糀谷 祐希(コウジヤ ユウキ)の場合⑦
「おはよ、ユウキ。ん?何?なんか機嫌よくない?」
すぐに態度に出るほう、とは自覚している。
「バレた?ミリヤさんの占い、効果てき面!」
「え?なになに、なんかいいことあった?」
美希に昨日のことを話した。
「まっじでぇ?で、まさか昨日最後まで?」
「流石にそれは。でも、すっごくいい雰囲気でバイバイしたから、多分2回目のデートでは…。」
「うっそ、マジ羨ましい!やっぱ3カ月も待てないわ。」
その日の夜
「ごめんなさい。待ちました?」
「いや、全然、今来たとこだから。」
高富さん、ベタな台詞だけど、優しい。
「何食べたい?」
「あ、えーと、何となく和な気分です。」
「和ね。あーじゃあ、いいとこあるよ。」
連れていかれたのは、古民家のような作りの店だったが、中に入ると雰囲気は明治時代?を思わせるようなドラマのセットのような素敵な内装だった。
席は半個室みたいになっていて、周りや店員さんからも注文を取る時以外は見えない作りになっていた。
「飲み物は…やっぱ和だから日本酒いく?」
「あんまり飲んだことないんですけど…。」
「そう、じゃあ僕が決めていいかな。」
「あ、はい、お願いします。」
こういう時、年上は楽だ。ちゃんと引っ張ってくれる。
お酒が来て、例によって乾杯をして一口含んだ。
「わっ!おいしぃ!なんか日本酒とは思えない爽やかなワインみたいですね。」
「気に入ってよかった。そう、このお酒は
女性に受ける…ひょっとして高富さん、遊んでる?
「飲みやすいけど、飲みすぎて酔いやすいから気をつけてね。」
やっぱ紳士、無理やり酔わせようという作戦ではない。
しかし、念のため
「高富さん、このお酒、結構女性に勧めてるんじゃないですか?」
少し酔った風にして、切り込んでみた。
「え?どうかな。もし、そうだったら…妬く?」
「えっ?」
作戦を逆手に取られた。
顔が赤くなってるのが自分でもわかる。
「あれ、そのほっぺ、チークの赤さじゃないね。」
「知らない!」
恥ずかしさを誤魔化すため、怒ったフリをした。
「ごめん、からかいすぎた。でも、
「もう!バカにしてますよね。」
「いいえ、本心です。」
なんか、もう「恋」だ。
このお互いを意識して、でも、子どもみたいにやりあう感じ。
完璧な「恋」だ。
「あ、この魚うまい!」
「え、そうなんですか?そっちにすればよかったかな。」
「はい。」
彼が自分の箸で私の方に魚の切り身を差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
小皿で受ける。
一口食べる。
「ホントだ!美味しい!」
でも、その美味しさの半分は彼の箸から受け取った「間接キス効果」だった。
なんか、中学生の恋愛みたいで楽しい!
店を出て少し街をぶらついた。
「え、ホントですか?」
「ホント、ホント。マジだよ、この話は。」
「なんかまた、私を騙してからかおうとしてません?」
「違うよ、それに僕は君を騙したりしないよ。」
そういうとさっきまで柔らかな表情で笑顔だった彼が急に真剣な眼差しになった。
その瞳に吸い込まれそうだと感じた次の瞬間、彼に腰をグッと引き寄せられ、あっという間に唇を奪われた。
なかなかの早業だ。
しかも、スマート。
周りに少しだけ人がいたけど、それがかえって刺激に感じた。
「やだ、急に…。」
気持ちとは裏腹な台詞を言うと
「あ、でも、真剣だから。」
嬉しかった。
また、あの真剣モードの眼差しに捕らえられて、返事の代わりに自分から抱きついてしまった。
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