010, 1-09 眼光エルフと病気の原因

前回のあらすじ

 怪しい男が嫌がる子供に「怖くないぞ~」と言いながら近寄る事案発生



村を堂々と歩いて来る、うっかり騎士と数人の大人たちに俺は叫ぶ。

「あぶないよ!」

しかし、うっかり騎士の隣りにいたローブを羽織った男が言った。

「問題ない、小さき普人の子よ。病気の原因はわかっている」

どこか威厳のある声と、変わった話し方の男を見る。

エルフだ。そこには、眼光の鋭いエルフの男がいた。初エルフが男、というのは残念だが、それでも初めて見るファンタジー人種にちょっと感動する俺。

しかし、エルフより重要なことがある。

「病気の原因ってなんなの?」

「モンスターだ」

どうやら、モンスターの呪いという俺の妄想が正解だったらしい。しかし、村人Aの話と違う。

「この辺にモンスターはいないって聞いたよ」

「それは、強きモンスターが縄張りにしていたから、弱きモンスターが近寄ってこなかっただけだろう」

「じゃあ縄張りにしているモンスターを倒せば解決ってこと?」

「いや、モンスターはもう死んでいる。そのせいで魔力汚染が起こったのだ」

眼光エルフが断言する。魔力汚染ってなんだ?気にはなるも話を進める。

「なんで分かるの?」

「村の事情を聞いた時、いまいち要領を得なかったが、強き大人が死んで、弱き子供が無事ならば、原因はまず魔力汚染だ。

普人の子は10歳程度にならなければ、心臓近くの魔力生成器官が発達しない。魔力汚染で死ぬのは、魔力生成器官が発達し、魔力は生成は出来るが、魔力を感じ取ることが出来ず、魔力コントロールが出来ないものだけだ。

そして魔力汚染とは、強いモンスターが死んだ時、周囲の環境にモンスターの魔力が広がることを言う。これほど大規模な汚染は稀だが、この村に来て、大地や森が汚染されていることはすぐに分かった。だからモンスターはもう死んでいるのだ」

すごい、すごいぞ眼光エルフ!俺が聞きたいことを全て説明してくれた。

おそらく俺が何度も質問をするので、思いつく限りのことを全て説明してくれたんだろう。

というか、村の事情を聞いた時、要領を得なかったって、うっかり騎士の報告だよな。

あれだけ丁寧に説明してやったのに、ちゃんと報告しなかったのかよ・・・。

眼光エルフの名推理のおかげで原因はわかったみたいだが、この差はなんだ。

年の差だな。眼光エルフは見た目は若いが、話し方が若者っぽくはない。

いや・・・うっかり騎士がただ、うっかりしているだけか。

うっかり騎士の、うっかりっぷりについて考えていると、うっかり騎士が話しかけてきた。

「小難しい話が終わったんなら、他の子供たちの所に連れてってくれ。あと今日は村に泊まる」

俺も腹が減ってきたし、救助隊と家に戻ることにした。なんと言っても俺は空腹のジョニーである。



救助隊を引き連れて帰ると、子供たちは眠そうにしていた。

うっかり騎士がそんな子供たちを起こして一緒に騒いでいる。

子供と同じ精神年齢なのか。

俺は騒ぐ連中を無視して飯を作る。

眼光エルフと同じようなローブを羽織っていた数人の普人が、手伝ってくれた。

やはり常識がないのは、うっかり騎士だけのようだ。


子供たちと救助隊、みんなで飯を食う。

俺は子供たちにも関係あることだし、今後のことを聞くことにした。

「僕たちはこれからどうなるの?」

眼光エルフに聞いたのだが、何故かうっかり騎士が答えた。

「孤児院だな」

「孤児院?お祖父ちゃんとか叔父さんに預けられるんじゃないの?」

俺の両親にも当然、両親は存在するだろう。いくら魔法があるファンタジー世界とは言え、まさか、お花から産まれてきた妖精、なんてことはあるまい。

祖父母が亡くなっていても、親戚とかいるだろう。全員にいるとは思えないが、子供たち全員の親戚が死んでます、というのは不自然だ。

「そういやなんでだろうな」

うっかり騎士は何も知らなかった。それを見かねた眼光エルフが答えをくれる。

「この開拓村はそもそも孤児の村なのだ。十数年前の内戦で農地や家族を失った農民の、比較的若い夫婦に文字の読み書きを教え、それを村長とし、内戦で親をなくした子供たちに農業を教えながら、農地開拓をする。ここはそういう村なのだ。だから血縁者はいない。

お前たちの親は領都ヘブリッジの孤児院出身だ。しかし、この村に孤児が送られた理由の一つが、領都の孤児院の人数調整のためというのもある。孤児の数はもう落ち着いているが、予算の問題がある。

だから、お前たちが向かうのは、領都の隣にあるカナリッジという街だ。街に川が流れ、近くにダンジョンもあり、それなりに栄えているいい街だ。だから何も心配することはない」

小さな子供に説明するには必要のない情報もあったが、これは俺への配慮だろう。

俺が色々と知りたがる子供だと把握した上で説明し、他の子供たちへは栄えている、つまり飢えることがない場所だから心配するな、という気遣いまである。さすが眼光エルフだ。

俺と子供たちは、眼光エルフの少し長い説明にも「へぇ~」と感心する。うっかり騎士も「へぇ~」と感心している。なんでお前も感心してるんだよ。

しかし、孤児の子供が孤児になるのか。笑えない冗談だな。



というか、孤児院に行くって、みんな一緒にってことか?

俺は、もうすぐ救助が来るし、こいつらとの関係改善をする必要がない、と思って騒いだ子供たちを怒鳴ったんだが、まさか今後も生活を共にすることになるとは。

まぁ、近くにダンジョンのある栄えた街というし、無理に子供たちと付き合う必要もないだろう。

というかダンジョンがあるのか。ファンタジーだな。



あと聞くことは何かな、と考えを巡らせる。

「他の村はどうなったの?」

「私はまだ確認していないが、おそらくこの村と同じ状況だろう。いや、もっと酷いかもしれんな・・・。しかし、他の村にも救助隊は派遣されたので、心配する必要はない」

「死んじゃった人たちはどうするの?ちゃんとお墓は作ってもらえるの?」

俺のこの質問に子供たちの顔が曇る。親の死を思い出したのだろう。

「問題ない。私が責任を持って墓を作ろう」

頼もしいな眼光エルフ。



この救助隊はたぶん、開拓村を作った領主様が派遣したんだろう。

ここは普人の国なので、当然、領主も普人のはずだ。

村が作られた経緯にも詳しいし、眼光エルフは普人の領主に仕えているのだろうか。

こんなに有能なのになぜだ!有能だからこそだろうか。ヘッドハント的な。

俺がそんな疑問をぶつけると、眼光エルフは少し早口で語りだした。

「今のエルフの国は我らエルフを造った偉大なる神であるエニュモルマルファルス様ではなく精霊を国の軸に据えているのだ。別に精霊信仰を否定する気はないが国の軸にするのはおかしい。

そんな現体制に不満を持ったエニュモルマルファルス教の教徒たちはエルフの国以外を拠点に外部から国を変えようと試みているのだ。私の名前も偉大なるエニュモルマルファルス様から一部を頂いた。そもそも―――」

その後も延々と眼光エルフの話は続いた。眼光エルフの意外な一面に驚きつつ俺は思うのだ。変な名前の神だな。



次の日、村に馬車がやってきた。どうやら眼光エルフたちは早馬に乗って急いで来てくれたらしい。子供を運ぶなら馬車がいるもんな。

俺たちが馬車に乗ると、うっかり騎士も乗り込んできた。うっかりと乗り込んでしまったわけではなく、孤児院まで一緒に来るという。

しかし、眼光エルフは村に残るようだ。

「村に残るの?」

「ああ、元々そのつもりで来た。魔力汚染の原因となったモンスターの死体に、浄化の魔法をかけてやらないと汚染が広がってしまう。放って置けばいづれ、汚染が街の近くまで広がるかもしれない。そうならないためにも急ぐ必要がある。それに・・・村人の墓も作る必要があるしな」

なんか最後はツンデレみたいだな、と思うも眼光エルフは物言いが尊大なだけで、子供の質問にも丁寧に説明し、心情にまで気配りを出来る人だった。

眼光エルフの凄さに気づいているのは俺だけでは無いようで、子供たちも眼光エルフとの別れを惜しんでいた。



そして俺たちは、領都の隣りにあるという、カナリッジに向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る