007, 1-06 残された子供たち

前回のあらすじ

 おもらしだ



これからどうするかな。

俺は家を出る。村を歩きながら考える。

村を出るのはやっぱりなしだな。倒れて4日で死亡。危険すぎる。

そういえば他の村人はどうなったんだ。

俺の両親が特別に重い症状だっただけで、生き残りがいるかも知れない。


俺は隣の家に行く。

死んでるな。酷い臭いだった。世話する人がいなかったため色々、垂れ流しのようだ。


他の家も覗いてみた。

女の子がいた。生きてるな。やっぱり子供には感染しない病気なのだろうか。

布団のそばにいる。膨らんでいるので、親の死体があるのだろう。

死体を見たくなくて隠したのか、寝たまま起きなかったのか。

俺と同じように、布団に運んで、看病してる気分なのかもしれない。

五歳の女の子にそれが出来るかはわからないが。


他の家も覗いて見ながら、子供を集めることにした。

大人は全員死んでおり、子供は全員生きていた。

この村の子供は俺を入れて6人。大人は35人。

たった41人の村だったのだ。


俺は生き残った子供を集めた。特に抵抗はなかった。

女の子に声をかけた時など「ともだち、よぶ」と辿々たどたどしくも協力してくれるほどだった。

先程の女の子が男の子をつれて広場に遅れてやってきたが、俺は特に叱らなかった。協力的なのは助かる。

村で生活するならやることは決まっている。

「死体を集めるぞ!」

俺は大きな声で言う。

子供たちがこちらを見る。死んだ魚のような目をしている。

「お前ら生きてる人間だろ!そんな目をするなよ・・・」と思ったが、流石にそんな事は言わない。

俺はもう一度大きな声で言う。

「死体を集めるぞ!」

遅れてやってきた男の子が生意気にも不満を言う。

「なんでそんなことしなきゃいけないんだよ」

俺は生意気男子に近づいて、思い切りひっぱたいた。子供たちは怯えている。

「文句を言うな!死体を集めるぞ!」

俺は二人一組で、死体をこの広場まで運ぶように、と指示を出す。

不満を言った生意気男子がサボらないように一緒に行動することにした。


生意気男子と一緒に自分の家に行く。

両親の死体を広場に運ぶ。結構な距離があり、かなり時間がかかる。

両親の死体を運び終えると、きれいに並べて手を繋いでやる。

俺は手を合わせ、祈りを捧げる。

(ちゃんと転生できますように)

なんと言っても俺は異世界転生者。死んだら転生するんだろう。実体験だからな。輪廻転生的な概念は正しかったと言える。



記憶が戻って一年目は、とにかく怒っていて、周りのことに興味がなかった。

二年目のある時、ふと目が覚めると、両親はイチャイチャしていた。

まだ若い夫婦である。当然そういうこともするだろう。

俺は親孝行を心がけていたので、弟や妹が生まれたら面倒を見てやろう、と思いながら寝たふりをしてやった。

愛し合っていたのだろう。幸せだっただろうか。


そういえば、俺は両親の名前を知らない。

別に石投げのジョニーのせいで、他の村人に名前を呼ばれない村八分にあっていた、とかではない。

たまにある、村の会合には父が参加していたし、収穫物の取引などをしているのも見かけたことはある。

だが俺はまだ幼い子供なので、参加していなかっただけだ。

ほぼ一日中仕事をしており、休みなどない。誰かがひょっこり遊びに来るなんてこともなかった。

家で両親はお互いを「お父さん」「お母さん」と呼び合っていた。

世界が変わっても、子供が出来ると夫婦の呼び方が変わるんだなぁ、と変なところで感動したのを覚えている。



隣の村人も運んでやることにした。

夫婦だろう男女の手を繋いでやる。

俺は手を合わせ、祈りを捧げる。


それから村人Aも運んでやる。

知りたいことがあったら、とりあえず村人Aに聞きに行ったものだ。

村人Aは迷惑がっていたが、俺は情報が欲しかったのだ。

村人Aは一人暮らしだった。村でたった一人の独身だ。

童貞だったのだろうか。俺は同情した。

手を合わせ、祈りを捧げる。

(来世では、童貞卒業、出来るといいね)



俺と一緒に死体を運んでいた生意気男子が「俺の家も」と言い出した。

自分の両親も運びたい、ということだろう。

生意気男子についていき、死体を運ぶ。

俺がやったのと同じように、両親の手を繋がせていた。

そして、しくしくと泣き出した。俺はそれを見守る。

本当は早く死体を運び終えてしまいたかったが、俺は異世界転生者、俺の半分は優しさで出来ているのだ・・・。


生意気男子は一向に泣き止まないので、他の子供の様子を見にいく。

ちゃんと運んでいる子供もいたが、サボっている子供もいた。

最初に協力的だった女の子だ。

俺は協力的だったのにサボっている女の子を怒鳴りつけ、ひっぱたく。

女の子だが区別はしない。男女平等だ!


