第31話 公女の歓喜
大学も休みの日曜日、私は毎週のように公園に足を運んでいた。
目的は良く言えば人間観察、悪く言えば男漁りだろう。
ここバーツクの中央公園には様々な人々がやって来るので、もしかしたら理想の殿方が現れるかもしれないと、通い詰めてそろそろ三ヶ月目。
いい加減、河岸を変えたらいかがですか?
そうぼやいたのはフランツさんだったか。
彼は何かにつけてツヴァイスくんを私に進めてくるが、彼は何て言うか生理的にダメダメである。
確かに世間一般の基準で言えば彼がイケメンなのは私も認めよう。私がアイドルをプロデュースする立場にあるのならば、彼を全力で後押ししても良い。
だがあの男はしょせんはそれまでだ。
傍目に観察するぶんには良いが、恋人とかそういう関係になるだなんて一切考えられない。
実のところ彼とはいわゆる幼馴染みと言うヤツだ。なので顔を会わせれば会話はするし、彼の趣味嗜好はある程度把握している。
ぶっちゃけ彼が私に好意を寄せていることすら理解している。
だが、だからこそ私は余計に彼の事が好きになれない。
付き合いの古い友人としては信頼するが、あのヌメヌメとした男性上位な考え方を私は受け入れられなかった。
異世界から輸入されたとある小説に出てくるヒロインが、自分に好意を寄せてくる博士を相手に「生理的に無理」だとプロポーズされても拒絶するシーンを読んだときなどは、そうだよそれそれと心のなかで喝采を送ったものだ。
まあ、例の小説に出てくる博士くらい誠実かつ一本木な男ならば、私もツヴァイスを少しは見直してやっても良いのだが。
そんなぼやきを頭に抱えつつ、私は公園に出入りする男性を眼で追い続ける。
その中には写真の彼程ではないものの、気が合いそうな男性も何人か見かけるが、私は声をかけない。というのも、そういう男性に限って奥方や恋人を連れているのだから当然だろう。
子供まで居るようならば、伴っている奥方を羨ましいとさえ私は思うほどだ。
今日も仲睦まじい若い夫婦を見ては羨んで、独り身の男を見れば落胆のため息。繰り返すうちに喉が乾いていき、いつに間にかボトルの紅茶は空になっていた。
「屋台は……混んでいるし、自販機でいいか」
公園の中で飲食物が購入できるのはスイーツの屋台と飲み物の自動販売機の二つだけ。そのうち屋台は正午と言うことで人が並んでおり、すぐに買えるのは自動販売機の方だけだった。
私は缶入りの紅茶を購入すると、事前に持ってきていたお弁当をどこで広げようかと辺りを見回しながら歩いていた。そんな最中である。わたしはすれ違った男性の顔に衝撃を受ける。
「ばっ!」
驚きと共に振り向いたのだが、彼の姿は既になかった。
どうやら見失ってしまったらしい。
「まさか、まさか!」
だが諦めきれない私は昼食もそっちのけで園内を散策するが、結局日が暮れるまで彼の姿は見つからない。
夢に見てきゃっきゃうふふと戯れる程のあの顔を私が見間違えようものか。傷こそ付いているが、あれはまさに写真の彼そのものだった。
流石に百年以上も昔の人間が、あの当時の姿のまま生きているとは思えない。それでも孫か曾孫と言われれば、いっそのことクローン人間でも納得してしまうほどに先程の彼は瓜二つである。
「また来週、会えますか?」
結局、この日の私は彼を発見できず、食べ残した弁当を片手に家路につく。
すれ違って逃してしまったと言う落胆の色は大きいとはいえ、瓜二つの人物が実際にいたことに私は心を奪われた。
次に会ったときは押し倒すつもりでアタックしよう。
自宅のアパートでひとり弁当を腹に詰めながら、私は未来の私に誓う。
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