坂本 馨(サカモト カオル)の場合②
「お疲れさま。独り?」
「あ、はい、お疲れ様です。独りです。仕事が遅くて今日は取り残されてしまいました」
室長は優しかった。
仕事の面では厳しいことを言われることもあったが、よく仕事の様子を見てくれていて、さりげなく律美さんや真理佳さんに私をフォローするように言ってくれていた。(真理佳さんからそのことは聞いた)
「いやいや、仕事は完璧だよ。遅くもない。今回はちょっと量が多すぎだ」
そう言ってにっこりと微笑んでくれた。
「いえ、まだまだです。きっと律美さんなら、こんな仕事半日で済まされます」
「律美くんと比べる必要はないよ。君は君、キャリアを積めば、彼女くらいテキパキできるようになるよ」
そう言いながら、サーバーからコーヒーを淹れて私の前にそっと置いてくれた。(自分が飲むために淹れてると思ったのに)
思わず体の芯のところが、ホッコリと温かくなった気がした。
少し雑談をした後
「そろそろ帰るけど、どうだい、今日はその辺にして、ちょっと食事でもしていかないか?」
「え、そんな、食事だなんて……おうちに帰ってされないんですか?」
「あー今日はうちの奥さん、外出でね。『今日は外で食べてきてね』なんて軽く言われたよ」
「うふふ、そうなんですか」
よく知らないのに、奥さんの言葉のモノマネ口調がおかしくて、思わず笑ってしまった。(私は普段、無表情なのだが、おかしなことに敏感ですぐに笑ってしまう。そのギャップが魅力と言われたこともある)
「え?おかしかった?奥さんのモノマネ?でも、こんな感じなんだよ本当に」
「そうなんですか。すみません。つい笑っちゃって」
「やっぱり君は笑顔が似合うな」
「え?」
突然のほめ言葉(?)に思いっきり照れた。(顔が赤くなってる自覚がある)
その表情に気づいているのかいないのか、話をそらすように
「じゃ、そろそろ行こうか、何が食べたい?」
こうして、山埜室長と食事、しかもディナーを一緒にすることになった。
今まで昼ごはんなら、女性秘書のどちらかと室長同伴で行くことはあったが、二人きりでしかもディナーなんて初めてだからそれなりに少し緊張した。
結局私が食べたいものを言わなかったために、山埜室長行きつけのイタリアンに連れて行ってくれた。
「少し飲もうよ。一杯だけワイン付き合ってほしいな」
普段社内の集まりでは飲まない私に気遣って言ってくれたが、すみません、室長!結構飲めるんです。(心の中で舌を出していた)
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