広場に戻ると生意気男子が泣き止んでいたので、死体を運ぶ作業に戻る。

広場に村長の死体が運ばれていたので、あさる。なにもない。肌身離さず持っているわけではないようだ。

長い時間をかけて、全ての死体を運び終える。


死体を見つめる子供たち。

俺は、村人Aの家にあった獣油を死体にまいた後、火をつけた。

泣き出す子供たち。

この村に墓はない。10年前に出来た開拓村で若いものばかりだからだろう。

宗教施設もないし、両親から神について聞いたこともない。食前の祈りもない。だから宗教観がわからない。

死体に火をつけて子供が泣き出した理由が、ただ両親の死を悲しんでいるだけなのか、死体を焼くのが宗教的禁忌なのか判断がつかない。

だが死体は燃やさなければならない。


死体を放置すると疫病が発生する、とか聞いたことがある。

具体的にどんな病気かなんて知らない。

それに、村人が死んだ原因のウィルスとかが、死体に残っているかもしれない。

だから死体は燃やす必要があった。

この村の家は木造だが、死体を集めた広場の中央から家は離れているし、家と家の間隔も空いている。

仮にどこかの家に燃え移っても、村が全焼するなんてことはないだろう。


燃える死体を見つめながら俺はつぶやいた。

「お腹が空いたなぁ」

すると「ひっ」という声が聞こえ、子供たちが怯えた目でこちらを見ていた。

俺はしまった、と思う。

今の状況だと、まるで人の肉が燃えることに食欲を覚えたように聞こえただろう。

だが違う、俺は異常者ではない。

単純にここ数日、まともな食事をしていなかったことと、やるべきことをやり終えて気が抜けたためだ。

気まずくなったので、俺は子供たちを放置し、家々を回り食料を回収する。回収した食料は俺の家に運ぶ。

別に独占しようとしているわけではなく、これからは子供たちとの共同生活だ。一箇所に集めたほうがいいだろう。

ついでに布団も集める。眠る時必要だ。服や使えそうな布、その他諸々生活に必要そうなものを集める。

井戸の近くに、服と布、石鹸代わりの灰汁あくを置いておく。後で必要になる。

村長の家に行き、村の食料庫の鍵を探す。死体にはなかったので家にあるだろう。

鍵を見つけ食料庫を開ける。けっこうあるなと確認し、扉を閉めて鍵をかける。


そうして必要そうなものを集め終えた後、広場に戻る。

結構ひどい臭いだな。子供たちは、まだそこにいた。この臭いに耐えたのか。

こいつらのほうが異常なのではと思いつつ、付いて来るように言う。

井戸の前で体を綺麗にするように言い、準備しておいた物を渡す。

俺も体を拭いて着替える。念の為に脱いだ服は明日燃やす。死体は一度では燃えきらないだろう。使ったのはガソリンではなく獣油だからな。


子供たちを連れて俺の家に入る。子供たちに適当に座るように言い、俺は食事の準備をする。

かまどに薪をいれ火を付ける。水瓶の水を鍋にいれる。

傷んだ野菜の食えそうにないところを取り除き、適当な大きさに切って鍋に放り込む。

村人Aの家にあった獣肉も、適当な大きさに切って鍋に放り込む。

灰汁あくを取りグツグツ煮る。灰汁あくが出なくなってきたら塩で味付けする。

味見をして問題ないのを確認し、器に入れる。パンと一緒に子供たちに配る。

俺は手を合わせ「いただきます」と口にしてから食事をすることにした。

両親が生きていた頃は、気を使ってそういうことはしなかったのだ。

俺はスープを口にする。うまいな。



そういえば異世界転生もので、戦うでもなく、街を発展させるでもなく、ひたすら料理を作る作品もあったな。

俺はスープを口にする。異世界料理、俺の飯うめぇ!である。

別に異世界関係ないが。ただの塩スープだ。俺は前世、家庭科の授業ぐらいでしか料理を作ったことがない。

料理人パターンは諦め、パンをかじる。



子供たちを見る。みんな食事をしている。やっぱり腹が減っていたようだ。

俺が『お腹が空いたなぁ』とつぶやいた時、怯えた目をしていたくせに。


飯を食った後、布団を敷く。疲れたし、もう眠い。

俺から離れたところで、子供たちは布団を敷きだす。ずいぶんと距離がある。

どうやら子供たちとのコミュニケーションには失敗したようだ。

俺は悪くない。やるべきことをやっただけだ。

まぁ、子供たちも悪いとは言えないが。

親が急に倒れ、訳も分からず、助けも来ず、親が死に、石投げのジョニーに怒鳴られ、不満を言えば暴力を振るわれ、死体を運ばされ、サボったら暴力を振るわれ、親の死体を燃やされたのだ。

鬼畜の所業だな。恨まれてないよな。



俺は子供たちが寝静まった後、家の近くの森に行き、石を拾う。

一対一ならどうとでもなるが、結束して反乱されたら一人では辛い。

石投げのジョニーの投石が活躍しないことを祈りつつ、俺は家に帰るのだった。

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