069, 0-37 幕間・毒舌プリーストの両親

・エミリアの両親



「麦やお米は、人間にとっていちばん大事なものなんだ。穀物って言うんだ。だから僕等の開拓村は凄い村なんだよ」

「パパすごい」


「もう、他にも大事なものはあるでしょ」

「そんな事はないさ。うちの村が一番凄いよ。領主様に税を収めるのはきっと僕等が最初さ」

「全く変に張り合っちゃって・・・」

「じゃあ今日も、いってきますママ」

「いってらっしゃいパパ」


パパとママは口を合わせる。キスだ。好きな男の人にするんだってママが教えてくれた。

わたしがパパにしたいって言うと『パパは渡しません』って怒られた。

『いつか、エミリアにもパパよりもずっと好きな男の人が出来るわよ。だってママがそうだったもの』

ママはそう言うけど、パパより好きな男の人なんてできないと思う。



「おねーちゃん、あそぼ」

お隣のブリアナが遊びに来てくれた。

わたしは5歳。他の友だちも5歳。でもブリアナだけ3歳だ。

ブリアナには本当はお姉さんがいて、でも上手く産まれてこれなくなかったんだってママが教えてくれた。

「ブリアナなにして遊ぶ?」

「魔法使いさん」

「じゃあお外行こう」

「うん」

村にはたまに魔法使いさんがくる。畑に栄養をくれるんだってパパが言ってた。よくわからないけど、すごい人だってことはわかる。

ブリアナはそんな魔法使いさんが大好きで、大きくなったら魔法使いになるって言う。

「森のえいようを畑にうつします。は~~~」

「すごいよブリアナ!畑が元気になった」

「魔法すごい」

「そうだね。すごいね」

この遊びはよくわからないけど、ブリアナは一日一回はこれをやる。

「お家でお手伝いしよう」

「うん」


「ママお手伝いしたい」

「もっと遊んできてもいいのよ」

「遊ぶのはもう終わったから、お手伝いがしたい」


「そう、ブリアナもお手伝いしてくれるの?」

「うん、おてつだいする」


「じゃあこれ。いつもみたいにお願いね」

「「うん」」


ママが木をナイフで削って、それをわたしたちがザラザラした石でスベスベにする。ひもを通すと髪飾りが出来る。

たまに来るオジサンがそれを買い取ってくれる。

わたしは髪飾りを作るのが大好きだ。



「おい、エミリア。一緒に遊ぼうぜ」

お隣のジューダスがやって来た。

ジューダスはちょっと乱暴だから嫌いだ。

村は広くて三つずつに家が並んでいる。

3つの家族で協力して麦やお米を育てている。

ジューダスの家はもっと離れていればいいのに。

おしゃれなクレアや寂しがりのセレステ、やさしいノーマンや無口なアルマンがお隣ならいいのに。

「わたしお手伝いしてるから遊べない」

「お手伝いなんてしなくていいだろ。ブリアナも一緒でいいからさ」

「ノーマンやアルマンと遊べばいいでしょ」

「あいつらの家は離れてるんだから仕方ないだろ。ほら行こうぜ」

わたしの腕を引っ張るジューダス。こういうところが嫌いだ。

「いやっ、わたしお手伝いするの!」

「お手伝いって・・・、こんなのただの木だろ!」

「あっ」

ジューダスがわたしの髪飾りを取って踏んづける。

わたしは許せなくて、ジューダスを押す。

「ジューダスなんて嫌い!死んじゃえばいいのに!!」


「コラっエミリア!なんてこと言うの。ジューダスに謝りなさい」

「だって・・・ジューダスが髪飾りを・・・」

「でも死んじゃえなんて言ったら駄目!ちゃんと謝りなさい」


「ゴメンねジューダス・・・」

「い、いいよもう・・・。俺一人で遊ぶから」

悲しそうな顔でジューダスは帰っていった。

でもジューダスが悪いのに、わたしが謝るのは変だ。


「ジューダスは謝らなかった」

「そうね、ジューダスも悪いわね」

「わたしだけ謝った」

「そうね。でもね、エミリア。人に死んじゃえなんて二度と言っちゃ駄目よ」

「そんなにひどい言葉なの?」

「人は死んじゃったらそこで終わりなの」

「そこで終わり?神様に会いに行くんじゃないの?」

「パパは、そう言ってたわね。でもね、本当は誰にもわからないの。死んでしまった人達がどうしているかは、生きている人にはわからないの。

ただ、死んでしまった人達には会えなくなるのだけはわかるわ。どんなに泣いても、死んでしまった人達には会えないの。だから、死んじゃえなんて言っちゃ駄目よ」

「わかった・・・」


「できた」

「あら、ずっと磨いてたのブリアナ」

「うん、すべすべ」

「よく出来たわね。はい、新しいの。これもスベスベにしてね」

「うん、すべすべ」


「わっ、わたしも!」

「はいはい、じゃあこれ、お願いね」

「うん!」



「ブリアナ、迎えに来たよ」

「ママ」

「今日もお手伝いしてたの?」

「魔法使いになって、すべすべした」

「そう、ブリアナは本当に魔法使いさんが好きなのね」

「魔法すごい」


ブリアナのママはあまりブリアナと一緒にいない。

ブリアナのお姉さんのお墓に話しかけている。

死んじゃった人には会えないのに、変なの。



パパが帰ってきた!!

「パパ!」

「おっと、ただいまエミリア。今日もお手伝いしてたのか?」

「うん!」

「そんなに毎日お手伝いしなくてもいいんだぞ」

「わたしお手伝い好きなのっ」

「そうか・・・。エミリアが大きくなる頃には、この村も大きくなって、きっと職人さんも住んでくれるようになるよ。その時は弟子入りしてもいいかもな」

「わたしも畑手伝うよ?」


「明日はママも畑仕事だから、エミリアも一緒に来る?」

「いいの!」

「いいでしょ?パパ」

「いいでしょ!いいでしょ!」


「全く仕方ないな。それじゃあ、明日は家族みんなで畑の仕事だな」

「うん!」


パパとママとごはんを食べて、パパとママの間でねむる。

「「おやすみエミリア」」

「おやすみなさい・・・」

(畑のお仕事ってどんな事するんだろう・・・楽しみだなぁ―――)



いつもわたしより早く起きるパパとママはねむっていた。

「パパママ起きて!」

「う~う~」

「パパ、ママ・・・」

呼んでもゆすってもパパとママは起きてくれなかった。

ずっとずっとねむっていた。

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