103, 0-61 幕間・家出令嬢の帰宅

・セリーナ=ハルフォードの帰宅


前回のあらすじ

 ぐはっ!!!



「ジョニー、その馬車は領都行きだぞ・・・」

「ああ、ヘブリッジに引っ越すからな」

「引っ越す?旅じゃないのか・・・。ヘブリッジはやめないか?そうだ!王都へ行こう。私も一度行ってみたいと思っていたのだ!!」

「王都の近くにダンジョンはない。稼ぎが減ってしまうし、カナリッジから遠く離れるつもりはない」

「アタシはジョニーさえいりゃどこでもいいぜ」

ジョニーとヘルガが馬車に乗ってしまったので仕方なく私も乗る。

馬車の中、なんとかジョニーを説得しようと試みるも意思が固いようで、領都に到着してしまった。


街に入り、騎士や衛兵に見つかるのではないかとジョニーの影に隠れる。

市場を歩くも誰も私に気づく様子はない。

(少し警戒しすぎだったか・・・)

「ん?ジョニー、これは体を洗う道具じゃないか?」

「この街でも売られているのか・・・。商人は凄いな」

「凄いのはジョニーじゃないか。誰も注目していなかった植物の使い方を見つけたのだから」


「つってもジョニーに金が入るわけじゃないんだろ。なんかムカつくよな~」

「細かいことを気にしたらキリがないぞ」

「ま、そりゃそうだな」

(確かに、細かいことを気にしても仕方がないな)

「二人共、私が街を案内―――」


「いたぞ!!」

一人の衛兵が私を見て大声で言えば、衛兵がどんどん集まってくる。

「み、見つかった!逃げるぞ!!」

みんなで路地裏に入り何度か曲がる。

「おい、離して―――」

「大丈夫だ!この街のことは知り尽くしている!!」


「でも追ってくる数が増えてるぜ。何やったんだよセリーナ」

「いや、私は・・・」

四方八方から現れる衛兵。遂に私達は囲まれてしまう。

(これまでか・・・)

「お嬢様・・・、家までお送りいたします」



家に帰ると侍女のアイラが笑顔で出迎えてくれた。

(これは、怒っているな・・・)

「話をつけてくる」

ジョニーとヘルガにそう言うと、アイラがメイドのコニーに指示を出す。

「お客様をご案内して」

「はい、かしこまりました」



前を歩くアイラに声をかける。

「アイラ・・・怒っているか?」

「まさか、私が怒ったことなど今までありましたか?」

「割とよく―――」

「怒ったことなどありません」

「いや、この間―――」

「ありませんよお嬢様」

「でも―――」

「怒っていはいませんっ!」

「そうか・・・」

(怒ってるな)


部屋に入るとアイラは言った。

「さあ、その小汚い鎧を脱ぎましょう。腕を上げてください」

「この前買ったばかりだぞ・・・。別に汚くは―――」

「汚いです!」

「はい」

(今は逆らわないほうがいいな・・・)

革鎧を脱がされ、浄化の魔法で身を清め、動きやすい服から窮屈なドレスへ着替えさせられる。

「ああ・・・、髪をこんな雑に・・・」

「ちゃんと手入れはしたぞ。風呂上がりに魔法で乾かして香油を―――」

「しばり方です!髪をまとめるにしてももっと丁寧にしばってください!!」

「細かいことを気にしても―――」

「細かくありません!!」

「はい」

鏡の前で私の髪をきながらアイラは言う。

「急にいなくなって・・・、婚約者の方はもういらしてますよ」

「婚約者?」

「ノア=モース様です。旦那さまからお話があったはずですが・・・」

「そう言えばそんな話もあったような・・・いや、あれは断ったぞ」

「断った?なぜ断ったんですか?!断るなんてありえません!お嬢様のような残念美人と結婚を考えてくれる殿方ですよ!!」

「残念美人とはなんだ!!」

「子供の頃から屋敷を抜け出し悪漢に向かっていったり」

「正義の行いだな」

「剣術の訓練だと言って騎士見習いをコテンパンにしたり」

「訓練だからな」

「その言葉遣いも全く直りませんし」

「普通ではないか?」

「普通ではありません。やはり、あの護衛騎士の影響でしょうか・・・」

「ウーゴは関係ないぞ。私は元々こうだ」

「そうですね・・・。そうでした。元々残念美人でしたね・・・」

「その言い方はやめろ!!」

「やめてほしいのなら急に家を飛び出して革鎧を着て衛兵に連行されるなんて真似はやめてください!!」

「ちょっと冒険を・・・」

「冒険?まさか冒険者になったんですか?あの一緒にいた方々は冒険者なのですか?!」

「そうだぞ」

「冒険者などろくな人ではありませんよ」

「何を言うんだ!ジョニーは凄いやつだぞ!!」

「凄い人は平民でも騎士になりますよ。冒険者は騎士になれない人です」

「そんな事はないぞ。少なくとも騎士見習いよりジョニーは間違いなく強いぞ!それに、回復魔法も使える!!」

「それが本当なら、どうして冒険者などやっているのですか?頭が悪いのですか?」

「いや、ジョニーは物知りだぞ。頭はいいと思う」

「では、なぜ冒険者なのですか・・・?」

「どうしてだろうな・・・」

「よく知らないのですか?全く、そんな人と一緒にいて襲われたらどうするのですか・・・」

「ジョニーはそんな事しないぞ」

「普段はそうでも、殿方というのは急に―――」

「ジョニーの家に泊まったが何もされなかったぞ」

「と、殿方の家に泊まったのですか!?そ、そんな破廉恥な・・・」

「何もなかったと言ってるだろ」

「そ、そんな事信用できません!お嬢様が眠っている間によからぬ事をしたかもしれません!」

「私はそんなに間抜けじゃない!襲われたら気づくぞ!!それに、ヘルガもいたしな」

「ヘルガとはあの獣人の女性ですか?」

「ああ、銀狼族という種族らしい」

「それは珍しいですね」

「知っているのか?」

「銀狼族くらい誰でも知っていますよ。まさか、お嬢様・・・」

アイラが鏡越しに疑うような目で見てくる。

「わ、私も当然知っていたぞ!」

「本当ですか~?」

「ああ、もちろんだ!そ、それより髪はもういいだろ。ジョニー達に事情を説明しないと・・・」

「急に貴族のお屋敷に連れて来られて、怒っているかもしれませんね」

「そ、そんなことはないと思うぞ」

「私なら怒りますね」

「そうか・・・」

「でもまぁ、お嬢様の綺麗なドレス姿を見れば殿方は許してくれるかもしれませんよ」

「へ、変な事を言うな!」

「あら、以外な反応ですね・・・、まさか・・・」

「そんな事より母様はどこにいるんだ!仲間を紹介したい」

「意中の相手を紹介したいと・・・」

「馬鹿なことを言うな!」

「フフッ、奥方様は食堂におられますよ」



(アイラが変な事を言うから・・・)

ドアを開けると、ヘルガがいつものようにジョニーにじゃれついていた。

こちらを見たジョニーと目が合う。

「変じゃないか?」

ジョニーは私を上から下まで見てうなずき言った。

「似合っているぞ」

「ほ、本当か?」

「ああ、いい感じだ」

「そうか」

(気にしすぎだったな)

「二人共ついて来てくれ」



「この部屋だ。会わせたい人がいる」

ドアを開けると、母様と・・・父と・・・、誰だこいつは。

金髪でロン毛の知らない男がいる。

「やあ、久しいねセリーナ」

(きっとこいつがノア=モースだな)

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