011, 1-10 じゃじゃ馬娘と慈愛の微笑み

前回のあらすじ

 エニュモルマルファルス様



馬車に乗って30分ほどすると、コンクリート舗装されたような道に出た。街道だろう。

この世界、コンクリートがあるのか・・・。そういえば古代ローマにも、ローマ・コンクリートというコンクリートがあったと聞いたことがある。

製法は全く知らないが、この世界で似たような技術があっても不思議ではない。

街道につくまで馬車は結構揺れていたが、街道では驚くほど安定している。

異世界小説でよくある、馬車にサスペンションを付けて俺スゲェ!してみたかったものだが、そもそも俺はサスペンションの付け方なんて知らなかった。

馬車を安定させて「すごい、すごいわジョニー!お尻が全然痛くない」と商会の令嬢を感動させる展開は期待できそうにない。


俺が商会令嬢のお尻を想像していると、うっかり騎士が話しかけてきた。

「結局、死体を燃やした意味なかったな」



俺は、うっかり騎士に伝染病で死んだ人の遺体は燃やさないと危険だから、といったような説明をしたのだ。

しかし、死んだ原因は魔力汚染、伝染病ではない。

だが、伝染病ではなくとも、死体を放置すれば疫病の原因になったことだろう。

しかし、俺はそのへんの詳しいメカニズムを知らないので、説明するときには省いたのだ。

仮に説明出来たとしても、うっかり騎士に理解できたとは思えないが・・・。


なんにしても、食糧支援のハゲオヤジが村に来るまで2ヶ月はあったわけで、2ヶ月も死体を放置すれば腐敗する。単純にひどい臭いだろうし、不衛生だ。

土葬でもいいのだろうが、子供6人で大きな穴を掘るよりも、火を付けたほうがどう考えても楽だし、子供6人で腐敗が始まる前に、穴を掘るのは不可能だと思う。


そもそも、うっかり騎士は忘れているのだろうか。

うっかり騎士が村の様子を見に来た理由は、行商人が黒い煙が立ち上るのを見たからだ、ということを。自分で言っていたよな。

死体を燃やしたことにより、救助がこれほど早かったのだ。

眼光エルフは、魔力汚染の浄化が遅れると『街の近くまで広がるかもしれない』と言っていたし。

一体何をどう考えれば、意味がなかったという結論にたどり着くのか。



しかし、このうっかり騎士の、うっかりな一言を聞いた子供たちが、少し俺を睨んでいる。

親の死体を燃やされたことに意味がなかった。そう言われたのだ。

余計なこと言いやがって、と思いつつ孤児院での生活を考え誤解を解こうとすると、うっかり騎士が珍しく空気を読み、話を急に変える。

「実は、ウチにいる娘もお前たちと同じぐらいなんだぜ」

燃やしたことに意味があった、と説明しようとした俺の出鼻をくじく、うっかり騎士。

しかし気になる。うっかり騎士には娘がいるのか。つまり結婚しているということだ。うっかり騎士のどこに惚れたのか。

うっかり騎士の、うっかりっぷりに、母性本能をくすぐられる女性がいるのだろうか。


前世では「この人は私がいないと駄目なの」という、所謂いわゆるダメンズ好きの女が存在したそうだ。

そんな女には会ったことはないが、この世界にもそういう女がいるのかもしれない。


俺はロリコンではないので、娘などに興味はない。

興味があるのは人妻だ!響きがエロい。

「奥さんはどんな人なの?」

俺が人妻の情報を聞き出そうとすると、うっかり騎士は言った。

「奥さん?俺は独身だぞ」

独身なのかよ!じゃあウチにいる娘ってなんだよ。養女だろうか。うっかり騎士は、恵まれない子供を育てるいい奴だったのだろうか。


しかし、よくよく話を聞いてみると、ウチにいる娘とは、彼が仕えるこの地域の領主、男爵の娘ということだった。

男爵令嬢はかなりのじゃじゃ馬娘らしく、よく屋敷を抜け出しては平民の子供とつるみ、イタズラを繰り返し、街のチンピラに喧嘩を売るらしい。

うっかり騎士は普段、そんな男爵令嬢の護衛が主な任務だそうだ。


「そこでお嬢は言ったわけよ『成敗!』ってな。笑えるだろ」

一体何が面白いのかわからない、じゃじゃ馬娘のじゃじゃ馬話を聞かされる。

しかし、これは俺が異世界転生者だからで、精神年齢が子供ではないから、つまらなく感じるのではないだろうか。

子供からすれば貴族令嬢の冒険譚として楽しめるのではないか。

そう思って後ろを振り返ると、子供たちは身を寄せ合いスヤスヤと眠っていた。

うっかり騎士の話は、やはりつまらなかったらしい。



俺も眠ってしまおうかと思ったが、うっかり騎士が隣でずっと、じゃじゃ馬話をしているので眠れない。

段々とあたりが暗くなってくるが、街にはまだつかない。しかし馬車が止まる様子もない。

「夜に馬車を走らせるのは危険じゃないの?」

「街道なら大丈夫だろ。道は平らだし。こんな時間に街から街道に出てくる馬車があるとも思えん。ランプをつけりゃ、正面から突っ込んでくることもないだろ。

それに、街が近くにあるときは夜でも馬車を走らせて街に行くもんだぜ。夜営はモンスターが怖いしな。まぁ、モンスターが来ても俺がいるから安心して寝ていいぜ。ガッハッハ!」

不安でいっぱいである。モンスターも怖いが、うっかり騎士も怖い。

何より俺は前世、車が突っ込んできて死んだのだ。今生で馬車が突っ込んできて死ぬなんてのは御免である。



俺は目を凝らして前方に注意を払う。一体どれだけの時間が経過したのか、星明かりが頼りになった頃、街が見えてきた。

かなりでかい壁がある。街壁というやつだろう。モンスターがいる世界だし、壁で街を囲うのは当然の措置と言える。


そうして街につくも当然、大きな街門は固く閉ざされていた。

しかしその横にある、街門と比べると小さい鉄格子の後ろにいた兵士に、うっかり騎士が格子越しに何かの書類を渡すと、兵士は鉄格子を開けて街の中に入れてくれた。

兵士がどこかに案内してくれる。付いていくと教会のような場所だった。

流石に十字架なんてないが、二重の円の中に二冊の本が重なったシンボルマークがあり、他の家屋とは違うように見える。

うっかり騎士が扉を叩くと、少し時間を置いてから、60歳ぐらいの男が出てきた。神父様か。

うっかり騎士と神父様が何事か話している。しかし、俺は全く別のものに釘付けになっていた・・・。おっぱいだ!


神父様の後ろには、でっかい胸とでっかいお尻、扇情的なくびれをした、黒髪でゆるふわロング、少し厚めのぷっくりとした唇と、その横にある泣きぼくろがエロさを際立たせた、まさにエロの体現者というべきシスターがいたのだ。

俺は感動に打ち震え、思わず飛びつく。

(おっぱい)

そうして、エロシスターのおっぱいにグリグリと顔を押し付ける。完全にセクハラである。

しかし、エロシスターはそんな俺を怒るでもなく、抱きしめ、頭をなでてくれる。

「よっぽど辛いことがあったのね。もう大丈夫よ」

そんな事を言いながら、俺に向ける顔はまさに、慈愛の微笑みというべき優しげな表情だった。



しかし、このときの俺はまだ知る由もなかった。

この慈愛の微笑みを浮かべるエロシスターが数年後、目じりを吊り上げて睨みつけてくることを・・・。

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