099, 0-57 幕間・家出令嬢と痴女銀狼と毒舌プリーストの訪問

・セリーナとヘルガとエミリアの訪問



街へ帰ればジョニーは言った。

「これで面倒は終わりだ。後は好きにするといい・・・」

セリーナは焦る。

ここで別れてしまうとヘルガはどうなってしまうのか、と。

何より冒険者というのはパーティを組むものである。

ジョニー以外の冒険者は絡んできたチンピラしか知らない。

少し変わったところはあるがジョニーとならいい仲間になれると思った。

「金を払ったのだからもう少し面倒を見るべきだ」

セリーナがそう言えばヘルガも調子を合わせる。

「私も冒険者になって人助けをします」

冒険者になど興味なく、人助けをする気もないが、ヘルガはジョニーと子作りするために冒険者になると決めた。

時間さえあればどんな男でも口説けると考えていた。

面倒なら押し倒せばいいとも考えていた。

彼女は痴女だった。



セリーナとヘルガを連れてジョニーは店を回る。

道具屋で薬草や毒草について説明するジョニー。

セリーナは感心した様子で頷き、ヘルガはジョニーにセクハラをする。


武器屋でゴブリンのナイフを売るよう促すジョニー。

セリーナはナイフを売り、ヘルガはジョニーにセクハラをする。


靴屋で冒険者用のブーツを買うように勧めるジョニー。

セリーナはブーツを買い、ヘルガはジョニーにセクハラをする。


そんなことをして時間が過ぎていき――3人は冒険者ギルドへ向かう。

冒険者ギルドではエミリアがジョニーを待ち伏せしていた。

借家に引っ越してしまったジョニーと接点を持つために彼女は努力していた。

ギルマスが受付を担当する時間は必ずジョニーを待ち――自炊を始めたジョニーが行く食料品店を把握し――二人でよく訪れた武器屋、たまに装備の補修を依頼しているお店も監視する。

