教育を任されるほどの男だ!!」

「孤児?平民であるだけでなく親も居らず、碌な教育も受けていないというのですか?」

「なんだその言い方は!!お前などよりジョニーのほうが強いに決まっている!!!」

「では、その男と決闘して僕が勝ったなら・・・結婚していただけますか?」

「ああ、結婚してやる!!!」

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