071, 0-39 幕間・毒舌プリーストの信仰

・エミリアの信仰


前回のあらすじ

 エニュモ様



「どうしてあなたはお掃除しないの?」

「別に、私がしなくても信徒の連中が毎日してるだろ」

「でも、あなたシスターでしょ」

「あ~もう鬱陶うっとうしい。そんな生意気だと地獄に落ちるよっ」

「地獄・・・」

「悪い奴は地獄に落ちて悪魔に食われるんだ。悪魔に食われたくないなら、もっと大人しくしてな」

「・・・・・・」

「生意気なくせに辛気臭いとか本当に面倒な子供だねあんた。あ~あ、こんなことなら冒険者ギルドの受付の方が良かった」

シスター・デビーはそう言って長椅子を蹴り、教会から出ていった。きっとまた朝帰りだ。



あれから5年・・・。10歳になった私は人助けの勉強をしている。

運命の神・ファタリーノ様の教会隣りにある孤児院には、私以外に子供がいない。

本当はもっと多くの子供がいるはずの場所だけど、教会と孤児院の管理をしているマザー・ウィニーは高齢で、後任のシスター・デビーはお仕事をしない。

領主様の指示で来た私の受け入れを、シスター・デビーは断れなかった。



最近はずっとベッドで休んでいるマザー・ウィニーに報告する。

「教会のお掃除が終わりました」

「そうかい。じゃあ、魔法の勉強をしようか。今日からは、支援魔法を教えてやろう」

「支援魔法?」

「身体強化は自分を強くする魔法、支援魔法は誰かを強くする魔法さ」

「誰か・・・」

「そうさ。まさに人助けの魔法だね。身体強化は魔力を使う量が多いほど強くなれるけど、使える魔力量には限界があると前に話しただろ。支援魔法は身体強化の上から相手を強化してやることが出来るのさ。

魔力を飛ばしちまうからあんた自身の魔力は減っちまう。支援魔法の持続時間もあるし、あまり強く支援しちまうと強化された側の感覚も狂って危ないからね。

自分の身を守る最低限の魔力量と、支援される人間の力量をちゃんと見極めて、どの程度魔力を使って支援するか考える必要がある。まぁ、とりあえず私を支援しておくれ」

「はい、マザー・ウィニー」

私は、マザー・ウィニーが強くなるイメージをして魔力を飛ばす。身体強化はもう覚えているので、自分の代わりにマザー・ウィニーが強くなるようにイメージするだけ。

「お、やっぱりあんたは才能があるよ。この才能で沢山人助けをしておやり」

「はい、マザー・ウィニー」


魔法の勉強の後、薬草や香草について教えてもらう。

マザー・ウィニーはいつか役に立つと言うけど、人助けとなんの関係があるのかよくわからない。

「マザー・ウィニー、今日のお風呂はどうしますか?」

「今日は浄化の魔法でいいよ。かけてくれるかい?」

「はい」

「あんたは入っておいで。その後みんなで御飯を食べよう」



御飯を食べた後、教会の部屋に行く。

本当なら孤児院で生活するはずの私は、聖職者が使う教会の部屋で生活している。

他に孤児はいないし、マザー・ウィニーはもうすぐ死んでしまう。

病気なら回復魔法で治せるけど、寿命だけはどうにもならないと、マザー・ウィニーは笑って言う。

死んでしまったら・・・もう会えなくなってしまうのに・・・。



ベッドで仰向けになり、胸の前で手のひらを重ね祈りを捧げる。

(どうか、運命の人に会えますように・・・)

マザー・ウィニーは言ってくれた。私は人殺しじゃないと・・・。自分の命を守っただけなのだと・・・。どうしても辛いなら人助けをすれば、きっと楽になれると・・・。そうしていつか、運命の人に出会えると・・・。

誰にでも運命の相手が1人はいる。沢山いる人もいると、マザー・ウィニーは教えてくれた。私の運命の人は一体どんな人なのかな・・・。

(早く会えるといいな―――)



そうして月日は流れ、私が12歳になる前の日、マザー・ウィニーが魔法の装備をくれるという。

「これは・・・?」

「その杖は、回復魔法や支援魔法の効果を上げられるのさ。魔石を入れればその魔力も使えるよ。それで多くの人を助けておやり。その服は、身体強化でとても丈夫になる。それで自分の身をおまもり」

「どうしてこんな物を・・・」

「冒険者におなり」

「冒険者?私は、人助けのためシスターに・・・」

「あんたはもうちょっと外の世界を見てみるべきさ。プリーストの冒険者になって、多くの人を助けな。多くの出会いがあれば、運命の人にもきっとすぐに会えるよ。・・・私とはもう、今日でお別れさ」

「お別れ・・・?」

「もう、ずいぶんと長く生きた・・・。私の運命の人は、私が幼い頃に亡くなってね。その人にもうすぐ会える。だから、悲しいことなんてなにもないのさ・・・。私の埋葬はビブリチッタ様の教会にいるシスターにお願いするといい。胸の大っきなリリスって娘さ・・・」

「・・・死んでしまった人がどうなるかはわからないって、ママは言ってました。・・・マザー・ウィニーは、会えるって信じているんですか?」

「ああ、信じてるよ。ずっとずっと信じて生きてきた・・・。ずっとずっと・・・もうすぐ―――」

「マザー・ウィニー・・・?」

マザー・ウィニーはとても幸せそうな顔で眠っていた。もう・・・会うことは出来ない。



ビブリチッタ様の教会へ行くと胸の大きなシスターがいた。

「マザー・ウィニーが亡くなりました。埋葬は、ビブリチッタ様の教会の・・・リリスというシスターにお願いするように言われて・・・」

シスター・リリスは衛兵と協力して埋葬の準備をしてくれた。

信徒さんも集まり、マザー・ウィニーが多くの人に愛されていたとわかる。

埋葬の前に祈りを捧げる。

(マザー・ウィニー、運命の人に会えましたか?・・・私は冒険者になって、多くの人を助けます。運命の人に出会って、家族を作ります。幸せになって、そしていつか・・・マザー・ウィニーに、笑って会えるように頑張ります。だから安心して幸せになって下さい)

マザー・ウィニーに祈りが伝わったのかはわからない。

わからないけど、マザー・ウィニーが信じていたように私も信じてみようと思う。

死んでしまった人たちにも、いつか会うことが出来るって・・・。



埋葬の後、教会に戻り、眠る前に祈りを捧げる。

(どうか、運命の人に会えますように・・・)

明日は12歳の誕生日。

冒険者になって、多くの人を助けよう。

そうすればきっと・・・運命の人に出会える―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る