第34話 シワだらけ

 いちご大福パンを完成させた翌日、わたしはいつもより遅く目覚めた。

 ベッドの上で目が覚めたのだが昨夜の記憶が途中から欠けており、いつの間に床についていたのだろう。

 衣服はコックコートのままだったのだが、こんな格好で寝ていたせいか服にはシワがついている。そのシワが妙に艶かしい。

 まさか酔った勢いでヨハネに体を許したのか?

 酔った勢いどころか昨夜は酒の一滴も飲んでいなかったのにもかかわらず、寝起きの頭を襲う頭痛に、わたしは妄想を膨らませてしまう。

 妙に心臓の音が大きくて、耳の奥にまでドクンドクンという音が響いている。この自分の気持ちが何なのか。


「とりあえず着替えないと」


 胸のドキドキが収まらないまま、わたしはとりあえず服を脱ぐ。折り重なって床におかれたコックコートはなんとなくホカホカと湯気が出ているように見えて、下着姿になったわたしの体はヨハネとの寝起きの第二ラウンドを控えているように感じてしまった。

 たぶん妄想なのだろうが、こんなことを考えるなんてわたしはどうしてしまったのだろう。フェイトちゃんではあるまいし。

 耳まで赤くなり、悶えるわたしはベッドに飛び込んで足をジタバタと動かした。

 今わたしがベッドにしているように、ヨハネもわたしに覆い被さるのだろうか?

 そんな状態で体を重ねあってキスをされたら、わたしは気恥ずかしさでどうなってしまうのだろう。

 そろそろヨハネと暮らし始めて二週間くらいになるが、これまでわたしは彼との暮らしに不満などない。事情があるとはいえ、普通初対面の相手と共同生活をしていたら、大なり小なり衝突は避けられないだろうに。

 強いて言えば彼が結構なむっつりスケベなことくらいだが、裏を返せば好意の証拠でもあるのでいつの間にかわたしも受け入れていた。

 男としてヨハネの顔を頭に浮かべるとドキドキし、片思いの幼馴染みのことで惚気るフェイトちゃんの顔を思い出す。

 わたしはいつの間にかヨハネのことが好きになっていたようだ。いや、もしかしたら最初に会ったその日から惹かれていたのかもしれない。

 彼のむっつり具合を考えたら、思いを伝えれば相思相愛になれそうな予感はする。

 しかしわたしはその一歩を踏み出すのが怖い。

 散々フェイトちゃんを奥手だとからかってきたが、当事者になると同じ反応をしてしまうのだなと、かつてのやり取りを振り替える。

 そしてフェイトちゃんのように自分もむっつりとしてきたのは、彼女と同じ片思いをしているからかも知れないなと、わたしは気がつく。

 相手のほうから気持ちを察してきて、流されるがまま押し倒されたらどれだけ楽に事が進むのか。ようやくわたしは彼女の気持ちを理解した。

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