006, 1-05 開拓村の崩壊

前回のあらすじ

 糞を下さい



薪拾いに行こうと家を出ると、畑で父親が倒れていた。

これは大変だ!と家に戻ると母親も倒れていた。

普通の子供ならパニックになるだろうが、俺は異世界転生者。ただの子供ではない。


俺はまた家を出て、隣の村人に助けを求めることにした。

しかし、隣の村人も倒れていた。

まさか腐葉土のせいだろうか、と思うも隣に撒いたのは数ヶ月前だ。

俺は村を歩き家々を回る。大人は皆倒れ、子供は皆泣いていた。


俺は家に戻る。布団を敷いて母を寝かせる。

畑に行き、父を引っ張る。五歳児なので持ち上げて運ぶことなど出来ない。

休憩を挟みつつ、なんとか父を家まで運び、布団に寝かせる。

さて、どうするかな。俺はとりあえず一息ついて水を飲む。

両親に呼びかけてみる。両親は「う~う~」とうなっている。

反応を見るために、揺すったり、叩いたり、水をかけてみるが、やはり「う~う~」とうなるだけだった。引きずっても起きなかったのだから当然だ。



RPGゲームでは、村人が倒れるイベントが発生した場合、事情通の老人あたりに「○○の呪いじゃ」と聞き、ボスモンスターを倒して村に戻ってくると、村人皆、元気になっていた。

しかし、ここは開拓村で老人はいない。村長も30歳ぐらいだ。まぁ、いたとしても「う~う~」とうなるだけだろう。

そもそも『この辺にはモンスターなんていない』と村人Aは言っていたし、普通に病気だろう。


村の外に助けを呼びに行く、というのは現実的ではない。俺は村の外に出たことがないからだ。

他の開拓村は近くにあるという話だが、それでも子供の足だ。たどり着くのにどれだけかかるかわからない。

地理もわからない。食糧支援と行商を兼ねた人間が4ヶ月に一度ぐらいの間隔で来る。

来る方向と帰っていく方向は同じなので、街道みたいなものがあるのかもしれないが、街道に出てもどちらに行けばいいのかわからない。

わからないことばかりだ。


それに村の大人は一斉に倒れた。となると、接触感染ではないだろう。

人口は少ないが、今後の発展を踏まえた大きい村なのだ。村人全員が毎日顔を合わせるわけではない。井戸は三つあるし、村人全員が毎日立ち寄る共通の場所などない。

村人の一人が病気になり、その病気を別の村人に感染うつしたとしても、頻繁に接触する人と、そうではない人で病気に感染かんせんする時期もずれるはず。

一斉に倒れたということは、一斉に感染したということだろう。空気感染でこの辺一体が汚染されているなら納得できる。

そうなると不思議な事がある。なんで俺は無事なんだ?

俺は異世界転生者だが、病気にならないチートを持っているわけではない。過酷な開拓村生活だ。疲労で体調を崩したこともある。まだ子供なのに。

そもそも無事なのは俺だけではない。倒れていたのは大人だけ。子供は泣いていたが、あれは親が倒れてパニクっていただけで、病気ではないだろう。

大人だけが感染する病気、というなら問題ない。

だが、俺も含めた子供たちも既に病気だったらどうなるか。

病気にかかっても症状が現れる時期がずれているパターンだ。

なんだったかな。潜伏期間とか聞いたことがある。子供と大人で発症時期が違うだけ。

俺が村の外に行き、運良くどこかにたどり着き、助けを求める。

村の大人が一斉に倒れるほど感染力の強い病気だ。助けを求めた先でも、大人が倒れることになるだろう。



とりあえず様子見だな。両親の様子を観察しつつ、自分の体調を把握しながら今後の方針を決めるしかない。数日後にはあっさり目覚めるかもしれないのだ。

水瓶から手桶で水を汲み、布を濡らして両親の顔を拭いてやり。おでこに置く。

特に意味はない。熱もないのだ。病気の人にはこうやるよな、という俺の気分の問題である。何も出来ることがないのだ。

そんなことをしながら他の村人について考える。助けるべきか、見捨てるべきか。

だがすぐに、この考えが馬鹿らしいと気づく。そもそも助ける方法がわからないのだ。両親もただ布団に寝かせただけ。放置するよりはマシという程度だろう。

夜になるまで両親を見守り、俺も眠りについた。


朝起きて、両親の様子を見る。呼びかけてみるも「う~う~」とうなるばかりだ。

俺は水に塩を溶かし、きれいな布に染み込ませて、両親の口元に運ぶ。水分補給だ。

流石に「う~う~」とうなるだけの状態では、固形物を食べられないだろう。

俺は自分の体調について考える。腹が減っているが、それだけだ。塩水を飲み、家に残っていたパンを食べる。

暇つぶしに家の掃除をし、それから両親の様子を見る。両親は目覚めない。たまに顔を拭いてやったりして、夜になったので俺も眠ることにした。


朝起きて、両親の様子を見る。なんか変な臭いがする。おもらしだ。

汚いなぁ、と思いつつ、水瓶の水がなくなってきていたので、井戸から水を汲み、体を綺麗にしてやる。寝たきりでトイレに行ってないからな。

呼びかけてみるも「う~う~」とうなるばかりだ。塩水をやったり、顔を拭いたりして、暇つぶしに家の掃除をしながら一日を過ごす。

俺の体調に変化はない。夜になったので俺も眠ることにした。


朝起きて、両親の様子を見る。両親は冷たくなっていた。

体温が低くなったのかなと思い、呼びかけてみる。「う~う~」とうなることもない。


俺の両親は死んでいたのだ。



記憶が戻り、一年間は今生の両親に関心はなかった。

奇行で心配をかけたことを反省し、一年間は親孝行をした。



俺は両親の死体を見る。

あまり悲しくないな。それが俺の正直な感想だった。

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