彼女はストーカーだった。

そんなエミリアは目撃する。

2人の魅力的な女性がジョニーの隣にいる。

右側には、輝く金の髪をポニーテールにした青い瞳の美女がジョニーと仲よさげに話をしている。

左側には、露出の多い格好をした銀髪の獣人女がジョニーに大きな胸を押し付けている。

一体いつの間に・・・、何が起こったのか・・・、ジョニーに近づく女性達は監視していたというのに・・・。

エミリアは焦る。

そんな彼女は攻撃的になる。

「ちょっと近づきすぎじゃないの!そんなに・・・そんなに近づいちゃ駄目でしょ!!」

急に現れて騒ぐエミリアを見てヘルガは思う。

きっとジョニーに気があるのだと。そして貧乳だと。あんなペッタンコでは男は落とせないだろうと。

だから自分の大きな胸をジョニーにグイグイ押し付ける。

「駄目でしょそんなに・・・、そんな・・・変態!馬鹿!!」

エミリアは毒を吐いて立ち去った。

「今の女性は一体・・・」

不思議に思ったセリーナがつぶやくと、ジョニーは「気にするな、いつもの事だ」と言う。

冒険者とは男だけでなく女も絡んでくるのか、とセリーナはまた一つ学んだ。



ギルマスが受付をする列に並ぶ。

並んでいる間もヘルガはジョニーにセクハラをする。

体を触り、時折耳に息を吹きかけ、胸を押し付ける。

周りの冒険者はドン引きしていた。

長い列は進み――セリーナは報酬を受け取り、ヘルガは冒険者登録をする。

「これで終わりだな。それぞれ宿屋に泊まるといい」

ジョニーがそう言えば、ヘルガは悲しげな顔で答えた。

「私はお金がないのです・・・。宿屋に泊まれないんです・・・」

嘘だった。

彼女は旅で遭遇した大型モンスターを何匹も仕留め行商人に魔石を売っていた。

結構な金を蓄えていた。

金がないと言えばジョニーと同じ部屋で眠れるのではないか、という思惑だった。

だがセリーナはそれを知らない。

「ならば私と一緒に泊まればいい」

余計なお世話だった。

しかし断るのもおかしな話、そこでヘルガはジョニーに尋ねる。

「ジョニーさんの宿屋はどこですか?」

ジョニーと一緒に泊まりたいアピールである。

「俺は宿屋には泊まっていない」

「宿屋でなければどこに泊まっているのだ?」と、純粋な気持ちで尋ねるセリーナ。

「俺の話はどうでもいいだろ」

「私も気になります。ジョニーさんはどこに泊まっているのですか?」と、不純な気持ちで尋ねるヘルガ。

「・・・俺は家を借りている」

「では私もそこに泊めてください」

ヘルガが図々しく要求すれば、セリーナもいい考えだと同調する。

「そうだな・・・。今日はみんなでジョニーの家に泊まろう!」

「いや、お前たちは宿屋に―――」

「ジョニーさん、お世話になります!」

ジョニーの借家に泊まることが決まった。



冒険者ギルドを出てジョニーに付いていけば――街では珍しい木造の建物の前で止まる。

「ここに住んでいるのか?」

「ああ」

中に入るとジョニーはブーツを脱ぎながら「家の中では靴を脱げ」と言う。

集落では素足で過ごしていたヘルガは靴を脱ぐ。

家の中で靴を脱ぐ文化を知らないセリーナも、これが平民のルールなのだろうと合わせて脱ぐ。

革鎧に向かってジョニーが手をかざしている。

「何をしているのだ?」

「浄化の魔法をかけている」

「なるほど」

装備の手入れなどした事のないセリーナ。これからは自分で手入れをしていくのだ、とジョニーを見習い、革鎧を脱いで浄化の魔法をかける。

革鎧を魔法の袋にしまうとジョニーが言った。

「風呂の準備ができた。入るといい」


先に入ることにしたセリーナがジョニーの案内で風呂場に行く。

平民の風呂とはどういうものなのかとセリーナは少し心配したが――脱衣所に、足を十分伸ばせる広さの浴槽と洗い場、だが見慣れない物があった。

薄茶色で細かな穴がある長い物体。

「これはなんだ?」

「植物を乾燥させた物だ。俺はそれで体を洗っている。よかったら使ってみるといい」

そう言うジョニーは棚を開ける。

「こんな物があるのか・・・」

平民はこういった物で体を洗っているのか、と感心しているとジョニーが言った。

「最近は市場でも売られているな」

「最近は?」

「それは俺が作ったものだ。冒険者ギルドの本におまけで載せたら市場でも見かけるようになった」

「ギルドの本?あれはギルドが発行しているのではないのか?」

「俺が書いた本をギルドが発行している」

「そうだったのか・・・。凄いなジョニー」

「多少工夫しているが、基本的な情報をまとめただけだぞ。似たような知識は本屋に売っている本を何冊か読めば得られる。じゃあもう俺は行くからな」


ジョニーが脱衣所から出ていった後、セリーナは棚にあるたわしを1つ掴む。

ガサガサとした不思議な触り心地――だが悪くはない。

髪を解いて服を脱ぎ、タワシで体を洗ってみれば――普段使っている高級なタオルよりも気持ちいい。

湯船につかりながらセリーナは思った―――やはりジョニーとパーティを組もう、と。



ジョニーが夕食の支度をしている間、ヘルガは大人しくしていた。

最近はずっと保存食と酒だけだった。

まともな食事がしたかった。

風呂から上がったセリーナの案内で風呂場に行く。

セリーナが何故か自慢げにたわしについて説明してくる。

ただ体を洗うための道具に何を、と不思議に思うヘルガは――やはりこの女は馬鹿なのだろう、と納得した。

久しぶりの風呂だが、食欲を優先したいヘルガはさっと入り上がる。



ヘルガが風呂から上がれば机に夕食が並んでいた。

席に座ったヘルガは素手で食べ始める。

それを見たセリーナは驚くも――きっと獣人の文化だろう、と納得した。

獣人の文化ではない。素手で食べるのはヘルガ個人の好みだった。

メニューは炒めたライスとスープ、茹でたザリガニというシンプルなものだが、見慣れないソースがある。

「このソースはなんだ?」

セリーナが不思議に思い尋ねると、ジョニーは「マヨネーズだ」と答える。

「マヨネーズ?」

「卵と酢と油を混ぜ、塩で味付けした調味料だ。ザリガニにつけて食べるといい」

言われた通りに食べてみれば美味しく、ジョニーは料理も上手なのかと感心する。


ヘルガが食事を終えた時――ジョニーがちょうど風呂から上がってきた。

どうせなら一緒に入ればよかったと後悔するヘルガ。

ジョニーは食前の祈りをし、食事を始めた。

おかしな男だが意外にも信仰心が厚いようだ、とセリーナは感心する。


食後のデザートに出てきたアイスという菓子。

甘く、冷たく、こんな菓子は今まで食べたことがないとセリーナは驚く。

「ジョニー・・・、これは貴方が考えたのか?」

「いや・・・本を読んで再現しただけだ」

「そうか・・・。こんな美味しい菓子が普及していないのは不思議だな。作るのが大変なのか?」

「ミルクと砂糖を混ぜて冷やしただけだぞ」

「そんなに簡単なのか?!」

「最近はミルクの値段が上がってきたのであまり作らないがな」

「む、食料品の値段が上がっているのか?」

領主である父を思い出すセリーナ。家を飛び出した身だが――ちゃんと領地経営できているのかと心配になる。

だがジョニーは言った。

「ミルクの値段が上がるのはいいことだ」

「なぜだ?安いほうがいいだろう」

「人口が増えれば肉やミルクの値段が上がる。つまり人が増えたということだ。人が増えたということは死人が減ったんだろう。いいことだ」

「そ、そうだな」

貴族の自分よりずいぶん貴族的な考え方をするジョニーに感心しつつ――自分の考えのなさを少し恥ずかしく思うセリーナ。



食事を終えるとジョニーはソファーで寝るという。

今更ながら家に押しかけてベッドまで奪うのはどうなのか、と遠慮しようとしたセリーナだが――ソファーのサイズを考えれば寝れるのは一人だけ。

ヘルガはジョニーに惚れているようだが――流石に同衾どうきんするのはまずいだろう、とセリーナは納得する。


そんなヘルガは遠慮などすることもなく、久しぶりのベッドだと喜び眠る。

ジョニーを襲おうかとも考えたが、まだまだ時間はあるだろうと睡眠欲を優先した。

彼女は三大欲求に忠実だった。



借家の裏手ではエミリアが踏み台に腰を下ろし、集音の魔法で中の様子をうかがっていた。

集音の魔法―――音をよく聞く魔法。

ジョニーに教わったわけではない。

ジョニーが使っているのを魔力感知で感覚を探り、再現したのだ。

彼女はジョニーが使う魔法をすべて習得していた。

ジョニーを追跡する時、足音を聞かれないようにする消音の魔法も独自に開発していた。

彼女には魔法の才能があった。

その才能は盗聴に利用されていた。

彼女はストーカーだった。

そんなストーカーはジョニーの寝息を聞いて安心する。

格好いいジョニーが女性達に襲われたらどうしようかと心配だったのだ。

もう大丈夫だろうとエミリアはジョニーが過去に宿泊していた宿屋の部屋に帰る。

明日もジョニーをストーキングするためにしっかり睡眠を取るのだ―――。

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