070, 0-38 幕間・毒舌プリーストの罪過
・エミリアの罪過
前回のあらすじ
すべすべ
どうしたらいいかわからなくて、ブリアナの家に行く。
ブリアナのパパは倒れていて、ブリアナのママはねむっていた。
ブリアナのパパをゆすってみても「う~う~」って言うだけだった。
ジューダスの家に行くと、ジューダスがジューダスのパパを叩いていた。
「なんで起きないんだよ!起きろよバカ!」
なんだか怖くなって、わたしは家に戻ることにした。
パパとママの間でねむる。
こうしてればいつもみたいに起きてくれるんじゃないかって思った。
どれくらい時間がたったのかわからないけど、家にジューダスがやって来た。
「おいエミリア、起きろよ」
「いや」
「とーちゃんとかーちゃんに会いに行くんだ」
「会いに行く?」
「そうだ。みんなもう集まってるぞ」
よくわからないけど、みんなに会いたいな・・・。
わたしはジューダスに手を引かれて歩く。
井戸の近くにみんながいた。
「みんなでとーちゃんとかーちゃんに会いに行こう」
セレステが言った。
「会いに行くって・・・お父さんとお母さんは家にいるよ?」
「いないよ。とーちゃんとかーちゃんは死んじゃったんだ」
クレアが叫んだ。
「死んじゃうわけ無いでしょ!大人が死ぬのは子供よりずっと後だってパパは言ってた!ただちょっと・・・疲れてるだけよ・・・。いつもお仕事頑張ってるから・・・」
ノーマンが言った。
「そうだよ。ただちょっと、いつもより眠くて、起きられないだけだよ。もう少ししたら―――」
「起きないよ。みんな死んじゃったんだ。死んで天国に行っちゃったんだ。知ってるだろ、死んだら神様のところに行くんだ。だから俺たちも会いに行くんだ」
そう言ってジューダスは井戸を指さす。
「あそこに入れば会えるんだ。だからみんなで行こう」
ブリアナが言った。
「ママにあえる?」
「ブリアナのねーちゃんは天国にいるんだ。いつもお墓に話しかけてるだろ。ブリアナのかーちゃんはブリアナのねーちゃんに会いに行ったんだ」
「ママ・・・」
ブリアナは井戸に歩いて行って、井戸をのぞいて、そのまま頭から入ってしまった。
ゴッ、っていう音が聞こえて・・・、わたしは怖くて・・・、でもみんなはブリアナの真似をする。
無口なアルマンが井戸に入る。
おしゃれなクレアが井戸に入る。
やさしいノーマンが寂しがりのセレステと手をつないで井戸に入る。
乱暴なジューダスがわたしの手を引きながら言う。
「行こうエミリア」
『人は死んじゃったらそこで終わりなの』
「いや・・・」
「なんでだよ・・・。みんなで会いに行くって決めただろ」
「いや・・・行かない。わたしは行かない・・・。わたしは家に帰る!」
「俺が一緒だから・・・一緒に行こう」
「いやっ!行かない!わたしは行かないっ!!」
わたしは行きたくないのに、ジューダスの力は強くて、手を放してくれなくて、だからわたしは必死で・・・ジューダスの手に噛み付いた。
「イテッ!あっ・・・」
ジューダスは手を放してくれたけど、そのまま井戸に入ってしまった。
わたしは家に帰って、パパとママの間でねむる。
『死んでしまった人達がどうしているかは、生きている人にはわからないの。ただ、死んでしまった人達には会えなくなるのだけはわかるわ。どんなに泣いても、死んでしまった人達には会えないの』
みんなにはもう会えない。
何も考えたくなくて・・・、パパとママの間でねむっていると知らない声が聞こえた。
最初は小さくて、だんだん大きくなって、その声は家までやってきた。
「お~い!誰かいないか~!お~っ、子供だ!子供がいたぞ!!」
「一人か?」
「ああ、この家の子供だろう・・・。元気はないが・・・ちゃんと生きてる。やはり、魔力汚染だな」
「他の子供について聞いてみろ」
「ちゃんと答えられるか・・・」
「だが、呼びかけてずいぶん経つが誰も出てこない。この村には数人子供がいるとティビーが言っていた」
「そうだな・・・、とりあえず聞いてみるか・・・」
「なぁ、君、起きているか?私は騎士だ。助けに来た。他の子供達は何処にいるか知らないかい?」
「・・・・・・」
「とりあえず外に出ようか・・・」
わたしは何も言いたくなくて・・・言えなくて・・・、騎士の人に抱っこされて外に出る。
騎士の人はわたしを抱っこして村を歩く。みんながどこにいるのか聞いてくる。
わたしはただそれを聞いて、でも井戸が見えて・・・。
「井戸・・・」
「井戸?」
「俺が見てこよう」
「ああ、頼む」
男の人が井戸をのぞく。
「うっ・・・」
「どうした」
「いや、何でも無い。報告書を書く。少し、待っていろ」
「報告書って・・・今、ここで書くのか?」
「ああ、報告書を持って、お前は先に領都へ戻れ」
「領都?カナリッジではなく?他の子供は―――」
「いいから、これを持って領都へ行け」
「これは・・・。おいこれって・・・」
「俺はもう少し村を見て回る。お前は、その子をティビーに会わせてやれ。知り合いに会えたほうがいいだろう・・・」
「そうだな・・・」
「これはお馬さんだ。見たことあるか?大丈夫だ、一緒に乗ろう」
騎士の人とお馬さんに乗る。騎士の人は何度も何度も大丈夫と言う。
(何が大丈夫なんだろう・・・)
なんだか大きな壁がある場所に入ると、たくさんの人がいた。
石で出来た大きな家に入ると、騎士の人が女の人に言う。
「ティビーを呼んで来てくれ」
「ティビーですか?しかし、今はエニュモ様もいませんし、見習いでも魔法部隊は―――」
「いいから呼んで来い」
「わかりました・・・」
女の人が出ていくと、騎士の人がわたしに言う。
「大丈夫だ。もう大丈夫だ」
(何が大丈夫なんだろう・・・)
少しすると女の人が魔法使いさんと一緒に来た。
「エミリア!もう大丈夫・・・。もう、大丈夫だから・・・」
魔法使いさんはそう言ってわたしを抱きしめる。
(何が大丈夫なんだろう・・・)
「お腹空いてない?なにか食べましょう」
「・・・・・・」
魔法使いさんはわたしを抱っこして、自分の部屋だっていう場所に連れて行ってくれた。
女の人がスープとパンを持ってきてくれた。
「ほら、美味しいわよ。一緒に食べましょう」
「・・・・・・」
「もう、疲れちゃったかな・・・。今日は私と一緒に寝ましょう」
「・・・・・・」
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
(何が大丈夫なんだろう・・・)
次の日、馬車っていう乗り物で、隣街の孤児院っていう場所に行くことになった。
馬車に乗る前に、耳の長い人が来てわたしに言う。
「小さき普人の子よ。お前は普人だが、エニュモルマルファルス様に祈りを捧げよう。安らぎが訪れるように、と・・・。だから、もう大丈夫だ」
(何が大丈夫なんだろう・・・)
馬車に乗っている間わたしは思う。
何が大丈夫なんだろう・・・。
パパは死んでしまった・・・。
ママも死んでしまった・・・。
クレアもセレステもノーマンもアルマンもブリアナも死んでしまった・・・。
みんなみんな死んでしまった・・・。
ジューダスも死んでしまった・・・。
わたしが手を噛んで、それで井戸に落ちてしまった・・・。
わたしが殺してしまった・・・。
大丈夫なことなんて何もなかった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます