009, 1-08 うっかり騎士現る
前回のあらすじ
すごいぞハゲオヤジ!
「怪しいもんじゃない。俺は騎士だ。この村から、黒い煙が立ち上るのを見たという行商人からの報告を受け、様子を見に来た」
「そんなことより早く村から出ていけ!」
「いやまて、剣か、剣が怖いんだな。よし、剣はここに置くぞ。これで俺は丸腰だ。怖くない、怖くない」
そんな事を言いながら近づいてくる騎士に俺は言う。
「こっちに来るな!」
「怖くない、怖くない。怖くないぞ~」
怪しさ満点である。怪しい男が嫌がる子供に「怖くないぞ~」と言いながら近寄る事案発生である。
とはいえ俺は、怪しい男を恐れているわけではない。
ただ単に、この村で空気感染であろう病気が流行って村人が死んだために、騎士の身を案じて村から出ていくよう、俺に近づかないように言っているのだ。
村の様子がおかしく、子供が焦った様子で出て行けと言えば、普通は何事かあったのだろうと気づきそうなものだが・・・。
それに、子供に出て行けと言われたくらいで剣を捨てるのか。剣は騎士の誇りじゃないのか。この世界では違うのか、この騎士がおかしいだけなのか。
たぶん、この騎士がおかしいんだろうな。丸腰だと言っているが、腰のホルダーにナイフがある。丸見えだ!
ナイフは武器ではない、という認識なのだろうか・・・。
とりあえず村から出てもらって、事情説明をしようと考えていたのだが、それは無理そうだ。
「病気だ。病気で大人が死んだ。村にいると危険だぞ。外に出ろ!」
「わかった。詳しい事情は村の外で聞こう」
流石にここまで言えば、騎士も危機感を覚えたのか、村の外に向かって歩いていく。
俺は少し離れて付いて行く。
村の境界には馬がいた。その馬を付れて村から離れる。騎士が立ち止まったので俺も止まる。
「何があったのか話してくれ」
騎士が真面目な顔で聞いてくるが、さっきのうっかり加減を見ていると、ちょっと不安になる。理解できるかな。
俺はできるだけ噛み砕いて、丁寧に、子供に教えを説くように、馬鹿でもわかるように、村で何が起こったのかを説明してやる。
「わかった。救助を呼んでくるから少し待ってろ」
本当にわかったのだろうか。すぐさま馬に乗り、遠ざかって行くうっかり騎士を眺めながら俺は思うのだ。
少しって、どれくらいなのか言っていけよ。数時間なのか、数日なのか、結構大事な情報だと思うぞ。
俺は村に戻る。井戸の近くで子供たちが騒いでいた。俺を見つけた子供たちが駆け寄ってくる。人気者だな。
「ジョニー、さっき大人が来なかった!」
「声が聞こえた!」
「助けが来たの!」
ワーワーとうるさい。しかし子供たちも不安なのだろう。
俺は、騎士が様子を見に来たこと。助けを呼びに行ったこと。『少し待っていてほしい』と言っていたことを、子供たちに伝える。
救助が遅くて、子供たちが文句を言ってきたら「それはね、うっかり騎士のせいだよ」と言ってやろう。
子供たちは俺の話を聞いて、安心した顔を浮かべている。
一人を除いて・・・。生意気男子が俺を糾弾する!
「嘘だ!俺は聞いちゃったんだ・・・。大人は来たけど、ジョニーが追い払ったんだ。村から出てけって追い払ったんだ!」
せっかく子供たちが安心したのに、余計なことをと思うが、あのときの会話を聞いていたのなら、病気の説明も聞いてたんじゃないのか?
その疑問をぶつけてみると、生意気男子は最初の威勢はどこへやら、小さな声で言った。
「だって・・・家の掃除しなきゃいけなかったから、途中までしか聞いてなかったんだ・・・」
「真面目か!」と思わずツッコミを入れてしまう。俺が家の掃除をしておくように言いつけたことを守ったのだろう。
しかし、救助の騎士を追い返してる、と思ったのなら掃除より重要だと思うんだが。主体性がないのだろうか。
「ほんとなのジョニー?」
「追い返しちゃったの?」
「助けは来ないの?」
騒ぎ出す子供たち。丁寧に説明してもよかったが、うっかり騎士にした説明を繰り返すのは流石に疲れる。
だから俺は怒鳴る。
「うるさい!救助は来るんだ。大人しく待ってろ!」
怯える子供たち。すると、死体を運ぶのをサボっていた女の子が涙目で叫ぶ。
「空腹のジョニーこわい。キライ!」
そうして家に駆けていく女の子。それを追う子供たち。
俺は思った。空腹のジョニーってなんだ!
俺は森に向かって歩く。家に帰るのは気まずい。
空腹のジョニー。食いしん坊キャラのあだ名のようだが、まず違うだろう。
料理を作ったから、なんて理由でもないはずだ。
燃える死体を見て『お腹が空いたなぁ』と言ったのが由来だろう。
あの後、お前らも飯を食ってたじゃねぇか!という怒りを鎮めるため、森に向かって石を投げる。
石投げのジョニーだったんじゃねぇのかよ!生意気男子や涙目女子、ついでにうっかり騎士にも怒る。
子供たちとの関係は、また悪くなってしまったが、もう気にする必要はない。
遅くとも、あと数日で救助が来るはずだ。来るよな。うっかり忘れちゃいました、とかないよな。
石投げに熱中していたが、気づくとあたりは暗くなっており、そろそろ帰ろうとした時「おーい」という大人の声が聞こえた。
誰の声かは言うまでもないだろう。うっかり騎士だ。
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