004, 1-03 二つ名の四歳児

前回のあらすじ

 なんで水洗じゃねぇんだよ!



俺は四歳になった。

一年中、石を投げ続けていたようだ。

怒りはまだ収まらない。これはまずい。

このままでは一生、石を投げ続ける人生になってしまう。どんな人生だ。

となると怒りの解消ではなく未来に目を向けるべきだ。

しかし、この一年ずっと石を投げ続けていたので何も思いつかない。

ここは先人の教えに従おう。



異世界転生ものでは様々なパターンがある。

王族や貴族に生まれてチート人生を送るパターン。

王族や貴族なのに、なぜだかハードモードで、どん底から這い上がり、ざまぁするパターン。

俺は農家のせがれ。となると村人からの成り上がりパターンだ。


成り上がるためにはやはり訓練だろう。

子供の頃から魔法を使って、魔力量が多い俺強えぇ!である。

しかし、この世界に魔法があるのだろうか。

体の中に魔力的なものは何も感じない。

わからないものは仕方がない。

となると、あいつに会いに行くべきだろう。



俺は村を進む。

一年中、石を投げ続けていてあまり周りに気を配らなかったが、獣臭けものくさにおいがしたことがある。確かこの辺にいたはずだ。

俺は目的の男を見つけて叫ぶ。

「俺を弟子にしてくれ!」

男は驚いた顔をしている。目的の男は狩人だ。


村人パターンといえば、狩人の弟子になって森に入り、モンスターとの遭遇イベントを機に隠された力に目覚めて俺強えぇ!である。

隠された力などあるのか。そもそもこの世界にモンスターが居るのか。それすらわからないが、とにかく狩人の弟子になろう。

そう思って声をかけたのだが、狩人男はまだ驚いている。

仕方がないので、俺はもう一度叫ぶ。

「俺を弟子にしてくれ!」

すると少し間をおいて狩人男は言った。

「お前、しゃべれたのか・・・」

そりゃ喋れるだろ。何言ってるんだこいつはと思ったが、この世界の四歳児の知的レベルがわからない。

喋るのはまずかったのだろうか。四歳で喋れる俺スゲェ!なのか。

わからないことは素直に聞こう。

「四歳でしゃべれるのはおかしいの?」

「いや、普通だが」

普通なのかよ!じゃあなんで驚いたんだよ。

俺の困惑を察したのか、狩人男は驚いた理由を説明してくれた。

「お前はこの一年、村の石を拾い集めてはそれを森に投げていただろう。誰が話しかけてもすべて無視して、ちょっかいを掛けた子供を殴り飛ばし、鬼気迫る顔で森に石を投げていた。そんなお前を怖がって子供たちはこう呼んだ。石投げのジョニーと・・・」

