糀谷 祐希(コウジヤ ユウキ)の場合⑩
私自身は納得いかなかったが、美希の言う通り私の感覚がずれているかもしれないのはあり得る話なので、客観的に判断してもらおうとミリヤさんに連絡を取った。
ミリヤさんの占いは、初めての人は三ヶ月待ちの予約が必要だか、一回面識がある人はミリヤさんの直電を教えてくれて、空いていれば相談に乗ってくれる。
「いらっしゃい。どうぞ」
「どうも…」
「あら、かなり重症ね。どうしたの?」
顔を見るなり言われた。
早速私はミリヤさんの占いの後、変化を感じて、実際に良い出会いがあり、つい数日前まで幸せいっぱいだったことを説明し、感謝の念も伝えた。
そして、その後、ここ数日の「悲劇」について語り、未だ彼から返事がこない事実を告げた。
「んー確かにお友達の…」
「美希です。」
「そう、その美希さんが言うことは最もだと思う。」
「うぅ」
ちょっと泣きそうになる。
「あ、でも、あなたの言い分も分からなくはないわよ。」
「……。」
「あなたは、正直すぎるというか、思ったことは口に出すタイプなのよね。」
確かにそうだ。
あまり意識したことはなかったが、仕事でも、友達とかでも、最初は黙って聞いてるけど、自分でもわからないけど、何かのタイミングでスイッチが入ると思ったまんまに話をしてしまう。
それで、誤解を生み仕事の仲間内で変な雰囲気になったり、友達とも、ちょっと疎遠になったこともある。
思い出したが、小学校(多分二年生くらい)の頃、公園で友達数人と遊んでいたら、恐らく木から落ちた小鳥の雛が地面でピーピーと鳴いていて、みんな可愛いと言って近寄り手で包んだりして遊んでいた。
しかし、私はその数日前に誰か(大人)から、野生の動物は赤ちゃんの頃に人の手が触れると匂いがついて、二度と親が近づかなくなり、餌が貰えず飢えて死んでしまう。と聞かされていたので、そのままみんなに伝えると何人かは
「そうなんだ。」
と言って触るのをやめたのだが、割と中心的に振舞っていた女子が
「大丈夫だよ、ほら、ふわふわ、可愛からもっと触ろうよ」
と言って小鳥の雛を離さなかった。
その様子を見て私は
「あなたにその雛は殺されるんだよ。」
と思ったことをそのまま口に出してしまった。
それを聞いた子は悲鳴をあげて雛を放り出してしまい、落とされたせいで雛は死んだ。
周りにいた子どもたちも、逃げるように公園から消えていった。
今考えるととても小学校低学年の子の言い方ではないと理解できるが、この思ったことをそのまま口に出す癖は未だ治ってないと言うことだ。
もちろん、相手を傷つけたり、不快な思いをさせるような発言は控えるようにしている、
つもりだ。(たまに寸止めもあるが)
でも、相変わらず「空気」が読めない。
それが、あまり深い付き合いになってないうちに(特に異性に)セックスの話とかを平気でしてしまい、ドンびかれると言うような事態を招いている。
やっぱり私は少しおかしいのかもしれない。
「で、今回、そのあなたの大らかさが、墓穴を掘ったってわけね。」
「はい…。」
「ふむ…、わかったわ、任せて」
そう言うとミリヤさんは、部屋の奥から箱を運んできた。
よく見るとそれは、寄木細工のような柄で横幅は30㎝くらい、縦は20㎝くらいで、厚みが5、6㎝くらいの平べったいものだった。
開けると中はベルベット生地でできた内箱があり、それを開くと中から、
「きれい…」
思わず呟いてしまうほど、それは深いグリーンのエメラルドとダイヤが施されていて、いずれも美しく輝いていた。
「これを貸してあげる」
ミリヤさんは、そのネックレスを持ち上げながら言った。
「このネックレスはね、ある効用があるの。」
「効用…ですか?」
「そう、ちょうど今のあなたのように、迷いが生じている女性に、進むべき道筋を示してくれるのよ。」
「進むべき道筋…」
なんか、ちょっと漠然としていて、ピンとこなかった。
また、こんな高価そうな宝飾を借りるとはいえ万一無くしたり傷つけたりしたら、とりかえしがつかない。
占い師の話と分かりながら、スピリチュアルな感じが前面に出てるのも宗教っぽく気になった。
「派手なデザインだから、見えるように巻かなくてもいいわよ。今の季節ならまだ首回りを隠すような服でも違和感ないし。」
確かに普通に巻いていたら、どこのパーティに行くのか、聞かれそうなデザインだし、かなり服も選ばなければならないだろう。
「巻くと重いから、バッグに入れてるだけでも、効き目はあるから。」
身につけなくてもいいんだ。
なら、ずっと持ち歩くくらいはできそうだ。
「ただし、毎日必ずバッグとかから出して、部屋の北の方角、窓があればベストだけど、なくてもいいから、そこにこの箱に入れて蓋はせずに飾ってください。」
「……。」
「そして、寝る前でいいから、このネックレスに手を合わせて『今日も一日ありがとうこざいました。』て言って1分間祈りを捧げてください。」
「祈り…ですか。」
「そう、祈り、祈る内容は何でもいいわ。ただし人を呪うような祈りはダメよ。」
人を呪うなら祈りではなく祟りだろう。
「でも、なかなか思いつかないです。祈り。」
「そうね、やっぱり今回は恋愛成就だから、好きな人の名前を呼んで、うまくいきますように、とか言うだけでもいいと思うわよ。」
それならなんとかなりそうだ。
「毎日欠かさずお祈りだけはしてね。」
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