糀谷 祐希(コウジヤ ユウキ)の場合⑥
仕事が終わり帰ろうと思ったが、何となくすぐに帰るのは惜しい気がして、ちょっとだけ街をぶらついてみることにした。
街は春の
いくつかの路面店のウィンドウショッピングを楽しんでいた時だった。
「あのぉ、すみません。三山商事の糀谷さん…ですよね。」
「えっ?あ、はい、えーと、どちら様でしたっけ?」
「あっ、失礼しました。板倉物産の高富です。って言っても覚えていらっしゃらないですよね?」
「あー、板倉物産さんの…でも、ごめんなさい。御社からは色々な方がいらしてるので…。」
「ですよね。いや、私も伺ってからもうひと月以上経ってますし、お会いしたのは一度きりで、しかもご案内をいただいただけで、言葉もろくに交わしてませんから。」
「あ、そうなんですね。お客様としてご案内したということですね。でも、よく名前まで覚えていてくださいましたね。」
「あー、いえ、あのぅ、名札!名札を拝見して珍しいお名前だったからなんとなく覚えて。」
「あー、はい、よく読めない方が多くて。よく、読めましたね。」
「あ、いや、実はその時は読めなくて御社の河上様に伺って知りました。」
「課長に聞かれたんですか?でも、なんで?」
「あー、はい、いや、んー…可愛らしかったから。」
「えっ?」
なんだか顔が熱くなった。
「あ、ごめんなさい。ほぼ初対面なのに、失礼なこと言って。でも、失礼ついでですけど…タイプなんで。あ、いや、すみません。」
「うふっ、うふふふ。」
大胆なことを言っておきながら
そこで立ち話もなんだからと食事に誘われた。
近くにちょっと洒落た感じのイタリアンがあり、そこに入った。
「こっちのほうは?」
と言って、グラスを傾ける仕草をされたので
「あ、嫌いじゃないです。」
と答え、二人でワインのハーフボトルを頼んだ。
「あ。じゃあ、二人の出会いに乾杯!」
「プフッ!」
決してかっこ悪くはないのだが、なんかクールな感じじゃなく、可愛い系の顔立ちなので、そういう
「ひどいなぁ、まぁ、自分でもキザな台詞が似合わないのわかってますけどね。」
少し膨れた感じで話した。
「ごめんなさい、そんなことないです。でも、高富さんて、どちらかと言うとちょっと可愛い系だから。」
「はぁー」
大きなため息をついた彼は
「それ、男としては、褒め言葉になってないですから。でも、いつもそういわれちゃうんですよ。」
ちょっと
「いや、でも、母性本能くすぐるタイプじゃないですか。」
「えー、でも、もうちょい男らしく見られたいです。」
「んー、何がいけないのかなぁ。」
そう言って彼の顔をジッと見つめた。
彼が真っ直ぐに私に向き合う。
その目を見つめた時、なぜかこちらが恥ずかしくなった。
「えっ?なんですか?!思うところあったら言ってください。」
私が思わず目をそらしたことを何か思いついたと勘違いしたらしい。
「あ、ううん、あーえーと、髪型!髪型をもっと短髪にして上げてみたらどうですか。」
苦し紛れに適当なことを言って誤魔化した。
「髪型、ですか。でも、実は髪の毛柔らかくて、整髪料のハードでもピンとは立たないんですよ。」
真に受けたらしい。
「あー、でも、可愛らしいって言われて嬉しくない気持ち私もわかります。」
「えっ、そうなんですか?」
「はい、私も自分で言うのはなんですけど、小動物系で可愛いとは言われるんですが、もっとこう女性として、みられたいです。」
「女性として?」
「はい、なんていうか、例えば色気があるとか、、」
「色気、充分あります。」
えっ?あ、ミリヤさんの化粧効果てき面
「女性として、可愛らしいだけじゃなく、色気もありますよ。」
「そうですかぁ、少し酔ってます?」
「いや、まだ半分も飲んでませんから、ほぼシラフです。」
「嬉しいです。あ、ところで高富さん、おいくつですか?」
「はい、32です。」
5つ上か。
「失礼ですが…。」
「27です。」
「あ、ちょーどいいですね。」
実は私も同じことを思ったが
「何がですか?」
ちょっといじわるしてみた。
「あ、いえ、なんとなく年齢的にっていうか。」
「あー。」
わざとらしい。
「じゃあご結婚は?」
わかっていたが、わざと聞いてみる。
「もちろん独身です。じゃなきゃこんな風に誘いませんよ。」
真面目なタイプ
「私もまだ、独身です!」
そう言ってワイングラスを掲げた。
そこに彼がグラスを合わせてきた。
「うふふ、出会いに乾杯ですね。」
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