どうやら俺の名前はジョニーらしい。というか石投げのジョニーってなんだ!。二つ名だろうか。

普通、二つ名は村を出て冒険者にでもなって活躍して、初めて呼ばれるのではないか。

まさか四歳で二つ名がつくとは・・・俺スゲェ!である。

驚いた理由はわかったので、俺はもう一度叫ぶ。

「俺を弟子にしてくれ!」

「いや、それは無理だ」

「どうして無理なんだ!モンスターか!モンスターがいるからなのか!!」

「この辺にはモンスターなんていない。だから開拓村が作られたんだ。たまに、はぐれゴブリンが来るが・・・すぐ逃げるしな」

この世界にはモンスターがいるのか・・・。とういか、はぐれゴブリンってなんだ。倒すと経験値がたくさん入ってレベルが上がるのか。この世界はレベル制なのか。

とりあえずこの辺にはモンスターがいないらしい。

「じゃあ俺を弟子にしてくれ!森に連れて行ってくれ!」

「いや、だからそれは無理だ」

「どうして無理なんだ!!」

「四歳児を森に連れて行くとか危ないだろ」

正論である。思えば狩人の弟子パターンも、もう少し大きくなってからだった気がする。さすがに四歳で森に入らなかったはずだ。

仕方がないので狩人男と世間話をする。狩人男は迷惑がっているが、俺はこの世界の情報が欲しいのだ。



狩人男によるとここは開拓村で、10年ぐらい前にできたそうだ。

思えば村を徘徊中、家と家の間隔がずいぶん空いているなと思ったものだ。

開拓村はこの村を含めて全部で6つ。今はまだ、どの村にも名前はついていない。

開墾作業が進んで、村人が増えれば正式な村となるらしい。


この世界には魔法があるが、普人ふびと族の子供は10歳ぐらいにならないと魔力を体内で生成できないようだ。

普人というのは、これといった特徴がない人間のことで、前世の人間と同じ見た目である。

他にもエルフやドワーフ、獣人なんてファンタジー世界おなじみの種族を含めて様々な種族がいるという。狩人男も詳しくは知らないそうだ。

他種族には、生まれながらに魔力を体内で生成できる種族もいるという。

つまり普人族の四歳児である俺は魔法の修行が出来ない。そもそも魔法を覚えるなら、特別な魔法使いに魔力感知の指導を受ける必要があり、この村には普通の魔法使いすらいないそうだ。

特別な魔法使いってなんだ。希少そうだな。魔法を覚えるだけでハードモードだ。成り上がりに苦労しそうである。

せめてレベル上げをしようと思って狩人男に尋ねたのだが、この世界はレベル制ではないらしく「何いってんだこいつ」という目で見られた。

そんな目で見るなよ・・・。



狩人男との話を切り上げ俺は村を歩く。

RPGゲームなどでイベントを進めるのに「いちいち村人と会話するのは面倒くせぇよ!」と思っていた俺だが、現実になると様々な情報が引き出せた。

今度からは狩人男ではなく、村人Aと呼ぼう。有用な情報をくれた凄い奴だ!

しかし、現状で強くなる方法が全く見つからない。

これではまた石を投げる生活に逆戻りだろうか。

いや、強くなる必要はないのか・・・。

成り上がりにもいくつかのパターンがある。

最強チートで俺強えぇ!ではなく、内政ものではないか。

開拓村で様々なものを作り出し、知識チートで俺スゲェ!ではないか。

この村は農村のようだし、つまりは農業改革か・・・。

しかし、俺には農業知識などない。前世は普通の高校生だ。

せいぜい同じ場所で同じものを作り続けると連作障害が起こる、ということぐらいしか知らない。

そもそも、この村の畑は素人目に見てもしっかりと区画整理されているし、複数の作物を育てている。

農民なら経験から連作障害の知識ぐらいあるのだろう。

まずいぞ、何も出来ることがない。


どうすべきかと悩みながら歩き、家につくと幸薄女が夕飯の支度をしていた。

よく考えなくとも、この幸薄女が今生の俺の母親だろう。

一年間石を投げ続け、石投げのジョニーという二つ名がついた息子をよく見守り続けたものだ。

なんだか申し訳なく思う。

前世の俺は16歳という若さで死んだのだ。親よりも先に。

親より先に死ぬのは最大の親不孝なんて言われていたな。

もちろん俺が死んだのは俺が悪いわけではないが、前世で親不孝だったのだから今生では親孝行をしよう。

他にやることもないしな。

俺は今生の母親に初めて話しかける。

「なにか手伝えることはない?」

母親は驚いた顔をしている。村人Aと同じ反応だ。

しかし、村人Aとは違い俺をじっと見つめながら震えだし、目に涙をためてガバっと抱きついてきた。

感極まったのだろうか。それからずいぶんと長い間、母親のむせび泣く声を聞き耐えた。泣きすぎだろう・・・。

驚いた優男、今生の父親もやってきて、目に涙を浮かべて寄り添う。お前もかよ。

そうしてまた長い間、今生の両親は俺を抱きしめむせび泣くのだった・・・。

いい加減泣き止んでくれ。

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