105, 0-63 幕間・家出令嬢の夜這

・セリーナ=ハルフォードの夜這


前回のあらすじ

 しがない冒険者をやっております



「言ってしまった・・・」

私は自室で頭を抱える。

「どうする・・・どうすれば・・・何か手は・・・」

他人事のようにアイラが冷たく言った。

「どうするも何も、出来ることはないでしょう」

「いっそ逃げて・・・」

「逃げる?卑怯者のすることですね。お嬢様は卑怯者だったのですか?」

「グッ」

「お覚悟を決めてください。もう結婚するしかありませんよ」

「いや、ジョニーは勝てる!ジョニーは強いんだ!!」

「騎士に勝てるほどですか?」

「それは・・・、わからん。ジョニーが全力で戦ってるのを見たことがない。ダンジョンのモンスター相手に余裕を持って戦っていたが・・・」

「お嬢様、ダンジョンに入ったのですか?!また危ないことを・・・」

「別に危ないことなどなかったぞ。愛らしいモンスターもいたしな・・・」

「モンスターが・・・、愛らしい?お嬢様の感性はずいぶんズレていますね・・・」

「そんな事ないぞ。こう、丸っこくてだな。ブヨブヨとして跳ねる。スライムというモンスターだ」

「スライム・・・?ああ、防水製品になるモンスターですね」

「ざ、残酷なことを言うな!」

「残酷でもなんでもいいですから、早く湯浴みして寝てください」


ジョニーに貰った植物で体を洗いながら考える。

(何かあるはずだ・・・。何か・・・)

寝間着を着て脱衣所を出るとメイドのコニーがお茶を持ってきてくれた。

コニーはいつも気が利く。アイラとは大違いだ。

(そうだ、コニーなら・・・)

「コニー、ジョニーが決闘で勝てる方法をなにか思いつかないか?」

「勝てる方法ですか?」

ふぅ、とわざとらしくため息をついてアイラが邪魔をしてくる。

「お嬢様、コニーを困らせないでください。コニーも無視していいですよ」

「何ということを言うのだお前は!」

「約束をしたのはお嬢様でしょう。よいではないですか。公爵家出身で三男。お家の爵位に胡座あぐらをかかず、努力して騎士になったお人ですよ。婿に来てくれるというのですし、これほどの条件はもうありませんよ」

「だが、私は結婚などしたくないのだ!それに・・・、あいつはなんか気持ち悪い」

「気持ち悪い?容姿は整っていると思いますが・・・」

「そうではない。見た目ではなくてこう・・・なんか、なんか気持ち悪いのだ」

「なんですかそれは。わがまま言わないでください」

「どこがわがままなんだ!コニー、助けてくれ!なにか、なにか方法があるはずだ!!冷血アイラは無視していい!!」

「だっ、誰が冷血ですか!」

「私が困っているのに助けてくれないではないか!!」

「自業自得じゃないですか!!」

「う~~~~、アイラなんか嫌いだ!!」

「子供みたいなこと言わないでください!!」

冷血アイラが冷血なことを言ってくる間も、やさしいコニーは私を心配してくれていた。

「あっ、あのっ・・・」

「コニー・・・、なにか思いついたのか!」

「えっと、そのですね。食堂での会話なのですが・・・」

「約束を破っていいヒントでもあったか?!」

「えっ?いえ、その・・・そうではなくてですね」

「なんだ!言ってみろ!」

「ジョニー様はそもそも決闘に同意なさってませんよね。なんだかお二人で盛り上がって決闘をすると言っていましたが・・・」

「そ、そう言えばあれからジョニーと話してない・・・。どうしよう・・・」

「お嬢様に求婚された方ですし、既にやる気になっているかもしれませんが・・・確認されたほうがよろしいかと」

「・・・嘘なんだ」

「嘘?」

「ジョニーが私に求婚したというのは嘘なんだ・・・。話を合わせてくれただけなんだ・・・」

落ち込んでいる私に追い打ちをかけるように、冷血アイラが冷血なことを言ってくる。

「終わりましたね」

「終わりとか言うな!コニー、助けてくれ・・・」

コニーは少し考えた後、当たり前のことを言った。

「では、今からお願いするしかないですね。会話は聞いていたのでしょうし、経緯は分かっているはずです。決闘を受けてもらえるように努力すべきでしょう」

「努力といってもどうすれば・・・」

「それは・・・、頭を下げて誠心誠意お願いするとか・・・」

「そうだな。それしかないか・・・」

私とコニーの考えを冷血アイラが嘲笑あざわらう。

「誠心誠意お願いする?駄目ですね~二人共。これだから恋愛経験のない方々は・・・」

「お前は見合い結婚じゃないか!」

「私は夫と現在進行形で恋愛中です」

「じゃあどうすればいいのか言ってみろ!どうせ冷血なことを言うのだろう」

「冷血って・・・。まぁいいでしょう。まずその寝間着!なんですかそれ!!」

「買ったんだ。可愛いだろ」

「どこがですか。まずこちらに着替えてください」

アイラがクローゼットから取り出した服はスケスケだった。

「なっ、なんだそれは!そんなの着るのは痴女だろう」

「普通の寝間着です。奥方様もこういった服をお召になってますよ」

「か、母様も・・・」

「そうです。殿方に頼み事をするのでしたらこういった服を・・・、いけませんね。こんな服を着て会いに行けば勘違いされて襲われるかもしれません」

「ジョニーはそんな事しないぞ」

「わかりませんよ~。お嬢様の弱みに付け込んで~~~」

「ジョニーはそんな事しない!!」

意地悪なアイラが私を脅かしてくるも、コニーが助けてくれる。

「大丈夫だと思います」

「あらコニー、貴方そういった経験が―――」

「そ、そうではなくてその・・・。え~っとですね・・・」

頬を赤らめて口ごもるコニー。

「なんです?はっきり言いなさい」

「子作りを!」

「子作り?」

「獣人の女性がジョニー様に子作りを迫っていたのです!ですがジョニー様はそれをお断りしていました。貞操観念の強いお方なのでしょう」

「あのふくよかな胸の女性を・・・。それなら大丈夫かもしれませんね。ではお嬢様、まずはこの服に着替えて、髪もフワッとさせましょう。香水もつけて、それから―――」

なんだか急にアイラが張り切りだして、私をゴチャゴチャと弄り始めた。

だが逃げるわけにはいかない。ジョニーに決闘を受けてもらわねば!!



ジョニーのいる客間をノックする。

(大丈夫だ。普通に頼めば面倒見のいいジョニーなら受けてくれる・・・。大丈夫だ・・・。大丈夫―――)

「なんだ?」

「ジョ、ジョニー。その、だな・・・。その、大丈夫か?」

「・・・ああ、大丈夫だ」

「ホ、ホントにホントに大丈夫か?」

「何度も確認しなくても大丈夫だ。安心したか?じゃあとっとと自分の部屋で眠れ」

「ああ、そうする」

ジョニーは私が頼むまでもなく決闘を受ける気でいたようだ。

(あれだけはっきりと大丈夫と言うのなら大丈夫だろう)

私は自室に戻り、アイラとコニーに大丈夫だったと伝え、安心してベッドに飛び込んだ。

(ジョニーならきっと勝ってくれる!)

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